05 (新しい仲間たち)
ナオが選らんだ高校は、ナビゲーターズ高等学校と言う学校だ。
ここでは政治、経済をメインにした指導者を育てる為の学校になる。
そして今日が転入1日目である。
時間は午前 7:00時…。
窓ディスプレイから映し出される朝日で 目覚めたナオは 手早く身支度をする…案内役の生徒が迎えに来てくれる事になっていたはずだ。
何事も始めが肝心と就活規定のオフィスカジュアルにそった服装を着て登校時間を待つ…
7:30…。
登校時間になり そろそろ登校しなければならなくなった時、ドアのチャイムが鳴った。
ドアを開けるとそこにいたのは、オレより頭の半分程 身長が高い16歳位の男だった。
茶髪の ぼさぼさ頭、着崩した私服を身にまとい、全体的にだらしない印象を受ける男だ。
「ガイドを頼まれた豊和なんだが、アンタがナオさんかい?」
「ああナオトだ、よろしく頼む」
トヨカズは オレに握手を求め、オレは それに応じた。
12階建ての学生寮を出た オレ達は、隣の区画の学校区画に行く。
『砦学園都市』と呼ばれるだけあって、高等学校と大学がひしめく この区画は、この都市の区画の中ではかなり大きい区画だ。
「それにしても、普通に歩けるんだな…普通なら半年は掛かるんだぞ」
「そうなのか?まぁ3日までは地獄だったが、それを過ぎれば割と」
「へぇ……ナオは機械との親和性が高いんだな……よっと」
トヨカズは 電動キックボードを低速で走らせ、徒歩のオレのペースに合わせてくれる。
「移動はキックボードが基本なのか?」
オレはトヨカズに聞く。
「後は自転車だな。
交通機関が しっかりしているから徒歩の方が多い位だし」
「自家用車の個人所有が禁止されていると聞いた」
「そ、ただでさえ狭いのに駐車場のスペースなんか取る訳には行かなかいだろ」
トヨカズが指を差す。
指の先を見ると普通のバスを長さを半分にした大きさの車が こっちに向かって走ってくる。
「ここの交通機関は、バスとタクシーの中間のバスタクだ」
「あれ電気自動車だよな」
電気自動車だと言うのに、ガソリン車のエンジン音を鳴らし、横を通り抜ける。
バスタクに乗っているのは 学生で、運転席には ハンドルといった機器が見当たらなく、代わりにドラム缶型のロボットが取り付けられている。
おそらく あのドラム型ロボットが運転している自動運転車だろう。
道路は日本と同じ左側通行で、バスタクが片側交互通行の工事現場の前で停止し、すぐに移動を再開する。
「昔だと相乗りタクシーが正しいのか?
呼ぶと近くの道路まで来てくれて、目的地の別の客を拾いながら行くって言う」
「なるほど それでバス停が無いのか」
「そ、後は 電車の変わりの『動脈』なんだが、これは今度だな…」
歩道から工事現場を見るが 道路が蓋のように開いていて、水道管や電線なんかのインフラが下に通っている。
どうやら道路の下にインフラ用の地下室があるみたいだ。
今まで道を歩いて来たが この都市には 1、2階の低い建物は見当たらず、遮光の関係も考慮して建物の密度は低いものの、12階建ての建物が殆どだ。
しかも モジュール化されているのか建物の1ブロックがすべて同じ大きさで それを組み合わせて造られている。
途中、建設中の寮の工事現場を通り過ぎ、そこには人の形をした機械の巨人、大型二足重機『DL』が足を折り畳み、後ろに手を後ろに伸ばして身体を支える駐機状態で 数機が待機している。
「DLなんてまだあったんだ」
「戦場に出たのが旧暦の1940年で、今が旧暦で2600年だから…660年前か?
今使っている規格も2020年の完成版DLのままだし、アップグレードも簡単なもんで今でも変わらず世界の主力機だな」
「人間を規格にしたんだよな」
まだまだ記憶がはっきりしないが、オレがDLに乗っていた事は覚えている。
「そう、どこにいようが機械を扱うのは人間だから人体の規格が一番廃れないと考えたんだろうな…」
20分程の通学時間で無事、学校に到着する。
校庭や体育館は見当たらず、エレベーターの自動ドアを大きくしたような頑強なスライドドアに、路上に止まる複数のバスタクから降りてくる学生が、まるで吸い込まれるかのように中に入っていく…ロッカーはあるが、下駄箱の類は無く、ここが土足文化だと言う事が分かる。
校舎はさっきいた学生寮と同じ形をしていて、壁の塗装は違うし階数は低くなっているものの、やはりモジュールを組み合わせた6階の建物だ。
オレの教室は1年A組で2階にある。
トヨカズも1年A組の同じクラスだ。
教室に入ってみると、10歳位の少年少女が半分、高等学校を2、3週してそうな若い男女が半分といった感じだ。
男女の比率は、女が7割、男が3割、と言った所で、サイボーグ化される前は 20歳だったが、今は肉体年齢13歳といったところなので、そこまで違和感が出ていない。
席は6(横)×6(縦)の36席だが、机は無く黄緑色の椅子だけが並んでいる。
トヨカズが横に2人座れるように 右の一番後ろに座る…どうやら自由席のようだ。
オレは その隣に座り、カバンを椅子の下のカゴに入れる。
椅子の右に可動式のテーブルが取り付けられていて、これを正面に持ってきて授業を受けるみたいだ。
さらにテーブルの椅子の接続部分には まだ現存しているUSBポートが6つあり、床のUSBコンセントに差さっている。
