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27 (武力より化学)

「降ろすよ…」

 インダストリーワンのゲート前に止めたエアトラS2の後部ハッチを開き、中からミートキューブの入った折りコンを出して、借りたトラックに乗せていく…。

 そこには、先ほど解放した入国管理官も 上に話を通した事で、協力してくれている…。

 そして、正規の駐機場にエアトラS2を止め、秘書ドラムのジムの後ろに乗ったパイロットスーツを着た天尊が遅れてやって来た。

 レナ()達が 外に出てからエアトラS2のプロペラ音は聞いて無い…。

 となると…。

「アンタ、駐機場でずっと待機してたわね…。」

「ええ、僕は口は上手いですが、戦闘は苦手で…いつもジムに任せています。」

 天尊の腰にはホルスターがあり、中に入っているのは私と同じグロックだろう…。

 グロックのフレームは、上品な的当てでは起きない 細かな傷にナイフを銃で防いだと思われる大きな切れ込みがある。

 少なくとも、かなりの数の修羅場をくぐり抜けているはずだ。

 もしかしたら、自分の戦闘能力を低いとアピールする事で対処し易くしているのかもしれない。

 まぁ…どっちでも良いけど…。

「なら、もう戦闘が終わったから ミートキューブを配うのを手伝って…ほら、将来のお客様が お腹を空かせて待ってるんだから…。」

「お客様ね…ここの都市民はネットが無いから、物を買って貰えないのですよね…。

 王城の方とは、天然物の運搬業務を委託されてますが、物はなかなか買って貰えませんし…。」

 確かに 今のこの状態じゃ、天尊の客じゃないか…。

 多分、ここまで放置していたのも客じゃないからだろうしね…。

「なら、客にして見ませんか?」

「?」

「今回の問題は 都市の核融合炉の出力低下が原因で、エレクトロンの新型核融合炉の実績作りの為に無償で交換される事になって、どうにか都市の倒産を回避しました。

 ただ、立て直すのは もっと資金が必要なのよね…。

 だから、この機会に天尊が電源やネットなどのインフラに投資して見てはどう?

 まだ 未開拓な市場を独占出来ると考えれば十分にリターンが見込めるでしょうし…。」

「そりゃ見込めるでしょうけど…ここの文化はどうします?

 レトロが売りだと言うのに、近代化させるのもマズイでしょう…。」

「だけど、それをやるにも金は絶対に必要…。

 むしろレトロを貫くなら 不効率な分、普通の都市より資金が必要になるかもしれない…。

 実際に金が無くて、産業革命がモデルだと言うのに全然機械が無い都市になっちゃってるし…。

 とにかく、マージ都市長に売り込みをして見て…多分、許可が下りるだろうから…。」

「分かりました…言うだけは言ってみましょう…そこまでの労力は掛かりませんし、こちらの利益になれば、それで十分です。」

 天尊はそう言ってジムに乗りドーム内に入って行った。

「助けられるのは この位かな……あー手伝えって言ったのに…。」

 私がそう(つぶや)いた。


 借りたトラックにミートキューブを満載にして、クオリアとレナが乗り込む…。

 クオリアが運転席、レナが助手席だ。

 後ろの荷台には、ロウとカズナ、ジガが乗り、ナオ(オレ)とトヨカズは ファントムでトラックの前と後ろをガードする。

 タダ同然のミートキューブの為に ここまでの警備が必要かと言えば疑問だが…。

 世の中には 缶詰1個の為に殺し会いが発生する地域もあるし、国連の食糧支援部隊のトラックがAK小銃を持った現地民に襲われた事もある…。

 そう考えるとこれが普通なのか?

