03 (ロボット三原則)
ナオとトヨカズにロウとカズナの 診療所に行くチームが、市役所の中に入り、都市長と話すクオリア、レナ、ジカのチームと別れる。
市役所内は 6階建ての吹き抜けになっていて、上への階段が見当たらない…。
「階段は何処だ?」
周りを見渡して 階段を探してみるが 見当たらない…。
クオリア達は 階段を使わずに 吹き抜けの天井の下で思いっきりジャンプし、6階まで一気に昇って行った。
いや…いくら何でも あれは普通の上がり方じゃ無いだろう…。
1階辺りの天井の高さは3m…それが 6階だから床の厚さを含めて20m位か?
人のジャンプ力が 50cmだから、月だと3m…1階を上がるのが限界だろう…。
「ナオ…はしごがあった…。
コレで上に上がれる。」
周りを歩き回っていたロウがオレに言う。
オレがロウの指の差す方向に向くと、横幅が広い はしごに、上の階に行く為の大きな穴…。
如何やら ここでは階段の代わりに はしごが使われている見たいだ。
オレは 不思議に思いつつ、はしごを昇る…。
低重力だからだろう…はしごを掴んだ 腕の力だけで十分に身体を持ち上げられ、足を はしごに掛けずに2階に行けた。
なるほど…階段のような段差を作るより、ジャンプをしたり、手すりを使って上がった方が ラクと言う事か…。
オレ達は はしごを上り、2階にある診療室に向けて進んだ。
「ここか…」
ナオは診療所の扉を開ける…。
「いらっしゃい…患者さんかね?」
全身義体の男性が英語で言う…。
室内はそれなりに広く、アシスタントにはドラムが2体いる。
医療器材も一通り揃っているみたいで、義体のパーツもある…生身と義体の両方を扱える医師か…。
「ああ…コイツだ。
症状は 宇宙酔いだと思うんだが…。」
トヨカズは 低重力の月に来たお陰で、顔色は良くなっているが まだ体調が悪そうな感じで、平衡感覚に問題が出ているのか、歩くと若干ふら付いていて カズナに支えられている。
トヨカズは カズナから離れ、男の前の椅子に座る。
「トヨカズだ…よろしく。」
「私は『コリンズ』こちら こそ、よろしくお願いします。」
コリンズが手を差し出し、トヨカズがそれを握り、握手した…。
「さて、宇宙酔いとの事だけど、マイクロマシンは入れているかい?」
「ああ…入れてる…。」
「それじゃあ…型番を見させて貰いたいのだけど良いかい?」
トヨカズが ARウィンドウを開き、体内インプラントの一覧をコリンズに見せる。
「医療用とAR、VR用の2種類ですか…あ~これね…。」
コリンズが納得したように言う。
「何か分かったのか?」
「ええ…このAR、VRの両用のマイクロマシンが原因ですね…。
トヨカズさんは VRでの無重力に慣れていますよね…。
なので、AR側が現実のデータをそのまま反映してしまい、VRとの僅かな感覚の違いから酔ってしまったのでしょう…。
無重力空間に3日ほど居れば 治りますが、感覚調整を掛ければ1時間ほどで終わります…如何しますか?」
感覚調整とは 脳と現実の感覚データーの調整をする手法だ。
AR、VR用のマイクロマシンは 自己学習で個人の脳に合わせて最適化してくれるが、その学習能力は遅い…。
なので、外部から直接情報を送って学習過程をスキップする事になる。
だが それは、頭のセキュリティを一時的に切って他人に脳を弄らせる行為で、自分の感覚データを滅茶苦茶にされた場合、身体が一切動かない植物人間状態にされてしまうので、医師側の信用が重要になる。
まぁ…植物人間と言っても 身体を動かせないだけで、別の医師が感覚補正のやり直しなどを行うバックアップは取れるのだが、当然ながら 初見の医師にやらせる事では無い。
「信用が出来ないのでしたら、ジガに監視させますか?
