表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/354

20 (飢餓輸出)

 11月24日…月曜日、都市長室…。

「それで、今度は宇宙か?」

 事前に木星にワームが集まる事をクオリアから聞かされていた事もあり、キョウカイ小隊がフル装備で集まり、ナオ(オレ)が言う。

「いや…その前にもう一つ問題が発生だ。

 ただ…これは、私やエルダー()てじゃなくて、レナ()てだ。」

「え?私…場所は?」

「インダストリーワン…。

 都市長マージからの要請(ようせい)だ。」

 アントニーが 紙媒体の書類をレナに渡す。

「あ~あのバカ都市長ね…。

 正直、助ける義理なんて無いんじゃない?

 殺し合いを放置しているような都市でしょう…。」

 レナは ソファーに座り、受け取った書類をパラパラと流し読みして行く…。

「まーね…。

 でも、それで死ぬのは 都市民だから…。」

「今度は一体何を起こしたのよ…。」

 レナが聞く。

「私から話そう、インダストリーワンのソイフードプラントが整備不良で機能停止した…。

 停止したのは おおよそ1週間前…。

 インダストリーワンは 住民がネットを使えない為、マージ都市長が泣きつくまで 発見が遅れてしまった。

 今回の依頼は ソイフードプラントの復旧支援になる。」

 事前に情報が来ていたのかクオリアが言う。

「ソイフードプラントが停止?

 都市民は!?」

 レナが声を荒らげて言う。

「まだ天然物の作物があるだろうから、餓死者(がししゃ)は出ていないはず…。

 復旧までは十分に持つだろう。」

 クオリアが答える…。

 まぁそうだよな…備蓄は普通にしているはずだよだ。

 オレがそう思った所で、レナが書類をしっかりと見て急に立ち上がる。

「マズイ…アントニー、依頼を受ける…。

 クオリア…すぐに向かうよ。」

「そんなにマズイのか?」

 急いで部屋を出ようとする レナにオレが聞く…。

「ええ…多分、都市民は天然物を食べていない。

 アレは、上級都市民と輸出用だから農民は絶対に食べられない。

 食べようとするなら、騎士団が来て殺される…。

 なら、既に食糧暴動が始まっていても不自然(おか)くない。」

「その前提なら可能性は十分にある…。

 何せ 都市長が、元流浪民のレナを頼る位だ。

 そうとうに追い詰められている事が 想定される。」

 クオリアが言い、それを聞いてトヨカズも部屋を出ようとする。

「ちょっと待った」

 アントニーが2人を止める。

「現地に天尊が向かっていると言う情報が入ってる。

 キョウカイ小隊は、事件が解決したら天尊と一緒に月に上がって欲しい…。

 そこからは 月と火星を中継して木星だ。」

「分かってる…。」

 レナとトヨカズが出て行き…ロウ、カズナが続き、その次は オレとジガが皆を追う…。


「それじゃあ…行ってくる…。」

「ああ頼むよ…。」

 最後に残った クオリア()が略式敬礼をしつつ、皆の後を追った。


 大型エレベーターで地上まで上がり、エアトラS2に推進剤の補給をする。

 今回は 重量の問題からDLの搭載は無し…歩兵武器のみだ。

 いや…まぁQDLのファントムのキューブは 皆持って来ているので 使える事は使えるが、砲艦外交にならないように注意する必要がある…。

 そして、積み込まれるのは大量のミートキューブが入った()りコンだ。

 これで品質期限が残り1年以下のミートキューブは 完売だ…その内ミートキューブの増産が始まるだろう。

 さっきからレナの落ち着きが無い…やっぱり何だかんだで不安なのか…。

「落ち着け…レナが慌てた所でエアトラS2の巡航速度が 上がる訳も無いだろう…。」

 隣にいるトヨカズが言う。

「……そうね…。」

「今回は宇宙に上がる為、推進剤は使えない…。

 ここからインダストリーワンまで 巡航速度で3時間程度だ。」

 燃料タンクに推進剤を入れているクオリアが言う。

「死んでなきゃ良いんだけど…。」

 そう言いレナが後部ハッチから乗り込み、席に付いた。


 エアトラS2が 雲を抜け、時速500kmの巡航速度で目的地に向かう。

 目的地はイギリスのリバプール跡地にあるインダストリーワン…。

 機長席と副操縦席が クオリアとジガ。

 その後ろの外側にナオ(オレ)とレナがいて、ナオの隣にはカズナが…レナの隣にはトヨカズがいる…。

 ロウは 真ん中の席に座り、戦闘に備えて眠っている。

本当(ホント)に進歩しないな人って…。

 この時代になってジャガイモ飢饉(ききん)かよ。」

 ARで外が透けている壁を見て オレが(つぶや)く。

「ジャガイモ?ああ…ポテト?

 昔にもあったの?」

 レナがオレに聞いてくる。

「ああ…1845年から5年位だったか。

 場所も確かイギリスの隣のアイルランドだったかな…。」

 オレは 頭の中で話をまとめて見る…。

「当時、農家は色々の食べ物を生産してはいたんだが、大半が輸出用でな…。

 農民は 税金とかの問題もあった見たいなんだが、生産性が良くて単価が安いジャガイモが主食にしていたんだ。

 だけど、ジャガイモにピンポイントに反応する疫病(えきびょう)が流行ってな…。

 ジャガイモだけの単一品種に頼ってたもんで、9割のジャガイモがダメになった。」

「でも…輸出用の食べ物は無事なのよね…なら…あっまさか…。」

「そのまさか…アイルランド人に売るよりか、外国に売った方が利益が出るから、そっちに輸出して アイルランド人には 食べ物が行かなかった。

 自分達が 生きる為の食料は確保してな…。

 だけど、その食料の生産者である農家は 食べ物を作っているのに、その食べ物を食べれない バカみたいな事になった…。

 それで、生産者が大量に死んで…外国に逃げても、その国での差別 何かもあって…170年経っても、人口が元に戻らなかった…。

 金だけを見て、損得で決めると起きる 分かりやすい例だな。

 この場合、自国民の価値が 外国に輸出価値以下に扱われたのが問題だったんだ。

 自国民の価値を高く見積もっていてば、後の利益を考えて国民に食料を届けられたからな…。

 本当に何も変わっていない…。」

「砦学園都市も、ソイフードは単一品種だからね…。

 防疫(ぼうえき)はしっかりしているけど…もし疫病(えきびょう)に掛かったら…。」

「まぁ…ちゃんと こう言ったリスクを知って、バックアップをする環境が出来ているから、砦学園都市は問題ないとは思うよ…。」

 砦学園都市には 6年分の備蓄があるし、見学に行った後に調べた所、完全隔離した冷凍ミドリムシもあるらしい…。

 プラントが疫病に掛かっても、プラント内を120℃の高温状態で 完全滅菌し、冷凍している新しいミドリムシを入れれば良い…。

 技術力が ジャガイモ飢饉(ききん)から飛躍的に伸びている為、そうそう起こらないだろうが…技術力の無い所なら話は別だ…今回のように…。

「本当に血が 流れてなきゃ良いんだけどね…。」

 レナが心配そうに言う。

「まぁ…出た(とこ)勝負だな…。

 全員救うなんて 甘い約束は出来ないけど、可能な限り救うしかないだろ…。」

「そうね…。」

 トヨカズの言葉にレナは一事そう答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