09 (ネット封鎖)
「さあどうぞ…」
夜、ピースクラフト都市の王城でレナ達への歓迎会が始まった。
私はパイロットスーツの上から外交用のスーツを着ていて 他の3人は パイロットスーツ姿のままだ。
私も含め 各自の腰のホルスターには 銃が収められており、トヨカズの後ろにある壁にはM4が立てかけられている。
外交の場で銃を大っぴらに出しているのは 相手国を警戒していると取られるのだけど これは仕方ないか…。
テーブルの上には 肉料理を基本とした洋食の大皿が並べられており、それぞれの皿に自分で盛り付ける方式になっている。
メニューを見ても エクスマキナ都市のような それぞれの好みに合わせた選択はされていない…見栄えを重視した料理だ。
ヘンリー・ピースクラフトは ここの都市システムのエンジニアだったこともあり、見栄えの悪い 慣れない手つきでローストビーフを厚切りで切り分け、自分の皿に盛り、スパゲッティなど豪快に持って行く。
私は テーブルマナーなど皆無のメンバーの為に皆の皿を集め、トングで野菜を掴んで皿の上に敷き、その上にマッシュポテト、ミニトマトをそえ、最後に丁寧に薄切りにしたローストビーフを複数枚そえ、彩りを考えて盛り付け、見栄えを意識した動作で 皆に料理を渡して行く…。
後は この下地に各自の好みでスパゲッティなり、唐揚げなりを盛れば 完成だ。
「ほう…お見事…。」
ヘンリーが私の作品を見て 思わず言う。
どーだ…エクスマキナでは 惨敗だったけど、今回は私の圧勝ね…まぁ向こうは 見栄えを気にして いなのでしょうけど…。
「では…いただきます。」
「「いただきます。」」
「Thanks for the food(食べ物に感謝)」
それぞれの形で食べ物に感謝する。
さぁて…お肉は如何かな~。
トヨカズ達が食べる前に 私が多少急いで一番先にフォークを丁寧に使い 美しくローストビーフを口に運び 噛み締める…うん美味しい。
これは 私が先に食べる事で『相手が料理に毒を仕込む可能性が低く 相手を信用している』証明になる。
これが 相手に先に食べさせたり、トヨカズ達 私の護衛が先に食べた場合『毒見』をさせてると相手に取られる。
更に国同士が敵対していた場合は 作った側が先に食べて『毒殺の危険性は無い』と証明するのが普通だ。
「あれ?この肉って…。」
柔らかく旨みが あり、適度に脂肪がついている…牧草では無く穀物を食べて育っていて 一頭一頭 牛小屋で育てる牛小屋飼育となると1ヵ所しかない。
「あっ気づきましたか…。」
「インダストリーワンの天然肉よね…。」
「ええ…故郷の味が良いと思いまして…この肉を選びました。」
「それは皮肉ですか?
これを食べられる階層は 本当に限られているわよ…。」
私もAR肉を造る時のデータ取りに高額で買い付けた1回だけしか食べた事が無い。
まぁデータを取った後は VR上で沢山食べていたから インダストリーワンの肉だって 分かったんだけど…。
「これはキース・ピースクラフトが 好んで食べていた物だそうです。
彼の肥満の原因は これでしょうね…。
インダストリーワンの政変の影響が今月の始めに現れまして、生産量の激減による価格の高騰が始まっています。
それに ともなう買い占めや転売も…。」
政変?なるほど…私達がインダストリーワンで やらかした影響が今になって現れて来たのね…。
「それじゃあ コレ…結構な値段になったんじゃあ…。」
「いえ…こちらは真空包装されていたキースの備蓄品です。
1年は持つらしいのですが…流石に備蓄量が多すぎて消費仕切れないので 半分はこの機会に売っています。
残りの半分は宇宙に輸出する為の物ですね…。」
「宇宙では 牧畜が出来ないから相当に高く売れるでしょうね…。」
「ええ…今後 コロニー船団は 太陽系から脱出して 天然肉が食べられ無くなる訳ですから 持って行ければ かなりの高値で売れるとは思うのですが…。
コロニーが木星に移動し始めたので、向こうが肉を手に入れる事は ほぼ不可能な状態になっていますね…。」
私は ヘンリーと肉談議をしつつ それなりに食事を楽しんだ。
『アラート!!アラート!!』
食事中に部屋に配置されているスピーカーから警報が鳴り始める。
「如何しました?」
ヘンリーが耳に手を当てて黙ったまま誰かと話している…それは このアラートの原因だと言う事は明らかだ。
私は グロックを抜き、トヨカズは壁に立てかけてあるM4を取り、この状況に備える。
それを見たカズナが食事をやめてPP-2000を取り出し、ロウは これからしばらく 食事が取れなくなる かもしれない事への備えなのか、自分の皿の食べ物を口の中に押し込み、頬をリスのように膨らませながら PP-2000を取り出す。
警報が鳴り終わると ヘンリーは即座にARウィンドウを複数展開し、物凄い速さでARキーボードに入力して行き、状況に対処して行く。
私には状況は分からないけど ヘンリーの表情から 相当に切迫した状況だと言う事は分かる。
「対応パターンF4、F12を実行…。
よし、発生源から経路を逆探!…1番から9番か…クソ、量子通信の物理切断を行う…ああ 相手がエレクトロンの可能性もあるんだ 復旧は考えなくて良い…。
相手の出方が分からない以上、今は この都市をワールドネットから切り離すのが最優先だ。
例え それが敵側の狙いでもな。」
ヘンリーがARウィンドウのボタンを押し 爆発音が聞こえ、トヨカズに私の頭をつかまれて しゃがまされる…近い…この屋敷内?
「ふう…過去12時間のシステム履歴を検査…潜伏中のプログラムを探せ フルスャンを掛けろ。
都市民への通告は任せる…よしっと…。」
状況が落ち着いたようで ヘンリーが顔を上げARウィンドウを閉じる。
「一体何が?」
私がヘンリーに聞く。
「ワールドネットからのクラッキングです。
それも都市システムのメインプログラムを書き換えようとするS級の…。」
「大丈夫なの?」
私がヘンリーに聞く。
ケインズのライフラインシステムが書き換えられれば 住民の生活に支障が出てくるし 死人が出る事も十分にあり得る。
それだけ 都市民はケインズシステムに依存した生活を送っている。
「ええ、ワールドネットに繋がっている量子通信機を爆破して物理切断しましたので…大丈夫です。
今 入り込んだプログラムの確認中です。
とは言え、この都市をネットから孤立させるのが目的でしょうね…。」
「同盟の書類は?」
「こちらに…。」
ヘンリーがカバンから書類を取り出し、私に渡す。
「うーん これじゃ アントニーが納得しない可能性がある。
私がアントニーの代理で条約の交渉をするから ここで書類を作成して…。
朝一で 砦学園都市に戻ってアントニーに判を押させる。
そっちも2度手間は回避したいでしょう?」
「分かりました…ここで 交渉に入りましょう…。」
私達はグロックをホルスターに入れ、食事を片付けて ヘンリーとの交渉に入った。