座り心地は良く、さらにリクライニング機能付きの未来の椅子だ。
隣では、物珍しそうに椅子を見ているオレをトヨカズが笑いながら見ている。
ガラガラ
ドアが開く音がし、外から担任の先生が入ってくる。
「ほら席に付け チャイムがなるぞ」
開けたドアを閉め顔が こちらに向いた担任の顔にオレは見覚えがあった。
「あっ」
思わず声を出してしまう。
私服に白衣を着こんだ女性は カレンだった。
「あーそういえばウチのクラスだったな、カレンだ…科学と機械工学を担当している。」
「?……保健の先生だと思ってた。」
「昔見たいな医師は もういんよ。
診断と治療を すべて機械でやる以上、必要なのは機械の技術者…つまり科学と機械工学だな」
そこで丁度チャイムがなり、カレンが教壇に上る。
「という訳で、そこにいるのが『カンザキ・ナオト』2020年から再起動させた。
ここの事は データでは知っているが、いろいろ教えてやってくれ」
はーいと周囲の声がし、昔ながらの出欠を取る…ここは昔と変わっていない様だ。
さてナビゲーターズ高等学校の授業なのだが、基本的に単位とテストで合格点を取れば卒業出来る。
自分の進路に必要なカリキュラムに参加し、講義を聞いて筆記や実技の試験に受かれば良い。
高校と言われているが、仕組みとしては 大学に近い…と思われる。
と言う訳で、カリキュラムを選んでいない オレは受ける授業 その物がない。
まずは卒業に必要な基本知識の講義を取り、派生技術は後で決める事にする。
政治経済の基礎講義を受けに オレとトヨカズは教室を出た。
といっても大きな部屋とかではなく 普通の教室で、年齢も様々で、下は10代から上は40まで様々だ。
単位には加算されないものの、規定人数以下なら一般人の飛び入りも可能だ。
その中で特に気になったのは、メックと呼ばれるスマホを操作している暗い赤の長髪の女性と、その隣で座っている10歳程の少女だ。
銀色の長い髪は腰当たりまで達している可愛らしい女の子で、耳には 飛行機の翼を縦にしたような形のヘッドホン風の耳…一言で表現するなら『メカ耳』がついている。
「あーメンテナンスから戻ってきたのか?
てか…まだ 小さいままだな…再調整するんじゃ無かったのか?」
隣にいたトヨカズは 顔見知りだったのか 少女に向かって言う。
「昨日戻ってきた。
こっちが慣れているから このまま行くことにした…また よろしく頼む」
独特の言い回しの少女が返答をし『こっちにこい』と手招きする。
ナオとトヨカズは近くの席に座る。
「私がメンテナンスで帰省している間に色々あったみたいだな。
トヨカズ…そっちのハイブリットを紹介してくれるか?」
「オレの信用を担保にしたいのか?
まったく直接聞けば良いってのに…。
コイツは『カンザキ・ナオト』で、ナオ…2020年に脳だけコールドスリープさせて、この前 再起動した。」
「……2020年…旧時代の人か、エレクトロンの『クオリア』だ。
よろしく頼むナオト」
「こちらこそクオリア…で、隣の方は?」
オレがクオリアに聞く。
「レナだな…レナ、自己紹介」
「はいはい『レナ・トニー』です。
てか、何を話せばいいのよ?」
暗い赤色の長い髪の女性…レナは、クオリアに向かって言う。
「立場や身分だな、都市長の娘で、役員ではないが『強権』を持ってる。」
「強権?」
「強制命令権…一応、民主主義になっている役員の意見を無視して強制的に可決する権利よ…まぁ私は使う気はないけど」
「は?一国の大統領みたいな権限を持っているのか?」
オレは驚く…完璧にお姫様じゃないか。
「権限を持ってたって使ったが最後、こんな日常を捨てないと いけないのなんてゴメンよ」
レナは今の立場が心底面倒なようだ。
「えーとクオリアは、エレ…クトロン?なんだよな…それはロボット?」
銀髪の少女、クオリアの見た目はメカ耳以外は人と同じで、見分けがつかないレベルだ。
とは言えオレみたいなハイブリッド義体が存在出来る世界なら、こう言うロボットがいても 不自然しくは ないのだろう。
「ナオはエレクトロンの情報は 持っていないのか?」
「オレの時代には 無かったからな」
「エレクトロンが生まれる前か…。
私達はヒューマノイドから独立して生命体と認められたヒト属亜種のエルフと呼ばれている。」
「エルフ?確かに耳は長いが、メカ耳なのに?」
「ナオトの言っているエルフは、中世に実在した長命な魔法使いの種族だろうか?」
「まぁそれ…。」
てか今、実在って言ったか?本当に中世にエルフが存在したのか?
「私達は、電子生命体…Electronic Life Form…その頭文字のE.L.Fを取ってエルフ…。
今は大体、組織名であるエレクトロンで呼ばれている。
私は第1級人権は認められているし、この都市の法ではサイボーグ扱いで登録されている…。
まぁ人の友人として扱ってくれて問題ない」
「助かる、正直ロボットへの対応の仕方って分からないからな…。
識別はその耳?」
「そう…ヒューマノイドの系列に入る物には、装着が義務付けられている。
ちなみに人間がメカ耳のコスプレをするのは、ここでは法律違反になる…。
気を付けた方が良い」
「いや、しないよ…てか似合わないだろうし」
これはクオリアなりのジョークなのだろうか?
少なくとも、これから楽しくなりそうではあるメンバーだ。
そこでチャイムが鳴って生徒が席について行き、先生の講義が始まった。




