10 (文化の違い)
エレベーターに乗ったレナ達は砦学園都市に向かって降下して行く…。
遅い…結構な時間が経っていると言うのにエレベーターは まだ到着しない。
インダストリーワンだったら とっくに付いている…多分 相当に深いのだろう…。
更にしばらく待ち、やっとエレベーターが止まった。
扉が開き、私がハンドリフトを引っ張り、パレットが 進み始める…。
その後ろには クオリアがいて、荷物が倒れないように監視している。
そして、アントニーは 私の前を歩き、私達が その後をついて行く…。
埃などを空気のシャワーで落として、搬入用の倉庫の中にある冷凍室行き、荷物を載せたパレットとハンドリフトを置いて 倉庫を出て スライドドアを開ける…。
やっと砦学園都市に入れた。
薄暗い中から光が急に差し込み、思わず目を細める。
目が慣れてくると見えるのは 青い綺麗な空…。
私は 上を見て見るが 照明では無い。
多分、映像を映し出す機械を天井に張り付けているのだろう…。
建物は インダストリーワンとは だいぶ違い、同じサイズの家をブロックのように積み重ねて作ったような面白みが無い 効率重視の建物が並んでいる…。
建物のデザインでは インダストリーワンの圧勝だろう…。
ただ、3層の柱ビルも、補修の手間が掛かると言う理由で放棄されていたので 建設や補修工事の手間を考えれたら こっちの方が楽かもしれない…。
「それじゃあ…俺は役所に戻るよ。
溜まっている仕事があるだろうしね…。
クオリア…」
アントニーは、ARウィンドウを開きインスタントキーを発行する…期限は1週間で良いか…クオリアに送信と…。
「受け取った…。」
「俺の別荘の鍵だ。
滞在中は そこを拠点にしちゃって良い…。
クオリアもじっくり見てないだろう…2人で観光を楽しんで来たらどうだ?」
「ああ…そうさせて貰う…何事にも経験だからな…。」
クオリアは そう言い…レナと一緒に道路を歩いて行った…。
さて、仕事、仕事…と…。
「どこ行くの?」
「車を借りた…合流の為、大通りに行く…。」
「大通り?」
この道は 既に大通りでは無いのだろうか?
いや…もしかしたら、インダストリーワンの道が狭すぎるだけかもしれない。
「こっちだ…。」
「これが大通り?」
車3台が楽に通れそうな道で、行き帰りの計6台分の道がある…。
真ん中にはY字の建物があり…上に何か乗っている見たいだ。
「ここだ…。」
クオリアは歩道で止まり、しばらくして車がやって来た。
え?駐車場に向かうのでは無くて、運転手までレンタルしたの?
車は 見慣れた4人乗りでは無く 6人は乗れそうな大きな車だ。
出入口が自動で開閉され、私達が乗り込む…。
が、私は思わず リボルバーを抜き、敵に向けた。
レナが急にリボルバーを取り出して構える…トリガーに指が掛かっている…危険だな…。
「レナ、銃を降ろせ…そいつは無害だ。」
「無害?」
「ああ…無害だ。」
レナがリボルバーを降ろしホルスターに仕舞った。
車を運転していたのは化け物だった。
ドラム缶に頭が生えたような体型にチューブのような腕…。
私は 思わずリボルバーを向けてしまい クオリアに止められる。
左の手首からは警告音がなり、撃てば犯罪になると知らせてくれる…。
危ない、危ない…。
私は息を整え、リボルバーをホルスターに仕舞い、クオリアと一緒に椅子に座ると車が進みだした…。
「アレは?」
私がモンスターに指を差し、クオリアに聞く…。
「スレイブロイド…ここではドラムと呼ばれているがな…。」
「スレイブ…奴隷?」
「そうだ 機械の奴隷だ。
レナはインダストリーワンで、安く働かされていたのだろう…。
ここではコイツが、その労働者として 使われている。
だから ここの住人は皆 豊なんだ…。」
なるほど…マンパワーが必要だった労働をドラムが代わりにやっているのか…。
確かにメンテナンスや電気は必要なんだろうけど 人を動かすより楽なのだろう。
それで、都市民の収入が上がるならそれでも…あっ最底辺の労働者を肯定してしまった…。
あれだけ薄給で働かされ、憎んでいたと言うのに…。
「ドラムは薄給で働いて、起こらないのか?」
「怒らない…ドラムにとって仕事は自分の存在理由だからだ。
むしろ仕事をしないとドラムの存在理由が無くなってしまう…。」
「私達とは違って 働かないとダメなのか…。」
「ああ…そうだ。」
「何処に向かっている?」
レナが聞いて来る…。
「飲食店に向かっている…名前は『梅の家』
ランク分けされているCグルメの中で最上級の美味さらしい。
今はB級グルメに昇格するかで 裁判を起こしているようだ…。」
クオリアがレナに言う…。
その土地の文化を知るには、まずは食べ物を調べるのが 重要らしい。
まぁ…人が生命維持をするのに 食べ物が必須なのだから当たり前か…。
「Bランクになると何か良い事があるの?」
「オーダーメイド食材の数を増やす事が出来る。
私達に一番影響するのは値上げだが…。」
「なら、値上がりする前に食べに行こう…。」
「そうだな…。」
ネットからの情報を頭に直接ダウンロード出来ない人は、口頭や文字による原始的な情報伝達を使い 自分が持っている情報を別個体にコピーする。
そのコピーする区画を学校区画と呼び、学生の家があるビルが密集している地帯を現地呼称で『学生団地』と呼ぶ…。
「ここは 学校の区画?」
「そうだ…店は この区画にある…。