 下に歩く住民に銃で威圧しないようにボックスライフルを肩で担ぐ形にして銃口を上に向ける…。

 即応性が下がるが、今は戦闘を回避するのが優先だ。

 オレの行動を見たトヨカズ機も銃口を上に()げた…。

 一人に付き、2箱のミートキューブだ。

 トラックの2台からロウ、カズナ、ジガが降り、ミートキューブを配って行く…。

 それに加え、栄養が足りていない人には栄養剤を錠剤で渡す。

 これで2層の住民は大丈夫だろう…。

 1層の高所得者が 低所得者の食べ物であるミートキューブをプライドで拒否したので、まだ かなりの数がある…。

 さて、次は危険地帯の3層…。

 大型エレベーターで降り、流石に上に向けていた銃を腰の位置で構える…。

 相手は歩兵だろうから対処は出来るが、スティンガーミサイルの類を使われた場合、オレらはともかく、トラックは 確実にやられるだろう…。

 ナオ機は1歩1歩、トラックと共に慎重に進んで行く…。

 大人が いる集落はQDLで威圧している事もあり、比較的穏便に(わた)す事が出来た…。

 命を掛けた反乱の結果としては 非常に報酬が少ないが、相手が満足しているから まぁ良いだろう…。


 さて、続いて子供達の集落ね…。

 ここを出て3年位()つのかな…。

 あの時に子供達は人権団体に回収された見たいだけど…望まれない子供が 生まれてくる以上、減り続ける事も無い。

 この町の孤児の乳幼児を育てる為の教会も、娼婦や男娼になる為の育成機関になってしまっている。

 世間一般的に、未成年の性行為は問題だとされているが…ここでは道徳上の問題より、明日の食料が優先される…そんな場所だ。

 そして、素行不良などの問題児は教会から追い出されて、後ろ盾の無い流浪民として生きていく事になる…。

 レナ()は身体の成長が速い種族で、5歳の時には娼婦としてやっていたが、暴力を振るう事で快感を見出す変態に当たり、次の客が取れなくなると言う理由で、ヤツが持っていたグロックを奪い射殺した…。

 そして 教会を追放され、色々な理由で流浪民になっていた子供達を集め、大人達との集落と独立し、子供達の集落らしい物を作った。

 私達は自由だと思った…誰にも束縛されないで自分の力で生きて行ける…。

 それが嬉しかった…。


 集落の水場に到着した…。

 子供達は周りにはおらず、車を止めて私は 助手席から降りる…クオリアは、撤退時(てったいじ)にすぐ動けるように運転席で待機だ。

 荷台から、カズナとロウ…ジガが降りて来る…。

 ジガは手ぶらの状態で 先頭をゆっくりと歩き、ロウとカズナはPP-2000を下で構え、セーフティは掛けているが いつでも戦闘が可能な状態を取っている。

 私もカズナとロウの後ろから後を追う…。

「いるね…。

 気を付けて…。」

 人工皮膚に貼り替えた後は 鈍くなっていたけど…この肌がピリピリする感じ…殺気…。

 ナオ機とトヨカズ機は殺気を送っている相手を特定しているようで、私達の盾になるようにビルを遮るように移動した。

 このまま 恐怖に駆られた子供が発砲した場合、私を守る為にナオが子供を射殺するかもしれない…。

「発砲禁止!!…聞きなさい! 私はレナ…3年前ここで住んでいた者だ。

 こちらの戦力はオマエ達を軽く上回っており、戦闘が開始した場合、オマエ達は確実に死ぬ…。

 私達は死人が出る事を望まない…。

 話し合いでの解決を提案するわ…。」

 私が辺りに響くような大声で言う。

 その声に反応するようにゾロゾロと子供達がやって来る…。

 ただ、両端のビルの3階にいる2人はそのままだ。

 一人は男…見た目はロウ位かな…年齢は種族差から考えると あまり意味が無いけど…。

 もう一方のビルにいるのは、女…こっちはロウより身長が少し低い位でカズナと同じ位ね…。

 2人ともストックとロングバレルを取り付けたリボルバーを持ち、ヒジ付近まで覆う厚手の手袋をしてこちらに向けて構えている…。

 あれは一応 スナイパーライフルなのか?

