16 (漂流)
ナオ機が下部に向かい 発砲…敵機2機の腹部に命中…撃墜…。
残弾レッド…リロード…。
ナオ機が ボックスライフルのリロードボタンを押すが、マガジンが 排出されない。
あーそっか無重力だと自重で落ちないのか…。
その僅かな隙を突いて敵機の発砲…シャベルシールドで ガードしつつ 回避…。
マガジンを掴んで抜き、宇宙空間に捨てる…機体の実体化範囲外に捨てられ、マガジンは 量子光を光らせて消えた。
ナオ機の後方からの射撃…スペトラの上にいるトヨカズ機の狙撃だ…敵機は足を撃ち抜かれ、距離を取る…。
あ~リロード言い忘れてた…ナイスアシスト…。
腰のハードポイントのマガジンが固定されたままの状態で、銃を下ろしてマガジンを叩き込み、ハードポイントのロックを外し、リロード完了…。
『ハルミ機、残弾レッド…リロード』
「カバー」
オレが言い、リロード中のハルミ機の援護…シャベルシールドで腹部をガードしつつ、敵機を狙い撃つ…回避され外れ…。
ハルミ機は、ハードポイントからマガジンを抜いて、手で左手で保持しつつ、残弾が空になるまで片手で撃ち切り、残弾が無くなったのと同時にリロードボタンを押してボックスライフルを思いっきり下に下げる…。
慣性に従いマガジンが排出され、左手に持っているマガジンを下から叩き込む…リロード完了…。
よし、まだ戦える…。
ナオ機とハルミ機は、味方機を援護する為に敵部隊に突っ込み、かく乱を始めた。
『こちらクオリア…戦況報告…弾丸が機雷に命中…誘爆を確認…。
だが、機雷付近の部隊の通信がロスト…光学観測で生存を確認…大規模なチャフだと想定される。』
チャフは、電波を反射するので 通信障害を起こす事が出来る。
前線部隊との通信…特にデータリンクが使えない場合、複数機で敵機を観測して命中率を上げる射撃補正機能が使えなくなる。
しかも、嫌な事に これからトヨカズ達はこのチャフエリアを抜けないと行けない訳だ…。
よく考えられている…。
『こちらレナ…トヨカズ機、カズナ機は 右舷の部隊の敵部隊を排除して…。
どうやらエースパイロットが1機いるみたいで 押されている。
12機で取り囲んで叩くから援護して…。
船の防衛には ロウを行かせるから…。』
続いてレナからの指示だ。
例えエースパイロットでも 複数機で角度を付けて同時に射撃を受けた場合 回避スペースが無く、当たるしか無い。
なので、1個中隊で取り囲まれれば ほぼ確実に撃墜出来る…。
DLは 腕が良くても数の暴力には敵わない…ナオ機やハルミ機も、敵機を盾にしつつ立ち回る事で複数機からの同時射撃を防いでいが、高度な連携の前には敵わない。
敵も同じように立ち回るだろうから、突破される前に最短で包囲して撃墜しないと行けない。
「トヨカズ機了解…。」『カズナ機りょうかい』
スペトラのリボルバーシリンダーが動き、薬室からロウ機が代わりに出て来た。
『ここは ロウに任せて先に行け…。』
いや…それ完全に死亡フラグだから…。
現実になってはマズイので口には出さないが オレ心の中でそうツッコみ、カズナ機とトヨカズ機が ハーネスを外して右舷に向けて加速した…。
カズナ機が先頭で トヨカズ機が後方から援護する形で 目標地点まで最短距離を全速力で進む…。
カズナ機が大型の盾を構えつつ フルオートでの射撃…進行方向にいるDL2が左右に回避…そこをトヨカズ機が狙撃し、足を撃ち抜き、2機の間を通過…。
敵機は撃墜しなくて良い…武装や機動力を奪い味方が撃墜し易い状況を作れれば それで良い…。
今は弾薬を温存しつつ目標地点に向かう事が最重要だ。
トヨカズ達が間に合わなければ、向こうのエースパイロットが味方機を各個撃破…もしくは包囲網を中央突破をし、包囲を食い破る可能性もある…。
間に合った…。
ギリギリのタイミングでカズナとトヨ兄ぃが辿り着く。
敵機は、汎用性があり 扱いやすいベックタイプでは無く、高機動戦闘が得意だが扱いにくい スピーダータイプ…。
色は宇宙迷彩の黒…背中には漆黒の冷却の用のレインコートを着ていて、光学、熱探知からでも非常に見にくい…。
多分スピーダーにしたのは 機動性を重視した事もあるだろうけど…ベックより機体が放つ熱量が少ないから…。
スラスターはレインコートと干渉するので穴を開けて剥き出しになっているけど、スラスターの熱量が見えない…もしかして推進剤に冷却材を使っている?