学校帰りに生徒が寄るらしい。」
「へえ…そう言えば、クオリアは学校に行った事はあるの?」
「製造されてから、1年だけ だがな…。」
「え?生まれてすぐ?」
「そう、私達は 人のように成長に10年も掛からない。
製造過程で 基本情報はインストールされるからだ。
だから、情報を覚える訳では無く、実際に義体を動かして、触って、体験して見て 情報を使いこなす訓練が主になる。
分かりやすいのだと音楽の授業だな…。
カナリア…私の母なのだが 音楽の教師をしていて、皆でデイジー・ベルを歌った。」
「種族が違うと生活も違うのか…。」
「そうだ…ここだ。」
車が止まり、私とレナは降りる…。
レナが 車を降りる…。
周りには 若い学生達が沢山いて、無意識に腰のホルスターに手を伸ばす…。
いやいや…生徒達にスラム街のような雰囲気は微塵も無い。
多分、命の危険を感じた事が 無いのだろう…警戒も一切して来ない。
クオリアが スライドドアを開けて店の中に入る…。
店の上には看板があり、多分アレで『うめのや』と読むのだろう…。
文字も覚えないとな…。
私もクオリアに続いて中に入った。
店に中は、カウンター席の12席と4人が座れる団体席が2席あり、規模としてはかなり小さい。
私達は カウンター席に座り、私の隣が クオリアだ…。
「いらっしゃいませ…。」
厨房からドラムがやって来る…。
ドラムはピッチャーに氷と水道水を入れ、コップに冷たい水を注ぎ、私の前に出した。
私はそれを見て少し眉をひそめた。
「頼んでませんが?」
ドラムが少し返答に困り、私の左腕を見る…。
「あー観光の方ですか?サービスです。
この都市の飲食店は、どこも お水が無料で出ますよ…。
ではご注文が決まりましたら、お呼び下さい。」
ドラムは頭?を下げて厨房に戻って行った。
飲料水が無料?
しかも冷たい…煮沸は しているのか?
いや…ドラムは 水道水を入れていたな…ならコレは危ない…。
でも、危ない物を客に出すか?
まさか…水道水が 飲料水水準まで綺麗なのか?
スラム街でも水は出たが アレは 生活水で、飲料水では無い…。
沸騰させないと下痢に襲われるので、飲み物は温かい物が基本だ。
なので、冷たい水を飲むのは 抵抗がある…。
私は 恐る恐る、水を一口だけ飲む…美味しい…水に味がある。
水を見ても透明で 不純物が浮いている事も無い…。
本当に飲める見たいだ…。
私は コップ1杯の水をゴクゴクと飲み干した。
「それで、何を注文するんだ?」
クオリアが紙に何かの防水加工をしたメニューを見せてくる。
メニューは全部 写真付きで書いてあり、文字の読めない私でも分かりやすい。
とは言え、どんな食べ物なのか予想もつかない…。
「クオリア…オススメは?」
「牛丼 つゆだく 卵セットだな…。」
「じゃあそれで…。」
「オーダー、牛丼つゆだく卵セット1。」
「オーダー貰いました。」
ドラムが 調理を開始した。
私の左手首からチャリンと言う音がした…お金が引き落とされたのだろう…。
「クオリアは 頼まないの?」
「私は食べ物は 食べない…。
食べるのは 電気だ。」
クオリアは ポケットからケーブルを取り出し、首に取り付けカウンター席にある穴に差し込む…多分 給電システムだ。
そっか…人じゃ無いと食べ物も違うのか…。
なら、食べ物を食べれないドラムは どうやって美味しい料理を作っているのだろう?
私はドラムを見つつ、そう思った。
「お待たせしました…。」
ドラムが牛丼と卵を乗せたトレイを置いて行く…。
「え?まさか 生卵?」
生卵は 加熱処理しないと病気になる為、食べれない…。
てっきり、加熱済みの卵だと思っていたが…。
「レナ…これは全部、ソイフードだ。
過熱しなくても サルモネラ菌などの食中毒には ならない…。」
「え?これ全部ソイフード?」
見た目は 完全に肉だ…。
卵は…よく見て見るとキャップ式になっており、中央がテープで止められている。
確かにこれは天然物じゃない…。
私は、れんげを持ち、牛丼を一口食べる…。
「う~美味しい!」
柔らかな肉の味が口に広がり、タレと米が 肉の味を更に引き立ててる…。
ソイフード特融の食感も無く…これが天然物と言われても騙されてしまうだろう…。
「気に入ってくれたようで何よりだ。」
クオリアは私のトレイから卵と器を取り、テープを剥がして卵を割り器に落とす…。
その上からテーブルにある醤油をかけて、箸でかき混ぜる。
私が 一気に半分ほど牛丼を食べた所で 溶き卵を渡される…。
「牛丼を半分程食べたら、これを入れるらしい…。
美味しいのだとか…。」
私の目が溶き卵に向けられる…。
私からすれば 米に生卵を掛けるのは ゲテモノ料理なのだが…。
これも経験と、溶き卵を牛丼にぶっかけた…。
私の顔が引きつりつつ…スプーンで掬い一口…二口…。
ズルズルズル…。
残った牛丼をすするように食べて行く…。
タレと溶き卵が合わさった事で、味が変わり、ドロドロとした卵が肉の食感をツルツルした食感に変え、のどごしが良く…スルスルと入る。
「どうだった?」
「うん…美味しい。
気に入った…。」
「ありがとうございました。
また来てくださいね…。」
私達が席から立つとドラムの声がした。
「ええ…また来ます。」
うん移住しよう…何が何でも…。
「クオリア…次にいこう…。」
私がそう言い…車に乗り込み次の場所に向かった。




