05 (ドッキング作業)
その頃 エアトラS2にいる ハルミとカナリアは、スペトラへのドッキング作業に移っていた。
「さて…プロペラを当てるなよ…ゆっくりとだ…。」
コパイの制御で 少し高度を下げて、後方のスペトラが上に来る…。
そして、スペトラの後ろに付くようにして 相対速度を合わせる。
その後、船内空気が抜かれて減圧を開始…外の宇宙と同じ気圧になる…。
「OK…それじゃあ行ってくる…。」
ハルミは 上部ハッチを開けて機外に出る。
ハッチが 自動で閉まり、前方を確認。
エアトラS2の前方12mの距離にあるスペトラを目視…。
「スペトラを目視…これより乗り移る。」
私は慎重に後ろに背負っている酸素ボンベの酸素を推進剤にゆっくりとスペトラに向かって進んで行く…。
スペトラは筒型のユニットがX字の形に配置されていて、真ん中部分がコックピットになっている。
私が狙うのは そのコックピットだ。
12mの距離を十分な時間を掛けて 慎重に進んで行き、推進剤での減速はせずに後部ハッチに体当たりする形で減速させる。
私は スペトラのコックピットの上部に移り、コパイがコクピットの後部ハッチを開け、乗り込んだ。
ハッチが閉じて 気化された空気が噴き出し、機内の気圧が元に戻る…コックピットブロックは エアトラS2の半分ほどしか無く、操縦系統と最低限のスペースを確保した形になっている。
私は コクピット付近にあるケースを開き、DLのキーを取る。
スペトラのコックピットの上部下部には、丸いハッチがあり、ハルミは上部のハッチを開ける…。
ハッチの先には接続コネクタと4本のパイプが通っていて、これで上部の筒型ユニットに移動する事が出来る。
パイプに入り、ハッチを閉めて ハッチを蹴って推進力に変え、前に進む…。
進んでいるのは、進行方向から見て 左上の筒型ユニットで、1番ユニットと呼ばれている。
ちなみに、右上が2番、左下が3番で、右下が4番だ。
接続モジュールに辿り着き、筒型の倉庫スペースに入る…。
倉庫スペースには直径9mの円柱内に様々な物資が縛り付けられており、倉庫スペースだが、高速回転させる事により、遠心力による疑似重力を生む事が出来、月と同じ6分の1Gを再現できる。
一応、1Gにする事も出来るらしいのだが、ヒトの移動に制限が掛かる為、6分の1G位が丁度良いらしい。
そして、更に進み、次のハッチを開ける。
そこは、数人が 押し込んで 入れる位の小さなスペースで、減圧 加圧室だ。
ここを開けた次の区画は真空の宇宙だ。
ここのハッチは全部で 6ユニット…円状に並んでおり、リボルバーのシリンダーのような デザインの『リボルバーシリンダーユニット』…通称『シリンダー』に繋がっている。
私は 減圧終了のランプが点灯した事を確認し、ハッチを開き、シリンダーの薬室内に入る…。
薬室内に銃弾の代わりに装填されているのは、手と足を広げて手すりに掴まり、固定されている宇宙用に調整されたDLのベックだ。
コックピットブロックの長さが、地上のDLに比べ大きく、コックピットユニットがスライドさせて、薬室の壁に当たり、私が開いたスペースに身体を滑り込ませて 乗り込む。
ハッチ閉鎖…コックピットユニットが 前方に進んで収納…。
キーを差し込んで回し、押し込む…機体が起動し、機体チェックが始まった。
シートベルトを閉め、身体を固定…。
コントローラーは ジョイスティック方式だ。
OPTIONを開き、機体のスペックやパーツを確認…機体の限界性能を把握していく…。
チェック終了、異常なし…無線接続で ダイレクトリンクシステム起動…。
よし…行ける!
