12 (安全より安心を…)
11月14日 金曜日…都市長室…。
「ああ…やっと来たね…。」
都市長でレナの養父のアントニー・トニーが、ナオとレナを都市長室まで呼んだ。
オレとレナは もう慣れた感じでソファーにドサっと座り足を組む。
都市長が相手だと言うのに段々と態度が雑になって来ている…。
「で、今度は何処に行くんだ?」
挨拶も無しに単調直入にオレはアントニーに聞く…。
都市長から呼び出されると 必ず仕事の話で どっかの都市に行く事になる…。
もはや オレから見てアントニーは、冒険者ギルドの受付嬢か ギルマスに見えてくるようになって来た。
「今回は 日本の北海道地区の『スーサイド』と言う都市だね…。」
「スーサイド…4の隣?中国語と英語?」
オレが不思議そうにアントニーに聞く…。
「サイドは、アーコロジー型のドーム都市の事…つまり4番目のドーム都市…。」
「あ~『スーサイド』じゃなくて『スー・サイド』なのね…。
随分不吉な名前だなーって思ってたけど…。」
オレの隣に座るレナが言う。
「何処が不吉なんだ?」
「スーサイドは 英語で自殺の意味よ…。」
「ははは…確かに不吉だな…。」
オレは 少し苦笑いする…。
「まぁ…間違いでは無いんだけどね…。」
「え?」「え?」
アントニーの予想外の答えに2人は同時に固まった。
「スーサイドは 自殺ビジネスが盛んな所でね。
他の都市のヒトを安楽死させたり、生身の身体をバラして義体換装をしたり、後はそれのせいか 障害者には明るいね…。」
「自殺ってビジネスになるのか?」
「なるよ…生前の財産をすべて相続出来るからね…。」
「と言っても、自殺するのは大半が低所得者だろ…そんなに金を持っている訳…。」
「いや…高所得者も結構多い見たいだよ。
何せ 今の時代死ねないからね…。
純粋種でも脳以外を機械に置き換えれば200年は普通に生きられるし、遺伝子を最適化された『ネオテニーアジャスト』は 老化しないから加齢による免疫力の低下が起きなくて 物理的に死なない限りは 永遠に生きられると言われている…。」
「あーそう言う事か。
生き過ぎた人間が最後に行くのか…。」
「そう、身体は永遠に生きられても、人の精神は永遠には耐えられないからね…。
生まれてから 200年耐えられるのは全体の1割程度で、ザナドゥシステムの加速世界だけど、内部時間の2000年で1%…。
それより先は大抵 死なないかな…。」
「それじゃあ…義体の換装ってのは?
学園都市でもやっているだろう?」
「やってるね…。
でも、事故とか病気による義体への交換が殆どで、身体の強化目的での交換はしてない。
あくまでも この都市は 生身の人の為の都市だからね…。」
ワーム侵攻事件で ワームに襲われて身体が欠損した人が かなりの数いた為、もう義体化した人が珍しくは無くなっているが、確かに強化目的は無く あくまで生身の代替と言う感じだ。
「それじゃあ…最後の障害者に明るいってのは?」
「それは、そのまま…。
ここもそうだけど、義体化してしまえば 健常者以上のスペックを出せるから、障害を残したままの人は 生活がしにくい…。
ただ…スーサイドは『障害者である自由』も認められているから、目が見えなかったり、耳が聞こえなかったりする人も結構な数いる…むしろ自分の障害を捨てたくない人が よく引っ越して来るね…。」
障害者である自由か…わざわざ生活を不便にする価値観は正直微妙だが…クオリアが処理能力を制限して ヒトと交流を持ったり、カナリアさんが目を取り付けなかったりと それなりに見て来ている。
「大体は分かった…それで、仕事は?」
「エクスプロイトウイルスで 経済を潰されて詰んだ自殺者が大量にシーサイドに来ていて これが全員自殺してしまうと エクスプロイトウイルスでの死者の100倍を超える事になってしまう。
今回は現地と交渉してコレの軽減だね…。」
「やっぱりウイルスより経済の方が被害が出たか…。」
本来なら 経済損失とウイルスでの被害を比較してバランスを取るのだが、エクスプロイトウイルスの被害を過剰に警戒して自粛したせいで、自粛による経済損失での死者が大幅に増えてしまった。
「人は安全より、安心を求めるからね…。
エクスプロイトウイルスでの死者は2000人…大半が メディクのアップデートが出来なかった事が原因で効果的な治療が出来なかった事だね…。
ちなみに もしアップデートしていたら、死者は500人に抑えられていた みたいだね…。
経済損失での影響は 2ヵ月しか経っていないから 企業の倒産は正確な数が出ていないけど…大小合わせて数千…。
これは 天尊カンパニーが弱った企業を安く買い取ってるから、大部分の従業員は無事。
後、自殺者が見込みも入れて20万人…。
まぁ被害は 予想通りではあるんだけど…。
それで、交渉役がレナ、その護衛がナオ、ジガとクオリアは エクスマキナ都市でカナリアを回収して、現地で合流…。
なんか生きる希望を持たせる為にライブをやる見たいだね…。」
「ああ…確かにカナリアさんとは相性の良い都市か…。」
最近、活動を再開したカナリアさんの歌の売り上げも 太陽系の上位100位に入る程度には上がって来ているし、ネットでの活動も再開したので人気が高くなっている。
「そ、正直に言うなら 自殺自体は本人が望んでいるなら仕方ないと思ってる…。
今回の主目的は 激務だったレナへの休暇だよ…。
経費で落とせるから、公費で遊んで来たら如何だろう?」
「はぁ…まぁ良いけど…行くのは私達2人だけ?」
「別にいつものメンバーでも構わないけど。
カズナとロウは学校が トヨカズは店があるだろう…。
前回の戦闘で心が疲れているだろうし…彼らにとって日常生活が薬になるんだ。」
「でも、オレとレナは戻って半月で また移動だろ…。」
「そりゃあ、レナは戻ると医療用マイクロマシンの警告を無視して倒れるまで仕事をするからね。
それにナオも仕事をしていた方が楽でしょ…。」
「あ~よくご存じで…。」
こっちが休日の使い方に困っていた事を知っているのか…。
どこから情報を入手したのか…トヨカズか?
「分かったよ仕事を受ける…で、出発は?」
「3日後…17日朝、移動はエアトラS2?
それともファントムを使う?」
「あ~レナ?どうする?
土木重機の名目とは言え、兵器で乗り付けたら圧力外交にならないか?」
オレは少し考えレナに聞く…。
いわゆる砲艦外交だろうか?
相手にこちらの兵器を見せつける事で警戒させ、外交での好条件を引き出す戦略だ。
ただ やり過ぎた場合 戦争になるリスクもあり、何処までやるかの加減が非常に重要になって来る。
「う~ん。
私としては、自殺者は可能な限り減らしたい…。
攻撃はもちろん しないけど…相手を威圧する事は それなりに必要だと思う。
アントニー?」
レナがアントニーに聞く。
「ああ構わないよ…ただし自衛の範囲で収める事…。
スーサイドと戦争しても、こっちには 一切の利益にならないからね…。」
「分かってる。
じゃあファントムで行く…訓練もかねてね…。」
「よし、話は終わりだ…3日後の朝に出るよ。」
オレが立ち上がり、少し遅れてレナも立ち上がる。
「あーそうそう、パイロットスーツ…スーサイドで買ったらどうかね…。
あそこには、義体用の良いのがそろってるよ…。」
「ご親切にどうも…。」
オレはドアを開けて レナと一緒に都市長室の外に出た…。




