26 (切り捨てない理想論を求めて)
クオリアは 2層のちょうど真ん中にある核融合炉施設に向かって飛んでいた。
見つけた…。
クオリアがゆっくりと降下し…頑丈な隔壁ドアの前に付く…。
流石にエレベーターに比べ、セキュリティは強化されているか…。
でも…。
クオリアはドアに付いているコンソールパネルから侵入する…。
ドアのログを参照…なるほど…今までに何人かは来ていたが、どうやら開けられなかった見たいだ。
パスワードを知らないのか?
更にログをさかのぼる…。
大体、200年前の人のミスによる事故…核融合炉が緊急停止…か…。
核融合炉は核分裂炉と違い、融合条件がシビヤな為、ちょっとした事でも核融合反応が停止してしまう…。
逆に言うなら、問題が起きれば確実に止まってくれる為、安全性は核分裂炉に比べ高くなる…。
多分、人のミスもそれ程 大した事では無かったのだろう…。
それでも、発電が出来なければ都市の機能が停止してしまう為、改善策としてドラムによる完全自動化になったんだな…。
そして、管理者が何かしらの原因で消えて 開けられなくなった。
それが、おおよそ100年前か…。
それ以降は プライドが先に来て他国に助けを求められなく、自分の任期を無事に終える事だけを考え、次世代に問題事を先送りにしていたと…。
よし、状況は大体分かった…。
セキュリティはどうするか…でも無理やりは スマートじゃないな。
「エクスマキナ都市のクオリア・エクスマキナです。
核融合炉のメンテナンスに来ました~」
クオリアがコンソールを触り、ドラムを呼び出し、営業モードの声でドラムに言う。
施設の予定表に施設メンテナンスの予定を入れ、メンテナンス スタッフとして入った…。
まぁ…嘘はついていない。
ドアがゆっくりと開く…。
「お待ちしておりました…ようこそ…こちらへ…。」
経年劣化にあちこちが 汚れたドラムが言い…ゆっくりと奥に進んで行く…。
私はドラムの後を追った。
「凄い…。」
辺りは 共食い整備の為に分解されたドラムが多く、整備施設も自作されている。
機材のいくつかを材料にしたのだろう…バラされている。
簡易整備用の加工機材が簡易のレベルでは無く強化され、素材にされたのだろう…壁の装甲板が一部無くなっている。
限られた施設内の設備をフル稼働し 補修パーツを作り、1日でも長く稼働し続ける…そんなサバイバル生活を思わせる光景だった。
燃料の重水素と三重水素は特殊加工がされたドラム缶に仕舞われ、まだある…。
年間で燃料を25㎏消費するから100年で2.5t…残りの本数的に後500㎏はあるか?
核融合炉のコンソールに手を当ててアクセス…。
燃料の消費と装置の熱破壊を最小限に抑える為に核融合反応ギリギリの温度でキープさせ、システム自体にも手を入れて、魔改造されている。
効率はかなり良い見たいだが…項目が多すぎて複雑すぎる…。
人の技術者では この核融合炉を扱えるか怪しくなってきたな…。
取りあえず、ドラムが要求している資材の手配とそのドラムの補修機材が先だな…。
『クオリアよりエルダーへ…補修整備用の小型核融合炉の在庫はありますか?』
核融合炉は 通常2基で運用されて片方はメンテナンス用や予備として停止して置くのが通常だ。
砦学園都市は 更に地熱発電を併用している為、バックアップが容易になっている。
だが、予算、人員の問題で1基しか運用出来ない場合、核融合炉の整備作業は 都市の停電を意味する…。
それを防ぐ為に、核融合炉の整備の仕事もやっているエレクトロンは、エアトラS2に収まるサイズで 空間ハッキングを利用して核融合状態を作り出すエレクトロン製の小型核融合炉を使い都市の電力を維持する事になる。
『ありますが…何に使うつもりですか?』
『インダストリーワンの不調の原因が核融合炉による電力低下だと言う事が判明しました。
データを送ります…。』
『はいはい…あー面白そうですね…。
分かりました…空いている補修作業員を向かわせましょう…。