なら推力が低く…あ~だから軽いスピーダーなのね…。
2個中隊24機が既に半包囲状態で集まっていて、十字射撃を基本として撃っているが 全然当たらない…。
なのに スピーダーが一発撃つことに味方機に命中…。
銃のデザインはブルパップアサルトライフル型…流石に全弾腹部に命中と言う訳では無い見たいだけど…腕、足、スラスター、頭を中心に狙って来てる…どれも実質の戦闘不能に追い込まれる部位だ。
警報…回避…カズナ機は大型シールドで機体を守りつつ、回避…後ろのトヨ兄ぃ機もそれに合わせて、カズナ機の後ろに付きつつ 銃を向ける…が、敵機側の未来予測システムの警報がなったみたいで、スピーダーが射線から逃げるように回避した…。
わたし達とスピーダーは 一切発砲せずに 機体が未来予測システムに従い表示する警告用の赤い予測線をひたすら回避して行く…それでも、時より隙を見て、敵機が味方機に銃を合わせ発砲…その精度は正確で確実に相手機に致命打を与えている。
その僅かな隙に、味方機の部隊が敵機を狙おうとしているけど、それでも回避行動を取られる。
DLのセオリーは 可能な限り敵と距離を取りつつ 弾幕射撃で相手にダメージを与える方法…。
でも、未来予測システムが 搭載されているので 何処に撃つのかが事前に分かり 回避行動を取られてしまう…。
なので、警告が出ても反応が間に合わないレベルで近づくしか無い。
だけど、こちらも条件は同じで回避がしにくくなる…。
さあどう出る?
味方側は射撃をしつつ、半包囲を狭め距離を詰めていく…。
が相手の方が回避能力も射撃能力も上…。
味方機の被弾率が上がる…。
これでは意味が無い…味方機がすぐに その状況を理解して後退…。
さて、如何すれば勝てる?
『トヨ兄ぃ…たて、ちょうだい』
「如何する気だ?」
トヨカズ機とカズナ機の2機が スピーダーの予測線を回避しながらカズナがトヨカズに言う。
『2まい がさねにして、てきにつっこむ…かくとうせんに もちこめれば…。』
「やめろ…敵は明らかに人外だ…確実に墜とされるぞ…。」
通常…この距離なら命中しても不自然しくない…それを回避するとなると、義体を使った人外しかありえない。
ヤツらは 生身の人の限界値以上の性能を持っているはずだから、格闘戦では まず勝てない…。
このまま、距離を取りつつ 徹底して足止めをした方が効果的だ…。
『しぬつもりは ないよ…スピーダーのうごきを とめるだけ…。
とめたら、トヨ兄ぃがピンポイントでそげきをして…。』
オレには格闘戦のセンスが無い…確かに格闘戦をさせるならカズナが適任だ…。
でも…。
『てきざいてきしょ…。
トヨ兄ぃは、私に あてずに アイツをうちぬいて…。』
「分かったよ…やろう…。」
トヨカズ機が カズナ機に盾を渡し、カズナ機が盾を2枚重ねにして構え、加速を付けてスピーダーに突っ込んだ…。
ベックのカズナ機が盾を2枚重ねにした大型シールドを構え、推力全開でスピーダーとの距離を詰める…。
警報…回避…警報…回避…警報………。
「はっ…はっ…はっ…はっ」
お腹に力を入れて短く、出来るだけ大量の空気を吸う…。
加速Gに必死に耐えつつ、ひたすらスピーダーからの予測線を回避し、こちらも予測線をスピーダーに向け続ける…。
その軌道は確かに わたし より凄い…でも、皆がいるなら別…。
突っ込む わたしに合わせて味方のDL部隊が 単発射撃で援護…これでもスピーダーは 一切の被弾無しに回避仕切る…。
コースに乗った…前方にスピーダー…衝突コース…。
スピーダーが アサルトライフルを向ける…。
予測線を見て私が回避させる事が目的の射撃…でも回避しないで盾で防ぐ…。
比較的強度の低い透明な覗き込み口に2発…3発…寸分の狂いも無く正確に撃ち込んで来る…貫かれる!!