 電灯が2階までの高さなので、薄っすらとしか見えない。

 逆に電灯で照らされているこっちは、向こうから丸見えになる…。

 ただこちらは ヘルメットはしていないが、パイロットスーツを着ている…。

 流石に頭に当たれば即死だろうが…パイロットスーツになら1発位当たっても大丈夫だろう…。

 ナオ機とトヨカズ機が動き 射線に入り盾になろうとする…。

「ストップ!…手出ししないで…。」

 私が2機のファントムに向かって強く言う…。

 彼らが警戒するのも当然だ…だから、狙わせておけば良い…。

「アンタが、あのレナか…。」

 一番年長の男…と言っても、クオリア位のサイズ位の子供だが…私に向かって言う。

「3年経っても私の名前が残っていて嬉しいわね。」

「ああ…子供達は 皆引き取られたらしいんだが、大人達が覚えていた…。

 オレ達は その後の世代だな…。

 今は人を殺す事もあるけど…基本は平和主義だな。

 食料も安定供給出来るようになったし…。」

「食料が作れているの?」

 私が聞く…。

「ああ…ソイフード用の大豆の栽培が出来るようになった…。

 ここの3階から上は 大豆の栽培をやってる…。」

「へえ…でも照明が必要でしょ…。

 照明はどうやって…。」

「電灯のライトを引っぺがした…ついでに その配線も使って電気も送ってる…。

 水耕栽培だから土も要らないしな…。」

 なるほど…よく考えられている…水耕栽培に必要な肥料は2層の天然物に使う肥料か…。

 政府は 天然物の食べ物自体には厳しいが、それを作る為の肥料についてはあまい…。

 肥料は()く時の誤差もあるだろうから、少々()く量を減らして ちょろまかすのは比較的簡単だ。

 そう考えると、最近の天然物の取れ高の減少はこのせいかな?

 まぁ…農家も自分が育てた食料を売って、収入にする事も出来ないのに、安い一律金額で 農家をやってるんだからね…そりゃ、ちょろまかす位する…。

 多分爆薬に必要な硝酸もここで手に入れたのね…。

 それと電気…水耕栽培した時のライトによる電力需要の増加…出力を下げて運転していた核融合炉に余計な負担を掛けたか…まぁトドメになったってだけで、相当に綱渡りの状態で電力を維持していたのだろうけど…。

「それで、オレらは畑を守ってる。

 大人達は 上で戦争をしているからな…。」

 あー私達から物を奪う為じゃなくて自衛の為ね…本当に賢い。

「あーそれは、もう 大丈夫…終わった…。」

「なら、大人達がくたばったら、次はここだ 騎士団が来ても如何(どう)にか出来るようにしねーとな…。

 大人に半分も渡したから爆薬も足りないしな…。」

 コイツが ナオが言っていた化学(ばけがく)の専門家ね…。

 このスラム街で良く作れる…。

「いいえ…騎士団側の装甲騎兵に被害は出たけど…基本無血で交渉に持ち込めたわよ…。

 私達が間にたったから…。」

「レナ達が…。」

 リーダーの男が2機のファントムを見上げる。

「この都市は、これから第一次産業革命(インダストリーワン)が起きる…。

 やっと、この社会システムから流浪民を救う事が出来わ…。

 多分3層も もっと良い暮らしが出来ると思う。」

「そう…それで、それを伝えに?」

「?ああ…忘れてた…ミートキューブの差し入れ…。

 都市中に配ってるんだけど…いる?」

「ああ…助かる…。」

 私とリーダーの男がトラックの荷台に乗り、物資を確認する…。

「こんなに…。」

「1層の人が拒否したからね…結構余ってる…。

 栄養剤や薬もあるから…当分は不自由しないと思うけど…。

 取引の材料にして良いから、独占せずに住民を飢えさせないようにして…。」

「ああ…分かっている…。

 腹が減るとサルに戻って話が通じなくなるって言うんだろう…。

 こっちも、大人を利用しないと生き残れないからな。

 交渉の材料として使わせてもらう…。」

 私がやって来た時とは違って他人を利用するやり方か。

 暴力で単純に解決する私とは違った生き残り方だ。

 コレは 天尊の考え方に近いかな?

「ならOK…カズナ、ロウ…降ろすの手伝って…。」

「わかった…いく。」

「おう」

 カズナが こっちに向かって来て、トラックの荷台の折りコンをビルに運んで行く…。

 子供達を警戒していたジガだが、子供達が銃を下げた事で荷下ろし作業に移った。

「おお」

 周りの子供達から歓声が沸き上がる…。

 ジガが空間ハッキングで、折りコンを浮かせ一気に運ぶ…。

 その後ろから仕事が無くなったカズナとロウは、興味深そうに空中に浮かぶ折りコンを見つつ付いて行く…。

 その後は、リーダーが私達をビルの中の大豆畑に案内したり、科学用の工業機材などを見せて貰った。

 恐ろしい事に廃材を組み合わせた自作だ。

 私は アントニーにして貰った時のように子供達の先生になろうとして見たが…文字や数学などは 全部リーダーの子が先生役をして教えて貰っているらしく、科学知識が伝わっている事には驚いた。

 廃材からリボルバーライフルを作ったり、使った薬莢と弾丸を回収して中身は違うのだろうが代替火薬を入れ直し、代替の9mm弾を作り上げている…。

 さらにキッチンヒーターで電気式の溶鉱炉まである。

「本当に…武力より化学(ばけがく)なのね…。」

 破壊するしかない私より、何かを生み出せるこの子達の方が遥かに賢い…。

 私はそう思い…皆がトラックに乗り込み、子供達の集落を後にした。

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