「コパイ…1番 シリンダーユニットを開放…船外作業に移る。」
『こちらコパイ、要求を受理、1番 リボルバーシリンダーユニットを開放します。』
シリンダーが動き始め、リボルバーのように、シリンダーが左に出る。
ベックが掴んている手すりを離し、スリッパのように穴に足を引っ掛けて固定していた足も開放し、壁を押してゆっくりと後ろに下がる。
1番ユニットの外側に取り付けてあるウインチに辿り着き、腰上にある電源ユニットの1番にハーネスの端子差し込む…。
外部電源、有線通信確保 異常なし…ハルミ機が ゆっくりと機体後方に向かい それと同時に1番シリンダーが格納される。
「こちら、ハルミ、作業を開始する。」
『こちら、後方、クオリア機、カナリア、通信感度良好…。
データリンクにも問題ありません。』
カナリアは目が見えない為、口頭でコパイから情報を受け取っている。
「それでは、手早く慎重に行きますか…。」
私はそう言った。
さて、作業自体は そこまで難しくないが、かなり面倒くさい。
スペトラは、コックピットを中心にX字に通路用のパイプが接続され、更にそれぞれの先端のシリンダーユニットに、横と縦のシリンダーと繋がっていて、後ろから見ると☒の形に見える。
まずは、各ウインチから ハーネスを出して、中心にあるコックピットを固定、上部下部、計8本のパイプの内部を減圧して外し、コックピットの拘束を解く…。
その際、パイプは1本1本、ハーネスを巻いて、飛んでいかないようにしつつ、倉庫区画上のシリンダーユニットに置いて行く、そして後方の縦パイプ2本を外して、完成だ。
「パイプを外し終わった…ドッキング行くぞ…。」
接触する邪魔なパイプをすべて外し、スペトラのコックピットのハーネスを外して持ち上げ、ゆっくりと上昇…。
シリンダーユニットに コックピットブロックを一時的に括りつける。
それとほぼ同時に、後方のエアトラS2が、ゆっくりと加速…。
細かい推力調整が苦手な エアトラS2がスペトラに包み込まれるように入って行き、ハルミ機がエアトラS2のコックピットを受け止める形で減速をさせて、相対位置を固定…。
通常は、DL 複数機でやる作業なのだが、私一人でやり切る。
「OK…係留作業に移る。」
まずは 各ハーネスを使い、スペトラにエアトラS2の機体を固定…。
エアトラS2の機体上部には接続用のハッチがあるので、接続ユニットを固定して、そこからパイプを左右2本繋ぎ、そこから1番と2番…中継する事で シリンダーユニットに出れる。
下部は 大気圏再突入時の断熱圧縮に耐える必要がある為にハッチは 搭載していない。
その為、上方向が若干重くなり機体バランスが崩れるのだが、下部はスペトラのコックピットを逆さまにして配置する。
これで重量バランスが良くなり、微調整は 積載されている荷物を移動させる事で行う。
そして、後方の縦パイプを接続し直し、ドッキング完了と…。
「ドッキング終了…次は…デブリネットだな…。」
取り外して余ったパイプを各シリンダーの前方にある差し込み口に 配置…。
それを上下、4本配置して柱を作って一旦、スペトラの中に戻り、デブリ対策用のデブリネットを持って また出て来て上から被せる…。
宇宙空間を高速で移動する場合、小石程度の大きさのデブリが銃弾レベルの威力で飛んでくる事も結構な頻度で有る。
地球と月の間の距離が短い事と、スペトラが地球と月を行き来する度にデブリネットで清掃してくれる為、装甲を破壊される可能性は、限りなく低かったが、火星に行くには距離がある為、デブリネットを使わなくても 行けない事は無いのだろうが、機体の被弾リスクが大幅に増える。
航行不能になった場合、回収まで時間が掛かるし、備えと宇宙空間の清掃もかねて 航行する全機が搭載されている…。
「デブリネットの設置完了…コパイ…適正値は出てるか?」
『大丈夫です…オールOK…。』
「そっか、それじゃあ帰還する。」
『1番リボルバーシリンダーを開けます。』
1番のシリンダーが開き、ハルミ機を入れて、壁に埋め込まれている手すりを掴み、足を穴に入れて固定…と。
2時間半掛ったか…。
流石に 1人じゃあ キツかったな…。
中に入るとカナリアが 荷物を移動させて 重量バランスの調整をしている最中だった…。
その動きは とても目が見えていないとは 思えない。
「手伝うよ…3番と4番に何キロ?」
「50キロです。
ハルミは 1番から3番にお願いします。」
「分かった。」
私がそう答えると、カナリアは 2番を経由して4番に向かった。




