03 (ホテル街)
ナオ達は コロニー中心部にある筒状の無重力空間を移動し、地上がある外周部に向かうエレベーターに乗りこむ…。
エレベーターと言っても、ゴンドラの大きさは かなりデカく、48人位は普通に入りそうな大きさだ。
扉が閉じ、エレベーターが中心部から外周部に向かう。
外の景色を見て見ると、中心部の筒から等間隔に大量のケーブルが地上に繋がっていて、それをエレベーターの動力機で中心部、外周部を行き来している。
このケーブルの数から考えて長距離を移動する場合は 一度、中心部に上がって 移動し、目的地付近のエレベーターに乗って降りる感じか…。
6分位で上下のエレベーターが入れ替わる定期便方式だし、エレベーターと言うより、ケーブルカーに近いかも知れない。
エレベーターが 外周部にブレーキを掛けつつ落ちる…外周部は回転による遠心力で1Gを維持しているが、ゴンドラが落ちている為、落下による疑似無重力状態だ。
オレ達は床と天井を柱のように等間隔で設置されているポールに掴まる。
窓から見える外の光景は筒型の地面に建物が生えている光景で等間隔で地面に切れ目が付いている…。
コロニーを回転させる場合、回転位置から両方向に広がるように装甲がねじれて、装甲がそれを追随する形で回転速度が上がる…。
つまり、回転位置からの長さが長くなれば長くなる程、ねじれによる負担が大きくなり、装甲が破断する可能性が高くなる…。
その為、一定間隔ごとに独立して回転させられる機構を付ける事で装甲への負担を最小限に留めている。
しばらくすると、下から上がって来る隣のエレベーターとすれ違い、ゴンドラの減速が始まった事で 軽かった身体が重くなって行き、3分程で外周部に到達した。
扉が開き、中にいた乗員が外に出る。
外の待合室には次の乗客が 結構な数がいて、ここが人口密度が高い場所だと言う事が分かる。
オレがスライドドア近くの駅名看板『Hotel Town(ホテル街)』の英語の文字を見て少し苦笑いし、スライドドアを開いて、建物の外に出る。
外は快晴の青空…まぁ実際はコロニーの中心部から人工雲を展開してそこに青色のライトを当てて空を再現している感じだ。
雲が展開されているからか、その後ろにある逆さまの建物が見えない。
「それじゃあ宿に行きましょう…。」
「そうだな…。」
オレ達が周囲を見渡す中レナが言い…宿に向かう。
道路は 片道2車線道路と歩道が標準搭載されていて、何処も彼処も道幅が広く、窮屈感が無い。
この区画は『ホテル街』と呼ばれ、主に運送業者や外国人観光客が寝泊りに利用する区画で、決してラブホテルが密集している区画では無い…まぁそう言う用途でも使えるのだろうが…。
ちなみに この隣の区画は『歓楽街』になっており、風俗店はそちらに密集しているらしい。
ナオ達は エレベーターの近くにある評価の高いビジネスホテルに辿り着く…。
ビジネスホテルは 横のスペースをあまり広げられないコロニー事情から、縦に長い高層ビルとなっていて、それでいて道路が暗くならないように考慮された設計になっている。
階数は30階+1階かな…通常なら地下に解体用の部屋を予め作っておくのだが、コロニーの関係上 地下室は造れないので、1階の解体室に階段が設置され、2階から入る形になっている…だが、ここが1階と言う扱いだ。
オレ達は 階段を上り、中に入る。
中は白一色の壁で、高級感を出しつつも それでいて飾りは最小限に抑えられた非常に落ち着いた雰囲気を放っている。
ガラス張りで仕切られた 隣の部屋には 大型のレストランになっており、宿泊している観光客や、エレベーター前の立地の為、周りの区画に住んでいる天尊カンパニーの人達も食べに来ている…。
ノリは駅前の飲食店に近いか?
