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09 (権威プロパガンダ)

 トヨカズが 隔離(かくり)された翌日の8月7日木曜日の午後7時…。

 昨日からネット上で話題になっている新型ウイルスの事で各役員に緊急招集が掛った。

 役員は 砦学園都市の重要企業の社長と兼任している人が大半で、アントニーは 仕事終了後に皆を呼びだしたのだった。


 会議室には各分野の役員と都市長のアントニーに次期都市長のレナ()が座る。

 そして私が呼んだ参考人と言う扱いで 私の後ろには クオリアがいる。

「では始めましょうか…。」

 アントニーがARウィンドウを開き、ARの紙媒体の書類を出す。

「まずは概要(がいよう)から…。

 3日前の朝にインダストリー都市で高熱を出した患者を検査している途中で ライブラリーに無い未知のウイルスを発見。

 当初は 大した事は無いと思われていたのですが、患者は1日後に高熱で死亡。

 同日…ピースクラフト都市と物流を結んでいる都市が次々と感染が発覚。

 感染の移動経路から、感染元がピースクラフト都市だと断定。

 このウイルスの特徴として感染力が非常に高く…また致死率も高いと報告が上がっています。

 現在ネットでの便宜(べんぎ)上の名前なのですが『エクスプロイトウイルス』と呼ばれています。

 感染者は1000人程度と予想され、病院に運ばれた軽症、重症者の内、重症者100名が死亡…。

 これは 今後、爆発的に増えていくと予想されています。

 それと、砦学園都市の被害は トヨカズ・トリデがピースクラフト都市で感染し ウイルスを持ち込んだとの事で現在、完全隔離中です。

 ただ感染者である本人含めて重症者は 今の所、出ていません…以上です。

 ではDr.(ドクター)タカハシ…対策を。」

「分かりました…。」

 アントニーの右側にいるDr.タカハシが、役員が席から立ち上がる。

「えーこのウイルスの事については まだ謎が多い為 ワクチンなどはありませんが、これがウイルスである以上、感染ルートは『飛沫感染(ひまつかんせん)』か『空気感染』のはずなので、まずは この2つを潰します。

 飛沫感染(ひまつかんせん)は、ウイルスが(せき)から出る(つば)で移動するもので、空気感染は ウイルス自体が空気中を浮遊して人の呼吸から体内に侵入するタイプです。

