16 (資本経済の終わりの始まり)
太陽系連合コロニーの艦橋…。
巨大な木星を背景にナオとクオリアが乗るファントムと高機動仕様のベックがDLサイズの小型天体があちこちに密集している小惑星帯を高速で駆け抜けて行く…。
「おお…速い」
「それに反応速度も早い…このスピードで被弾無しか…。」
艦橋の上部に拡大表示されているモニタを見て軍事部門の高官達がそれぞれの感想を言う。
「この通り ファントムは、速度 機体追随能力が非常に高い機体になっています。
理論最大速度では光速の99%以上出せるとの事なのですが、現状では亜光速でのデブリ衝突に装甲が耐えられません。」
ブリッジの艦長席の隣に立ち、画面を見ながら機体の解説をしているレナがナオ機のリアルタイム映像を見ながら言う…。
その少し離れた位置にはM4カービンを下に構えたトヨカズがおり、客席を警戒してる。
「操作性能に関しては パイロットの特性に合わせて機体側が最適化していきますので、VRでのチュートリアル訓練が終了したA級パイロットでも十分に扱える機体です。
ベックの性能不足に不満を感じていたS級以上のパイロットもパイロットの性能に合わせて機体が最適化されるので、コストの問題で スピーダーに乗れなかったパイロットにも優しい機体となるでしょう…。」
小惑星帯を抜けたナオ機が そのまま足を上に蹴り上げ、スムーズに反転…そのままスラスターを噴かせ、また小惑星帯に戻る…後ろから追って来たベックも反転するが…少し動きが遅い…。
ナオ機は 今度は小惑星を回避しつつも ボックスライフルで的確に小惑星に撃ち込みながらの移動だ…。
「ふむ…射撃性能も悪くない…。」
「流石に あの機動性能だと外すか…命中率は 7割と行った所か…。」
今度は高官の護衛に付いて来た現場のDLパイロットが言う。
これについてはベックの方が命中率が高いが、ファントムより速度は遅い…。
まぁナオは機体の火器管制ユニット任せで撃つからでも あるんでしょうけど…。
「搭載している火器管制システムはDLと同じ物です…ただ演算にまわせる処理能力が上がっていますので 更に射撃精度が上がっています。」
「確かに優秀な機体だな…それで あの武装は何だ?ショベルか?」
パイロットが手をあげて私に聞く…。
「ええ…仮名称ですが『シャベルシールド』と言われています。
両肩と両肘にマウントし、通常状態では機体を守る簡易シールドに…接近戦時には柄の長さを調節して槍や剣、ナイフのように扱えます。
開発者曰く『接近戦最強の武器』との事ですが…これを扱うには相応の技量が必要になります。」
ナオ機が 高速で小惑星帯を抜けつつ、小さい岩石の塊をすれ違いざまに切り裂いて行く…多少調子に乗っているのか いつもの必要最低限の洗練された動きとは違い、予備動作を多く取り 大振りで見栄えが良い…。
観客用のパフォーマンスね…。
「現状の武装は この2つになります…それとDLの弱点である腹部装甲はこちらにも採用されており、破壊された場合24時間再展開が出来ません…ただコックピットブロックは 別系統で動いていますので、脱出ボットとしては十分に機能します。」
「QDL同士での戦闘ではDLと同じ腹部を狙う事になるのか…。」
「ええ…DLと同じで 武器の火力インフレを防ぐ為の処置です…。
『こちらレナ…規定コースを終了後、その場で待機…。』」
私がナオ機の後ろの席に座るクオリアに通信をし…ナオ機は小惑星帯を抜け、停止した…。
「さて…キミ達が造った作品は見事であった…で、いくらで売るのかね…。」
太陽系連合の代表が私に聞く…。
ファントムの技術はこちらが独占している状態だ…向こうは 技術解析も含めて言い値で払うだろう…ただあまりに吹っ掛けると今後の印象が悪くなる…。
私は少し考える…。
機体の価格は『製造費』『人件費』『開発費』で決まる…『製造費』は インダストリーなんかの工業都市なら10万UMで手に入れる事も出来るでしょうが、こっちの設備の精度と生産数がまだ低く50万UM程掛かっている…。
次に『人件費』…仕事に関わる人数が多ければ 多い程 人件費が かさみ 値段が跳ね上がる…。
これを下げる為には 機械などを使って人の削減と生産効率の向上を行って時間当たりの生産量を上げる事で、キューブ1つ当たりに掛かる人件費を下げる事が出来る…。
生産ラインの最適化が終われば、人員を減らす事も出来るだろうが、もう少しの時間が掛かる…何だかんだで 一番金額の割合が高い所だ。
そして『開発費』…これはファントムの設計に関わった人達の給料、実験費などが含まれるのだが…都市自体が開発費を出しているので 費用を回収する必要は無く、ここは丸々削れる…。
「1機200万UM…ただ それぞれの都市が こちらの規格にそってキューブを用意出来るなら100万UMに出来ます…。」
ベックの場合 武装無しの本体価格で2000万…こちらは武器付きで200万と言う破格の安さだ…。
「200万…予想より遥かに安いな…理由を聞いても?」
「はい…まず ファントムのコアとなるキューブなのですが、まだ製造ラインの最適化が出来ていない為、キューブの単価が高くなる問題があります…。
ですが、いくら高度技術が必要だと言っても、作るのは手のひらサイズのキューブのみ ですので、大規模な生産設備を造る必要が無く、機体の単価を下げる事が出来ます。
それと、基本キューブさえ造ってしまえば 後はデータをインストールするだけですので、金額の大半が ファントムのデータに掛かっています。」
「ふむ…確かにそう考えると、技術が成熟すればもっと単価が安くなるな…勿論 各都市で運用しつつ、時間を掛けて安全確認をして行くのだろうが…私としては ベックの後継機として十分な性能を持っていると判断する…。」
よし…太陽系連合の代表のお墨付きを得た…周りの要人達も異論はない見たいだ…。
「ありがとうございます…。
購入を希望する方は 砦学園都市の専用サイトまでアクセスして下さい。
それと生産数には限りがありますので、1都市に付き、テスト用として6機までとなっています…それ以上必要な方は自前でのキューブの入手をお願いします。
以上です…ありがとうございました…。」
私が頭を下げ、客席から拍手が響く…。
よし…まずは通した…これで ナオが『アイテムボックス』と言う『物質生成機能』が内蔵されるファントムのキューブを これで太陽系中に普及させられる…。
太陽系のDLの総数は予備機や補修パーツも含めれば200万を軽く超える…。
それだけの数のアイテムボックス入りのファントムを普及させ、その機能を解除する為の裏技がネットに広まれば その機能を隠蔽する事も不可能になる…。
その後は太陽系に1万5000基もあるコロニーの移動や発電の為の核融合炉の燃料や空調、水や食べ物の食料品も生産される事になる…。
これで 太陽系の何処の場所にいても 補給を行う事が出来るよりになり、資源衛星にコロニーが密集する問題も回避出来る…まさに良い事尽くめ…そして、それが資本経済の終わりの始まり…。
私は 客席から立ち上がり 後ろの扉から退出している要人を見る…。
『レナ…帰投命令を貰えるか…。』
無線通信でクオリアの声が聞こえる…あっそっかナオ機は 待機させたままだっけ…。
『レナより ナオ機へプレゼンは成功…ナオ機は 天尊カンパニー本店コロニーに帰投…私もトヨカズ機で戻る…。』
『了解した…引き上げる…。』
クオリアがそう言い、ナオ機が隣の天尊カンパニー本店コロニーに向かって行った…。