それと…運用実績が乏しい新型核融合炉と整備用ドラムの提供しますので、その核融合炉施設とドラムを引き取れるように交渉して貰えませんか?』
『新型核融合炉の運用実績と この核融合炉施設のデータが目的ですか?』
『ええ…こんな状況は 私の知る限り初めてですから…核融合炉の新たな可能性が見つかる可能性もあります。
投資としては 十分でしょう…。』
『分かりました…レナに伝えます。
マージ都市長の選択次第ですが…ほぼ 問題無いでしょう…。』
インダストリーワンには、新しい核融合炉と整備用のドラム…。
エクスマキナ都市には、運用実績の少ない新型核融合炉の実績作りと魔改造された核融合炉の引き取りと解析…双方が得をしている状況だ。
きっと条件を飲むだろう…。
『了解…条件を飲ませる。』
応接室でクオリアからの通話が入り、レナのデバイスに核融合炉の状態のデータが送られてくる。
隣には 戻って来たジガが 座っていて私と同じ物だろう…ARウィンドウを広げデータを見ている。
「ジガ…私は専門家じゃないから詳しくは分からないんだけど…それでも かなりヒドイ状況だと思うんだけど…正しい?」
私の知識は学校で学んだ核融合炉の知識に自分で調べた物だ。
専門家には到底及ばない。
「おおよそな…。
老朽化は進んでいるんだが、資材を補給してドラムに直させれば まだ使える…んだが、ドラムが魔改造したらしくて、何で今まで稼働していたのかが、全く分からねー。」
「あーだから引き取りたいって言って来たのね…。」
「引き取りたい?」
マージが言う。
「ええ…エレクトロンのエルダー・コンパチ・ビリティが、老朽化した施設内で、ドラムや核融合炉が あれだけのパフォーマンスを発揮できたのか興味があるそうです。
核融合炉施設とドラムの引き取りを条件に、運用実績がまだ少ない新型核融合炉とその整備ドラムを送ってくれるとの事です。」
「し、新型ですか…。」
「ええ…エネルギー問題さえ解決すれば、製造機を輸入して、都市民に供給出来るレベルまで進む事が出来るでしょう…。
最悪、核融合炉に問題が起きても、エレクトロン側のメンテナンスが受けられるようになりますから…そちらとしては、良い条件のはずです。
倒産する必要性も無いかもしれませんね…。」
思いも寄らない救済処置にマージの目からやる気が出て来た。
「よろしくお願いします…。
私個人としては、都市民や流浪民を救いたかったのですから…。」
「なら何故?こんな事を…。」
ジミーが言う。
「私は、大多数の都市民の命を守らなければ なりませんから…大多数を救う為には少数の切り捨ても必要です。
私は都市長ですから…。」
マージが言う。
「でも、切り捨てられる側の気持ちは考えた事はある?」
「いいえ…私は切り捨てられない立場ですから…だから、あなたに依頼したのです。
一度は切り捨てられ、次期都市長として都市民を管理する立場まで上り詰めた人として…あなたはどう考えますか?」
「私は…切り捨てたくない…。
切り捨てるしか無いなら、切り捨てなくて良い可能性を探し続けます…例えそれが理想論でもです。
幸い、私の友人達は軒並み優秀ですから…理想論でも実現させてしまうと思っています。」
私が隣のジガ…外でファントムに乗り警備しているトヨカズとロウを見ながら答える。
「私は そう言った人に巡り合えなかった。」
「これから、巡り合えるかもしれませんよ…私がアントニーに救われたように…。
それじゃあ…騎士団の引き上げをお願いします…。
ジミーも、要望は完全じゃないけど 叶ったでしょう…外のエアトラS2に大量のミートキューブを持って来ているから、復旧するまでは持つはず…。
人質を解放したら、ゲートまで取りに来て…。」
壁を壊した大穴に向かいながら 私が言う。
目の前にはトヨカズ機が大穴に向かって手を出している…。
「分かりました。」
「あっありがとうございました。」
2人は後ろ姿のレナに対して深々と頭を下げた。




