09 (完成!ファントムモンキー)
11月07日…。
砦研究都市 研究所…。
ツヴァインに呼ばれ、ナオは クオリア無しの一人で 研究都市に向かいスムーズに研究所に通された。
「予想より随分と早く終わりましたね…。」
ツヴァインチームがハード面、オレとクオリアがソフト面を担当し、やっと完成した新型のDL…。
黒鋼に翼とスラスターが装備されて緑色に輝く駐機姿勢のファントムを見ながらオレに言う…。
「ああ…とは言っても、これからが大変なんだけどな…。
テストパイロットは?」
「そろえています…DLランクを基準にAからSまで2名ずつ…合計8人…。
数が2名程多いですが『ファントム試験小隊』と正式に決まりました。
ファントムの初期ロットは 砦実験都市の この小隊に配備される事になります。」
この間 実践投入されたファントムは、使い物になる事の証明が出来たが、SSランク以上の技能が必要な完全なエース機になってしまっている…。
これは 誰でも簡単に扱え、それなりに戦果を出して無事に戻ってくると言う、黒鋼のコンセプトから完璧に外れている…。
このまま実戦配備をしても 扱えるパイロットの数が足りず、機体が余ってしまうだろう…。
それを防ぐため DLマスターズのチュートリアルミッション200面をクリア出来ただけのAランクのパイロットでも それなりに扱えるように操縦難易度を下げないと行けない。
そんな訳で何かと操縦技術が優秀なキョウカイ小隊は 不向きで、今後はA~Sランクまでのパイロットのファントム試験小隊が運用し、機体の改良や訓練方法の効率化を目指す事になる…。
「あとコレ…」
ツヴァインがオレにキューブを6個渡す…。
「ああ出来たのか?」
デパート艦で見つけたデュプリケーターを研究都市に送り解析して貰っていた。
それの複製に成功したのだろう…。
「ええ…こちらは ナオさん達が持って来たキューブに ファントムのデータを入れた物ですね…。
まだ製造に丸一日掛っているのですが メーカー側の技術協力も取り付けましたので 今後はもっと効率が良くなるかと…。」
「インダストリーが協力してくれたのか?」
メーカーにとって 利益を得るはずの商品の技術を相手に渡してしまうのは、かなりの損失が出る行為だ。
と言う事は 何か見返りがあった事になる…。
「いえ…インダストリーに生産を委託していたのは アイオーン都市…。
つまり、フェニックス小隊の所属していた都市です。
彼らとは 技術交流の協定をしていますので、結構高かったですが 1年間の期限でライセンス生産を買いました。」
ライセンス生産は 相手の製品をコピー生産出来る変わりに 生産する度に一部の金額を払わなくてはならない制度だ。
そして、そのコピーした技術を元に こっちが次の製品を作る…。
その製品はライセンス生産にはならないので、割とすぐにライセンス生産料金を払わなくて済むようになる…。
そう考えると1年は妥当だろう…。
「それと こちらも初期ロットが完成次第 学習データを抜いたファントムのライセンス生産を開始します。」
「え?良いのか?こんなに早く…。」
ライセンス生産をする製品は 自国で売れ無くなり廃れた技術製品を相手国に渡す事が多い。
何故なら他国がライセンス生産の兵器を持って攻撃して来た場合、対処出来なくてはいけないからだ。
「こっちがライセンス生産を許可するのは ファントムの本体データです…。
戦闘データは入れてませんから 学習は自前でしないと行けませんし、メディアのキューブは自前で生産するか、インダストリーか こちらに頼る事になるでしょう…。
それに今の時代 分子レベルでのコピーが容易に出来ますから ほっといても確実にコピーされます…。
なら、初めから有料にしてコピーさせた方が利益が出る訳です。」
「なるほど…。
テストパイロット側としても問題無いよ…。
このファントムは、ネスト戦に使ったファントムのモンキーモデルだしな…。」
オレがファントム見上げ、機体を触りながら言う…。
ネスト戦で破壊されたファントムは コアパーツは無事だったので 実質無傷だったが、QE不足でコックピットブロックが自壊する問題が出たのと、火力の高さの問題が出た。
この機体が そのまま世界に流通した場合、現在の20mmは火力不足になり、より強力な兵器が開発され、それに伴う装甲の強化と火力と装甲のインフレが際限なく起きてしまう…。
それを防ぐ為に DLと同じ腹部を弱点とし、コックピットブロック以外の装甲も炎龍程度に抑えて それ以上の威力が加わった場合、その部分が自動的に自壊するように設定にした。
更に 機体が破壊された場合、コアが生きていれば すぐに再展開出来るのだが、これに修復時間と言う概念を入れ、全損した場合は24時間再展開が出来なくなる仕様にした。
ちなみに コックピットブロックは例外で、他の部分の耐久性を落とす代わりに 残りのリソースをコックピットブロックに注いでいる為、まず破壊する事は不可能だろうし、脱出用のバギーは 全損状態でも展開が出来るようにされている…。
そして脱出用のバギーには 空調機能に60ヘルツの120V電源に 水とミートキューブの生成システムを搭載した為、サバイバル能力も万全で 再展開までの24時間の安全を確保している…と言うより容量が大幅に余ったのでサバイバル性能を充実させたのだが…。
武装は外部取り付けでは無く フェニックスの展開式を採用して、ミッションパックをその都度インストールする形にした…これは本来DLは 土木重機だからだ…。
なので、デフォルトで入っているのは シャベルなどの土木用の道具になっている。
武装用のミッションパックには DLの標準装備のボックスライフルだが、中身は完全に別物で コイルに電気を流して弾を発射するコイルガンではなく、空間ハッキングで運動エネルギー直接変える事で弾を飛ばしている…この為 反動軽減と処理が大幅に軽くなり 拡張性も増えている…。
両腰に内蔵されているターミナルバレットのマガジンの自動生成は オミットせずに 弾の弾種を20mm弾で固定した。
これによりQDL同士の火力インフレも防げる。
ちなみに、ここら辺のリミッターはクオリア製の自信作を搭載しており、エレクトロン級のポストヒューマンでないと 解除が出来ないようにされていて、これを破れるレベルなら生身の方が強いだろうから 解除する意味が無いおまけ付きだ。
結果…時速1000kmで飛行は出来、安全を確保しつつDLの後継機程度の性能に収まる事が出来た。
これで 戦闘による死者は大幅に減るはずだ…。
「それじゃあ、こっちもキョウカイ小隊で運用して見て エース用のデータを取ってみる。
QDLのVR訓練マニュアルは 頼むよ…。」
「はい…これからもよろしくお願いします…。」
オレとツヴァインが固く握手をし、帰りはファントムに乗り 砦学園都市に戻った。




