20 (MAD編集-パッチワーク-)
レナ達がファントムで編隊を組み、バベル島に向かっている最中にクオリアがファントム経由で動画を送って来る…。
私はそれをトヨカズ達にコピーして送り、内容を確認する。
今は機体をオートパイロットにしていて 勝手に目的地付近まで移動してくれるので動画を見る時間はある。
『我々はブリューゲル同盟であります…。』
白いYシャツに今時珍しいネクタイをしっかりと締め、黒い背広を着た青年が カメラの前ではっきりとした声で言う。
施設の背景には 星空の宇宙と青白い地球が大きく見える…宇宙ステーション?
『現在、我々の同志が バベルタワーの低軌道ステーション及び、静止軌道ステーションの制圧を完了しました。
我々人類は母なる地球の重力と言うゆりかごから離れ、宇宙にスペースコロニーと言う人工の大地を造り…母親からの独立を成し遂げられました。』
宇宙に建設された大量のスペースコロニーが映し出され、作業中のDL部隊にアップになる…コロニー建設作業に携わるDLだ。
『ですが、ピースクラフト都市は 軌道エレベーター『バベル』の権利を占有し、我々の宇宙への進出を妨げています…。
母親の元に残りたい…親から離れて独立したい…。
考え方は 人それぞれの自由です…。
ですが、私達が独立する可能性を摘み取る この行為は断じて許せません…。』
青年は舞台役者のような大きな身振りをして動画視聴者にアピールをしつつ言う。
『更に、我々同盟はピースクラフト都市の平和の価値観に基づき、武力を使わずに平和に解決しようと ピースクラフト都市に外交官と使節団を向かわせましたが、それに対する回答と言わんばかりに 外交官及び使節団を殺害…。
これが彼らが望む『平和の都市』のやり口です。』
上空から撮影された映像が画面に映し出される…。
DLの手に立ち、両手を伸ばして抗議する私服の少女が20mm弾で上半身が吹き飛ぶシーンだ。
海岸から上陸してくる敵歩兵部隊を守る為に武装した敵パイロットが乗るDLをピースクラフト都市の同盟国であるスレイブロイドファクトリーのDL…ドラムキングが片っ端から破壊し、パイロットは 上半身が吹き飛ばされて行く…。
『彼らは口では平和と言いつつも 武力を行使し、交渉の為の口さえ持たない都市です…。』
更に続いて、トラックの荷台を破壊し、駐機姿勢でコックピットブロックを開いた状態で休憩しているパイロットを撃ち殺し、付近にいたDLのメカニック班を吹き飛んでいく…。
DLを破壊し続けているのは ボックスライフルを持つ緑色の量子光を放つ空飛ぶDL…4機のファントムの姿が映し出される。
敵歩兵部隊を守る為に敵パイロットがファントムに向けて20m弾を撃ち続けて弾幕を形成…。
ファントムは盾で防ぎつつ…雲の上に上がって行く…。
そこからは 地獄の光景だった…。
人の血しぶきが絶えず流れ、砂浜が血で赤く染まって行く…。
ドラムキングがDLのコックピットを撃ち抜き、パイロットは死亡、人の盾としてDLの腹部で手を広げていた可愛い少女達の上半身が吹き飛び、バランス制御を行っていたパイロットを失いバランスを崩して倒れる…。
地上の護衛部隊も達も上半身を持っていかれ、下半身だけが地面に横たわる。
上陸し、塹壕に向かって必死に走っているが、護衛部隊は立った状態のまま 一瞬で上半身が無くなり、バランス制御を出来無くなった下半身が倒れた。
そこに手加減も殺す事への躊躇も慈悲も無い…。
ドラムキングは 確実に殺せる頭を狙っているのだろうが、使っている弾は20mmだ。
アサルトライフルの弾の30倍近い威力を持っているせいで、次々と上半身が吹き飛んで行く…それをフルオートで、更に一発も外していなく全弾が命中している。
開始10秒で使節団とその護衛の半数が吹き飛び、護衛部隊は戦意喪失…銃を捨てて、その場にへたり込んでしまった。
次の光景は アサルトライフルを持ったドラム部隊とトラックがやって来て、使節団を捕虜として拘束し、荷物のように荷台に詰め込んでいく。
そして別のトラックの荷台に『死体に人権は無い』とばかりにドラムが無造作に回収した下半身を袋詰めして積んでいく。
そして、それは恐ろしく効率が良く無機質な光景だった。
『今、この光景をご覧の視聴者の方…使節団を殺すピースクラフト、スレイブロイドファクトリー、砦学園都市の同盟をはたして許せるでしょうか?
そして、彼らの行いは正義でしょうか?
