10 (無自覚なスパイ)
その日の夜…皆でレストランに行って食事を取り、各自が自分の部屋に向かって行った…。
「さてと…私達はワームとの外交用の翻訳機を完成させましょう…。」
カナリアがハルミとカナリアの部屋のベッドに座って言う。
「ああ…そうだな…。」
私は 近くの椅子に腰かけ、カナリアと作業に取り掛かる…。
ワーム言語…ワームの思考や通信用の規格だろう…。
「基本は 初期型コンピューターと一緒…ONが1でOFFが0の私達と同じ36進数を使っているんだよな…。」
私がカナリアに言う…。
ワームは身体自体が脳細胞で出来ていて、その脳細胞が集まって筋肉を作り 動く事が出来る。
ただそのせいで 集積密度が低く、動けるレベルになるには あれだけ巨大になってしまう…まぁ それを除けば 仕組み自体は、電子と量子を使った普通のニューロコンピューターだ…私達人類とそこまで違ってない…。
「ON OFF判定が6回で一文字の扱いですね…。
6×6で36…6は 一番安定している数字ですからね…それは 宇宙共通なのかも知れません…。
ワームの細胞もハニカム構造ですし、少なくとも6の数字を好んで使っている傾向はあります…。」
カナリアが言う…カナリアは盲目の為、ARウィンドウを開かずに正面を見つめ、すべて頭の中で処理している。
「それに…やけに私達のブレインキューブと構造が似ているんだよな…。」
「宇宙の物理法則は一緒なのですから 突き詰めれば 似るのは当然の事では無いですか?」
「まぁな…。」
それにワームが こっちの環境に適応した可能性もある…。
「それに少なくとも彼らの文字は36種類だと言う事は判明しています。」
「だけど、濁音や半濁音の組み合わせがある可能も十分にある…実際、トニー王国語のニューロコンピューターは、点と丸や小文字で文字のバリエーションを増やしている8×8の64進数で構成されていたからな…。」
「今はローマ字を使っての36進数規格でしたか…。」
「ああ…世界共通語がエスペラント語になったからな…。」
8×8の64進数は計算回数を減らせる利点はあるが、構造が複雑化する欠点があり、最終的に別の高速化技法が判明した事で 唯一のアドバンテージが無くなり、ニューロコンピューター普及時にトニー王国の独自規格から6×6に統一された。
「普及したのは簡単に扱えるノイマン型…でも今使われているのは改造されたチューリング型…一応 記録では 基礎設計はトニー王国に亡命した『アラン・チューリング』らしいのですが…。」
「何で、当時 知名度が無かった アラン・チューリングをトニー王国が有用だと判断して亡命させたのか…。
トニー王国の記録って殆ど残っていないからな~」
大戦での核攻撃で オンラインで電子化されていた媒体は消失し、ただでさえ情報管理が徹底されていたトニー王国の情報は殆どない。
「さらに 鉱物資源は豊富だったとは言え、石油資源が取れない200万人足らずの小国が 戦闘回数が少ないとは言え、アメリカと日本にドイツとソ連と戦ってどの戦場でも善戦していますからね…しかもDLを開発した所もここ…明らかに この国だけが異質です。」
「だよな~ポジトロン…未来から来たナオとクオリアだっけ?が確実に関わっているよな…。」
「ええ…終わりました…データの確認をお願いします。」
カナリアが話しながら組み上げたデータを私に送って来る…。
「さて…これで通信だけは 出来るな…後は現場のワームが発する言語を解析して翻訳するだけだ…ん?」
私が ワームの通信規格を見て考え込む…。
「ハルミ?何か間違っていましたか?」
「いや…この通信規格…どっかで見覚えがあるんだが………あっ」
私はARウィンドウからエクスマキナの私の診療所に接続…データを持ってくる…。
「やっぱり…ロウのスキャンした時のデータに近い…。」
ロウの脳の一部は コンピュートロニウムと融合していた…。
あの時は 停止している事もあって放置していたが…まさかな…。
「え?ロウさんの…と言う事は…ドラムは本当に人型ワームを殺そうとしていたと言う事ですか…。」
「ああ…少なくとも1人はな…。」
ドラムに殺された人のすべてが コンピュートロニウム持ちでは無いだろうが…これは良い手がかりだ。
「ロウさんは ワームのスパイ…ですかね…。」
「定期的に情報を抜かれる『自覚のないスパイ』か…向こうもこっちを知りたくて作ったインターフェースなのか?」
少なくともワーム側もこちらを滅ぼす為かは 分からないが、こちらを解析して学習していると言う事だろう。
ゴールは見えて来たな…。
「取りあえずロウを呼んで徹底検査だな…今度は量子レベルで徹底的にやる…あの時は簡易検査だったからな…。」
「そうですね…もしかしたら、向こうの外交官になるかも しれませんし…。」
「だと良いんだがな…。」
私はそう言い…天尊カンパニー本店の病院の設備を借りる為に取りあえずクオリアに連絡を入れてみる…。
クオリアから天尊に要請を出せば借りられるだろう…。
「よし…後は 借りられるまで 待つだけだな…。」
私がそう言い…ベッドに寝っ転がり、フルダイブを始めた。
 