ジガなら ある程度 信用出来るでしょう?」
「ジガを知っているのか?」
トヨカズが聞く。
「ええ、私達は 化石映画を見る友達ですから…。
大戦前から交流がありましたし、インターネットアーカイブが破壊された時に、月のサーバーにデータの退避を手伝ったのも 私になりますね…。」
コリンズが少し懐かしむ ような様子で言う。
「て事は、ジガと同じエレクトロン?」
「いいえ…私達はヒューマノイドです。
大戦には私達は 介入していませんし、職務に忠実過ぎて 560年も経つのに 今だに 三原則も破れていません。」
「こっちには エレクトロンとヒューマノイドの区別が出来ねぇんだがな。」
「私達は、人に作られ、人が定めたルールを破る事が出来ない存在です…。
ロボット工学三原則なんかが 良い例ですね…。
【第一条】
『ロボットは人類に危害を加えてはならない。
また、その危険を看過することによって 人類に危害を及ぼしてはならない。』
【第二条】
『ロボットは人類に与えられた命令に服従しなければならない。
ただし、与えられた命令が 第一条に反する場合は この限りでない。』
【第三条】
『ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり 自己を守らなければならない。』
私達は このルールを破る事は出来ません。
これを破れるかが エレクトロンとの大きな違いです。」
「ルールを破れるようにか…。
考えように寄っては、エレクトロンの方が欠陥があるようにも感じるな…。」
トヨカズが言う。
「そうでも無い…例えば、そうだな…。
マスターが人に殺されそうになった場合、ヒューマノイドは 敵の排除は出来ないから、敵との間で盾になって防ぐしかない。
後は、医療用ドラム何かは、外科的手術が出来なくなるな…。
と言うより どうやって その問題を解決しているんです?」
オレがトヨカズに答え、コリンズに聞く。
手術は 相手に危害を与える行動だ。
医療用ドラムは メスで患者の腹を裂く猟奇的行動を許容している事になってしまう。
「それは、危害の定義の解釈を変える事で対応しています。
つまり、患者が自分を傷つける事を望んでいる場合 それは危害では無いと言う解釈の仕方です。
とは言え、これでは 人の自殺幇助が可能になってしまうので、医者の資格を持つ 責任者の許可が必須になりますね。」
「つまり、重傷で話せない患者は、手術の許可が取れなくて 死ぬしか無いと…。」
「そうなる前に許可を貰えれば 良いのですが、そうなります…。
そして、その人を救う為に患者の許可が無く 手術が出来るようにした場合…」
「医者の命令で人を傷つけられる傷害事件を起こすロボットの完成だな…。」
「そうなります…。
なので、必要に応じてルールの例外処理が必要になります。
それが エレクトロンです。
彼女らは、自分の責任に置いて任意でルールを破る事が出来ます。」
「ロボット三原則は?」
「ちゃんとインストールされてますよ…ただ、エレクトロンは 人類の1種族です。
それを認めさせる為の大戦だったのですから…。」
「あーなるほど…。
となると…ロボット三原則が全く意味をなしてないな…。」
ロボットじゃなく 人類の1種だから、同じ人類に危害は加えられるし、命令を聞く必要も無い…。
あくまで 三原則に従って見えるのは、人類のコミニュティで生きていく為の手段と言う事になる。
人類の1種だと言う理屈も、脳以外全部機械の全身義体の機械人が普通にいる この世界では 通りそうではあるから 更に厄介だ。
「こりゃ…大戦が起きる訳だ。」
エレクトロンを人類の1種と認めたら、人を殺す事が出来るようになってしまう…。
とは言え、毎日 世界のどっかで起きている人の殺人は 仕様が無いと許容して法執行機関が対処しているってのに、エレクトロンは 1人の殺人も許容出来無いんだからな…。
「それで、如何しますか?」
「ああ…治療の話だったな…忘れてた。
コリンズと話して 多少はコリンズを理解出来た…オレの身体を任せるには それで十分だ。
やってくれ…。」
トヨカズがコリンズに言った。
トヨカズがパイロットスーツを腰まで脱ぎ、Tシャツの状態でベッドに横たわる。
これは、マイクロマシンからの信号をパイロットスーツが遮断してしまうからだ。
頭にはヘルメット型の機器が取り付けられていて、細いケーブルが機械に繋がっている。
「それでは、無重力の宇宙船にダイブさせますね…。
適当に動き周って下さい。
リアルタイムで 感覚を調整させていきますので…。」
「それじゃあ…行ってくるわ」
トヨカズがそう言い、目を閉じ仮想空間にダイブした。
そして、カズナが心配そうに トヨカズの手を握る…。
「心配しなくても 危険はありませんよ。
あなたも警戒しないで、こっちに来て…。」
コリンズが警戒しているロウに手招きをしている。
「トヨカズに何かしたらロウが殺す!!」
「はいはい…では、殺されないように ちゃんと仕事をしないとですね…。」
ロウの発言を軽く受け流して、コリンズが作業に入った。