以上の理由から我々『ブリューゲル同盟』はピースクラフト同盟に対して徹底抗戦を行い、バベルタワーの奪還…。
及び、地球連合主導に置けるバベルタワーの共有化を行い、私達は宇宙に向けて進出します。
視聴者の皆様もどうか この問題を理解し、数が少なく、戦力が30倍であるブリューゲル同盟に対し、民衆による正義を行って貰える事を期待しています
以上です…ご視聴ありがとうございました。』
青年は頭を深く下げて動画は終了した。
『やられた…敵部隊の中に外交官を紛れ込ませていたのか…。』
トヨカズが言う。
「いいえ…多分、死んでから外交官に任命したのよ…。
マズイわね…これで 私達は地球の敵になった。」
『はぁ…こんなクッソ忙しい時期に地球では本格的に内戦かよぉ!』
「忙しいからチャンスなんでしょ…戦うのは 主にコロニー国家だし…。
ヤツらの狙いはワームに勝った後の軌道エレベーターの利権…。
ポジトロンが勝ち確定宣言したから、戦後の自分達の利益を考え始めたって訳…。
勝ち確定と 言っても人類が生き残っていると言うだけで、地球が消滅する可能性もあるって考えないのかしら?」
『考えて無いんだろうな…。
で如何する?』
「映像の地球を見る限り、彼らがいるのは 低軌道ステーション…。
ここを物理的に制圧すれば 軌道エレベーターを掌握して『ワイヤーを切断するぞ』と脅しを掛ければ 地上の部隊も下がるでしょう…。
それに私達側としては切断した方が利益が出るしね…。」
『?如何言う事だ?』
「今 地球上で ナノカーボンチューブの技術を維持している所は、砦都市と工業都市のインダストリー、スレイブロイドファクトリーの3都市…エクスマキナ都市も作れるけど量産は無理。
つまり、切断された場合 復旧に私達の同盟が必ず関わる事になるから、雇用が生まれて私達は 今回やらかした大量の国が出す出資金で利益を出せるって訳…。
それとファントム家電が普及する前提なら、軌道エレベーターの復旧は されずにこっちは利益は出せないけど、ファントムの普及を加速させる事が出来るから…つまり私達は 切断した方が得なのね…。」
『それじゃあ切断か…。』
「いやいや…今言ったのは あくまでサブプラン…。
メインは制圧よ…。
クオリア…聞こえる?
ナオ達は如何するの?」
『低軌道ステーションの制圧は任せる。
ただその上の静止軌道ステーションの制圧は私達でやる…。
それと…トヨカズ…M4で外壁部分に撃つなよ…。
9mmなら十分に耐えられるが、5.56mmだと抜いてしまう可能性がある。
一応空間を持たせた複合装甲になっているから、宇宙ステーションが内部の圧力で破裂…何て事にはならないと思うが…。
外からの衝撃には強いが 内側からだと意外と脆い構造になっている…。
使うなとは言わないが 使い所は考えてくれ…。』
『くそっ本当にアサルトライフルって使い所が難しいな…。』
『なら『タングステン徹甲弾』は やめといたほうがいいかな…。』
トヨカズとカズナが言う。
「分かった…。
それじゃあ…皆上がるよ…。」
バベル島に向かっていたレナ機を先頭に高度を上げて行き、綺麗な編隊を組み加速し上昇して行く…。
目標は低軌道ステーション…。
周囲にはDL部隊がいる…多分戦闘になるでしょうね…。
『レナ!!後ろ…回避!!』
加速を開始した所で 突然 後ろからトヨカズの声が聞こえる…。
『むり』『当たる』
キョウカイ小隊はこちらよりか速度の速い直径6kmのコロニーの端に衝突し、押される形で更に加速する。
「うぐぐぐぐ」
加速Gに必死に耐える…機体は問題無し…。
『悪い…聞こえるか?』
「その声はナオキ?」
『てことは これがタイムマシンか…。』
『低軌道ステーション横を通過するから、それまでに降りろよ…。
修正が効く範囲のはずだ…。』
「いくら何でも無茶苦茶過ぎぃぃぃぃ」
加速Gに耐えながら如何にか言葉を紡ぎ、私が言いつつコロニーの正面に足を付いて走り出す…。
『直径6kmのコロニーが衝突を回避出来る訳無いだろう…。
ちゃんと事前に飛行計画を出しているからな…無視したのは そっちだ…。』
「てっ言っても、こっちは コパイを積んでないんだから しょうがないでしょ おおおお」
明らかに非はこちらにあるのだが、意識を保つ為、私は怒鳴る…。
『後10秒…』
低軌道ステーションを制圧して警備中の敵DL達が事前にコロニーが通過する事を知ってか、慌ただしく回避行動を取っている…。
如何にか間に合った…。
キョウカイ小隊のファントム達は0カウントでコロニーから飛び降り、低軌道ステーションの横20km地点から再加速をし、低軌道ステーションに向かう…。
宇宙の尺度だと この距離は割と近距離になる。
加速中に後ろを見ると上昇して行くコロニーの側面には希望を意味するHOPE!!が大きく塗装されていた。