 なので、(せき)をしている人には近づかない…効果は薄いですがマスクの着用が有効です。」

「マスクの効果は薄いと…。」

 アントニーがDr.タカハシに聞く。

「ええ…ウイルスは マスクの網目より小さいので素通りしてしまいます。

 ならウイルスが防げる位に網目を小さくすれば良いのかと言うと、空気より小さくなる為、今度は呼吸自体が出来なくなります。

 まぁ飛沫の場合 ウイルスに水分が含まれているので、多少サイズが大きくなるので 防げると言う考え方もありますが…。」

「空気感染は?」

「それについては 私は門外なので 詳しくは空調設備の業者(エアコン)の方と相談して欲しいのですが…。」

 Dr.タカハシの向かい側に座る役員が席から立ち上がり、タカハシは座る。

「エアー・コンディショニング・カンパニーの社長…リュウジです。

 都市の空調に関しては 安全な空気を送る為、除菌システムが取り付けてあります…。

 都市民の病気の耐性が弱くなる為、完全な無菌状態は やっておりませんが 技術的には可能です。」

 リュウジが座り、タカハシがまた立ち上がる。

「こちらのレベルは後日 詰めるとしまして、次に感染者の対応です。

 皆さんもご存じの通り、この都市では 病気が表面化する前に病気を潰すのがセオリーです。

 なので、ケインズのデータバンクに今回のウイルスのデータを入れてアップグレードさせます。

 如何(いか)に致死性の高いウイルスでも表面化する前に潰してしまえば、(せき)でウイルスを飛ばす事もありませんので 感染者の体内だけの問題で済みます。

 現在の隔離患者のトヨカズ氏も、検査して問題無いようであれば隔離を解除して良いでしょう。

 都市民のバイタルを常時ケインズに把握されている以上…表面化する前に確実に潰せますから…。

 私としては、今回のウイルスはそこまで脅威だとは思っていません。」

「分かりました…次は報道…。」

「はい…砦学園都市報道局のメディア・フローケンです。」

 メディアが立ち上がる。

「報道の立場として 今回のウイルスの情報は すべて伝えるべきだと考えています。

 ネットがある以上…情報規制も意味はありませんし、何より秘匿する事は都市民が不安に繋がります。」

「ワームの生物兵器についてもですか?」

 アントニーが聞く。

「ええ…アレは真実かはともかく、妙に信憑性が高い情報です。

 確定情報では無いと はっきりと言いつつ、ちゃんと報道するべきかと…。」

 アントニーがしばらく考える。

「分かりました…。

 対処方法は決まりましたね…他にはありますか?」

 アントニーが周りを見渡す…手を上げる物はいない…いや…レナがいた。


「レナ・トニーです。」

 レナ()が立ち上がる。

「今回の件…ネットでウイルスによる不自然な流れを見つけました…クオリア」

 私とクオリアが入れ替わり、クオリアが正面に出て、私はクオリアの後ろに着く。

「エレクトロン大使館所属外交官のクオリアです。

 まずは これを見て欲しい。」

 画面に映し出されたのは ネットでの書き込みの傾向だ。

 正直、複雑過ぎて分からない。

「これは 今回の騒動での書き込みや VRチャットルームでの発言を解析した物だ。

 これによると ワームによる生物兵器と印象付けるような工作が行われているのが分かる。」

 画面が切り替わり、発言の引用元の映像だ。

「ワームによる生物兵器だと人に思わせるには 信憑性を確保する必要がある。

 今回の手法は 主に『権威プロパガンダ』が使われている。

 学歴のある優秀な専門家が発言する事で情報の信憑性(しんぴょうせい)担保(たんぽ)させる手法だ。

 情報元の権威者(けんいしゃ)は、全部で12人…すべて学歴は最高レベルの人だ。

 ただ…この人物達を詳しく調べて見ると、実体は 大学中退 そもそも研究職では無い…など嘘だらけだった。

 更に厄介(やっかい)なのは、経歴がバレない様に 過去に さかのぼって書き込みなどの生活痕(せいかつこん)データも不自然では無いように新しく作られている。

 こうされた場合、出身都市のサーバーをハックして 住民記録を参照しなければ分からない。

 メディア・フローケンなら 分かると思うが、ここまでのレベルの嘘だと事実として受け取られる。

 この事から敵は ワームによる生物兵器で利益を出す者に絞られる。

 現時点で判明している事はここまでだ。

 私は今後も情報の流れについて探り、その都度、レナ経由でアントニーに報告を入れる。

 私からは以上だ。」

「他には…?

 では、これにて会議を終わります…お疲れ様でした。」 

「「おつかれさまでした。」」

 役員の皆が席を立ち…ドアから退出する。


「はあぁ…。」

 クオリアは珍しく…ため息を付く。

「どうしたの?」

 レナ()が聞く…が。

「『権威プロパガンダ』に『カードスタッキング』後『恐怖プロパガンダ』もですか?」

「え?」

 レナが顔を向ける…そこにいたのは1人だけ残っていたメディアだった。

「クオリアさんは 役員の皆さんに対して、プロパガンダをした訳です。

 皆さん気づかないで クオリアさんを信用してましたが…。」

「結構 分かり易くしたはずなのだが…。」

 クオリアが言う。

「例えば、最初に出したグラフ…あえて分かりにくくしてましたよね。

 それを私達は あなたの信用から正しいと判断しました…。」

「うわぁ…」

 レナが言う。

 確かに、人より頭の良いポストヒューマンで私達の友人であるクオリアの言う事を疑わず、正しいとして 受け入れてしまった。 

「今回のデータは 全部本物だが、こう言った具合に人は良く騙される。

 今回の敵は 疑ってかかる事が第一だ。」

 私は クオリアがこのプロパガンダの恐ろしさを身をもって実感した。

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