カズナ機が盾の位置を少し上に向け、着弾点をズラす…これで十分に持つはず…。
カズナ機が スピーダーのコックピットブロックに激突…爆発反応盾ならここで爆発させる事も出来るけど…この盾は 民生品のデブリ対策用…爆発はしない…。
「かはぁっ」
加速Gが無くなり、思いっきり息を吸った所で、スピーダーからの回し蹴りをされ、シールドを横から蹴られる…。
体勢を崩されない為、シールドから手を放し、加速…互いのコックピットブロックが斜めにぶつかるように突っ込み、右手に持つボックスライフルで スピーダーの腹部を狙うが、スピーダーの手のひらで銃口を掴まれ咄嗟に わたしはトリガーを引いてしまい発砲…。
ボックスライフルの銃口を親指で塞がれ、行き場の無くなった銃弾が銃口内で暴れ、スピーダーの親指を犠牲にバレルを破壊し、ボックスライフルを封じられた…。
次、スピーダーが 銃をこちらに向けようとするが、スピーダーの銃はアサルトライフルタイプ…こっちの腹部には距離が近すぎて撃てない…。
そして、トヨ兄ぃからの予測線…わたしは僅かにスピーダーと重なる機体を押し込み、アサルトライフルを予測線に乗せてトヨ兄ぃのピンポイント狙撃で破壊…。
カズナ機が 使い物にならなくなったボックスライフルを捨てる…残りの武器は互いに短刀1本…双方同じタイミングで抜いて 相手の腹部に横から突き刺しに行く…。
カズナ機は スピーダーの手首を掴み 防ぐ…速度や瞬発力は 負けるけど機体の筋力ならこっちが上…。
対してスピーダー側は、親指付近が破壊されているので まともに掴めない…。
行ける…。
カズナ機が敵スピーダーの腹部に向けて短刀を水平に入れる…。
スピーダーは ナイフ自体を腕の装甲で受け止め、貫通…腹部装甲を掠める程度のダメージで食い止める…。
しかも、人工筋肉の繊維に ねじ込む形で 突き刺せられた為、短刀が筋肉に絡まり、引き抜くには時間が掛かる…。
カズナ機が短刀を抜くために力を込めた瞬間…トヨ兄ぃの狙撃を防ぐ為、スラスターで 機体を回転させ、射線にカズナ機が来るようにする…私が盾にされた…。
他の味方機は…この状態で射撃する能力は無い見たい…。
なら…手首を掴んで 受け止めている手の力を僅かに緩め、カズナ機の腹部にスピーダーの短刀が突き刺さる…。
機体の重要機管を破壊され、DLはコックピットブロック以外の機能が停止…。
ダイレクトリンクシステムが解除…スピーダー側の腹部は まだ無事…。
カズナは、コックピットブロックを開き、非常用のリュックを持って素早くコックピットブロックから出る…。
目の前にあるのは、カズナ機のベックの頭に その奥にスピーダーの頭…そして…。
「これで、わたしのかちね…。」
カズナはそう言うと、PP-2000をしっかりと構え、コックピットブロックのふちに足を掛けて反動で飛ばされないようにしつつ、フラッシュライトを向けてスピーダーの目の付近を狙い撃つ…。
マガジン内の9mmパラべラム弾が銃口から吐き出され、カメラのゴーグルに全弾命中…。
向こうのパイロットは フラッシュライトの光と あちこちに亀裂が入っていて見にくくなっているでしょうけど、護身用に使われる9mmパラべラム弾には耐えて見せた…。