反対側の部屋は スーパーマーケットかな。
『静かの海都市』の寮とは違い それなりの規模があり、外からの客も多い…。
世界共通で 大型交通機関周辺には 客が集まる為、その客を利用した住居や飲食店、娯楽施設が多くなり、そのスペースが希少になり 土地代が高くなる…なので、上にスペースを取れる高層ビルだらけになる訳だ。
砦学園都市が基本 交通機関がバスタクだけで運用されているのも、この偏りを軽減する為になる。
フロントの受付ドラムの接客で チェックインを済まし、階段で上の階に上がる…。
オレ達の部屋は6階になる…。
2階には 大浴場やプール…3階がシアタールーム…4階、5階には カラオケ、ダーツ、ビリヤードと娯楽施設が多く入っていている。
それぞれの階を皆で会話をしながら ゆっくりと見て行き、6階から上がホテルルームになる。
各階の階段横には、飲み物の自販機と共同トイレが備え付けられていて『♂』『♂♀』『♀』の3種類に分かれている…。
『♂』『♀』のトイレに比べ『♂♀』の面積の方が大きく 男女共用としつつも、性別事に分けて使いたいと考えるニーズに答えた感じだろうか…。
オレはそんな事を考えつつ、自分の部屋に向かった。
部屋は、いつも通りのナオとクオリアの恋人チーム、トヨカズ、レナ、カズナの親子チーム、ジガ、ロウのルームメイトチーム、カナリアさんとハルミのアップロードチームの4部屋になる。
オレはドアノブを掴み、認証…ロックが開き、クオリアと一緒に入る。
部屋は2段ベッドに冷蔵庫…鏡があり、手や身体を拭く除菌シートはあるがトイレやシャワー室などは水系の設備は無し…。
まぁ宇宙では身体を水で洗う習慣が無いのだから当然と言えば当然か…。
それと驚いた事に強化ガラスの窓があり、外が見える…。
レストランとスーパーマーケットの仕切りにもガラスが使われていたが、壁に透明な窓ガラスを入れた場合、放射線が通り抜けてしまう…放射線を通さない特殊ガラスなのか?
このビルが宇宙に漂流した場合、かなり危険だろうな…。
「これ放射線問題は如何なってるんだ?」
オレは隣のクオリアに聞く。
「それは、そこのカーテンだな…カーテンを閉めれば ある程度の放射線は遮断してくれる。
このコロニーが破壊されて、このビルが漂流した時の備えだな…。」
「だったら、窓ディスプレイにすれば良いのに…。」
砦学園都市では『核融合炉の爆発と それに伴う致死性の放射線漏れ』と言う まずあり得ない想定をして建物を設計している為、建物の耐久性と放射線の遮断の問題から ガラス窓が使われていない…。
だが、生活保障の『最低限の生活』の定義に日当たりの項目があり、全部屋を日当たりの良くする事が物理的に不可能だったので、外の風景を映し出す窓ディスプレイが使われている…。
これですべての部屋が日当たり良い部屋にする事が出来き、最低限の生活を保障できるようになった…。
宇宙空間に投げ出させる最悪の想定をするなら、壁にした方が安全だろうに…。
「まぁリスクとデザインを総合的に比較してデザインを取った感じだろう…。
そもそもコロニーが崩壊して建物が漂流するリスクは ほぼ あり得ない位に低いからな…。
カーテンを付ければ対応出来ると考えたのだろう…。」
「合理的じゃないな…。」
「人が全てに対して合理的に判断するなら、そもそも私達と争う事など無かった…。
だが、その感情と非合理性が人を作っているのも また事実なんだ。
合理性を追求すれば最後は 最適解の1択になり、遊び心が無くなるからな…。」
「そう言うもんかね…。」
「そう言うもんだ…私には 共感は出来無いがな…。」
基本数字と統計を元に合理的に動いているオレとは違う価値観だな。
オレはそう思い、リュックをカーペットの上に置いた。