そして、カズナがPP-2000をリロード…入れたのは、1発1000トニーもする9mmタングステン徹甲弾が 50発入っているマガジン…。
有効射程が200mから50mまで短くなるけど…装甲車の装甲を貫通出来るだけの能力がある高額弾…。
発砲…少し反動がキツイが…パイロットスーツの補正もあって、何とか命中…。
一発目で限界まで酷使していたゴーグルが、とうとう貫通され…。
50発のフルオートで スピーダーの頭部にある観測機器をボロボロにした…。
カズナは、すぐにトヨカズ機の方向に真っすぐに飛び、後ろに背負っている酸素タンクの酸素を推進剤に使い加速…ついでに銃身過熱を起こしていそうな PP-2000に噴きかけ、空冷…。
私が十分に離れた所で 味方のDL部隊がスピーダーの腹部を撃ち抜き 撃墜して、次の目標に向かって行った…。
「トヨ兄ぃ…トヨ兄ぃ?」
無線が通じない…チャフエリアに入った?
戦闘中は気付かなかったけど、周りを見るとキラキラと光る小さい何かが散らばっている…多分 綺麗なこれが チャフ見たいだ。
PP-2000のフラッシュライトをトヨカズ機に向けてチカチカと点灯…。
無線が使えず、わたしの位置が分からず あちこち見回して探しているトヨ兄ぃ機が、わたしを見つけて こちらに向かって来る…。
トヨ兄ぃ機の手のひらに乗り、コックピットブロックがスライドしてトヨ兄ぃが出て来て、手をわたしに出す…。
わたしはジャンプしてトヨ兄ぃの手を掴むとコックピットブロックの中に入り、トヨ兄ぃが わたしを強く抱きしめる…。
「あ…ただいま…。」
『お帰り…本当に心配したんだぞ…。』
「……ゴメン…。」
ヘルメット越しにトヨ兄ぃの顔を見て見ると…大粒の涙を浮かべていた…。
「さて…一旦スペトラに帰るぞ…やるだけは やったからな…。」
トヨカズが後ろの席…と言うか サバイバルキットを入れておく為の一応 人が乗る事を想定しているスペースに押し込められているカズナに向かって言う…。
「わかった…。」
オレは、ダイレクトリンクシステムを起動…機体を操作し、スペトラに戻ろうとしたが…。
バス…バス…機体が振動…。
スラスターが破損して中の推進剤が吐き出され 制御出来ない…でも何処から?
トヨカズ機が制御出来ない推進剤で軌道が外れないように 機体を横回転させて推進剤が切れるまで耐える…。
うぐっ…追撃が来るかもしれない…現状把握…。
オレは、横回転のGに耐えながら現状を確認…撃った位置は撃墜されたスピーダー周辺…。
光学観測…回転中に1瞬だけスピーダーを捉えた…ARで表示…そこにはコックピットブロックから上半身を出し、対物ライフルを構えるパイロットだった。
「あーくっそ…ふっふっふっふっ」
後ろのカズナは 回転Gで気絶…オレは対G呼吸で何とか耐える…。
トヨカズ機と手足を大きく広げ、回転速度を落とす…。
よし…推進剤切れ…回転速度が 若干だが角運動量保存の法則に従い減速中…まさか こんな雑学ネタが役に立つ時が来るとはなぁあ。
「如何にか…耐えたな…戦闘エリアは…もう過ぎたか…。」
まだ戦闘はしているんだろうが…スペトラの船団と共に戦闘宙域が変わる為、完全に置き去りになった…。
取りあえず…生き残ったって事で良いのかな…。
そう思い…オレは意識を失った。
 




