25 (赤十字の放棄)
「こちらハルミ機…補給完了…。
発艦許可を要求、order!」
『オーダー了解…ハルミ機、周囲にワームの反応なし…発艦許可…。』
『ハルミ機、発艦許可 了解…。』
Gウォークが、ゆっくりと垂直離陸して安全高度に到達し、進路を赤十字艦シーランドに合わせ一瞬で音速まで加速する。
次の仕事は本来の…赤十字マークに誓った衛生兵の仕事だ。
Gウォークはマッハ3の時速3000kmでシーランドに向う。
戦闘が始まった…。
赤十字艦シーランドの艦長が座り、考える…。
本艦は赤十字艦の為、戦闘支援が出来ない…一番近くの護衛艦から50km程離れた海域で待機している。
散発的にではあるが、戦況が送られて来ておりDLの損耗が酷く、エレクトロンのクオリア、ジガ、ヒトのナオがワームの大半を抑えているらしい。
各部隊が休憩が取れ、その間に補給が取れるのは彼女らのお陰だ。
そして、続々とDLを放棄して脱出した兵士がこのシーランドに運ばれて行く。
パイロットスーツを着ている事もあり、重傷者は想定していたより少ないが、そもそも重傷なら海上に上がってこれないのだ。
「艦長…本艦正面、10時から戦闘機型ワームが3機接近…中…。」
女性の火器担当官が言う。
「来たか…ん?どうした?」
「戦闘機型ワーム3機とも片翼に被弾…これは負傷兵です…。
助けを求めているのかも…。
本艦は赤十字艦です。
敵味方種族関わらず、平等に治療をしなければなりません。」
「いや…なにを馬鹿な事を…。」
確かに理屈は通っている…だが戦闘機型の攻撃方法は体当たりだ。
故に、今の状況では攻撃意思があるのか分からない。
しかも被弾している…これがならヒトなら治療するだろうが相手はワームだ。
だが、突っ込んで来る事は確実…。
「ワームとは協定も条約を結んでない…。
本艦は、あの3機を擬装負傷兵と判断…自衛の為レーザーでの迎撃行動を行う。」
「警告も無しで…ですか…。」
火器担当官が言う。
「一応こっちからも、マズイと思ったので 手順に乗っ取って呼び掛けていますが、向こうは電波は使っていないようですし、そもそもワーム語で話されても、こちらが理解出来ません。
撃墜は妥当かと…。」
通信担当が言う。
「分かった命令だ撃て…。」
「…はい…照射…。」
シーランドからレーザーが照射…熱で赤十字の旗が燃えて舞い散る…。
「敵機に命中、3機とも海面に落下…反応無し…撃墜と判断します。」
「よくやった…警戒を密に…次が来るぞ…。」
「……はい…。」
「クソ…撃たせちまった。」
ハルミが乗るGウォークが片翼が破損した戦闘機型を追っていた所、赤十字艦シーランドのレーザーで焼かれ海に落ちて行った。
「もう撃たせるか!!」
私は 側面の燃え尽きた赤十字の旗を見る。
「シーランドブリッジ…こちらハルミ機、今から艦の護衛に入る。
もう撃たせないから任務を全うしろ…。」
撃墜した方角から また破損したワームが3機…。
あーこれは擬装負傷兵の破壊工作か?生きる為に着艦しようとしている個体か?
「どっちにしろ…今は殺すしか無ぇんだ!」
シーランド艦のレーザーにロックされる前にGウォークで迎撃する。
これ以上、あの艦に手を汚させない…。
ワームの負傷兵を艦に入れれば、甚大な被害が出るし、ヤツらを治してやる技術も無い。
今回は、敵を助けられない…アンタらを残せば、また大量のヒトが死ぬ。
私はGウォークを人型して、トリガーを引き、艦に寄ってくるミサイル型の負傷兵を撃ち殺して行く。
「私は…ヒトの味方で いたいんだぁ!」
第3波…今度は6機…機体に損傷…負傷兵…撃ち殺す…。
第4波…12機…機体に損傷…多分これが最後…。
淡々と淡々と…撃ち殺す。
赤十字艦のAIから通信…艦側面にワームが取り付いているらしい。
私が 赤十字艦の側面に移動して見る…側面には小さなワームが無数に取りついており、甲板にいる兵士がアサルトライフルやサブマシンガンの弾をワームに浴びせ、海面に落として行く…。
見た目からしてワームの幼体だろう…幼体は必死に艦の側面を上り、撃ち殺されては 海面に落ちる。
「非戦闘員、しかも、子供の射殺かよ…。」
『……赤十字艦、シーランドより、ハルミ機へ…。
甲板にワームが取り付きました…排除をお願いします。』
「こちら…ハルミ機…排除を拒否する。
こちらの弾じゃ艦の側面を貫通しちまう。」
接近戦に持ち込めばどうにかなるだろう…そんな考えがよぎるが、とっさに言い訳を言う。
『了解、分かりました。歩兵で対処します。』
自分が幼体を射殺しなくて良くなった…あっ。
後部ハッチが無いエアトラS2…救助部隊か…あれはクオリア機…と言う事は乗っているのはカズナか…。
まさかヘリポートに着陸するのか?こんな状況で…。
あっそうか…重傷者が乗っているのか…。
甲板の兵士は必死に幼体を殺しているが、一部の個体が壁をつたり、ヘリポートまで上ってくる…。
エアトラS2が乱暴に着陸し、重傷者を担いだ人が降りて来る…2人が銃を構え幼体のワームに備える…あれは、トヨカズとロウ…。
エアトラS2が緊急離陸して飛び立ち、トヨカズとロウが幼体のワームを撃ち殺す…。
分かっている…殺さなきゃ殺されると、ここに来た時点で幼体ワームに未来は無いと…。
でも…550年前に散って行った…少年少女の顔を思い出す…。
「あークソーっ」
『シーランドコントロールから、ハルミ機へ…ワームの死骸でヘリポートが現在使えません…。
排除をお願い出来ますか…。』
『ハルミ機了解…着陸し遺体を退かす…。』
Gウォークが着陸し、幼体の遺体を端に寄せ、最低限のスペースを確保…。
取りあえず、これで着陸は出来るだろう…。
あ…集めた遺体の山から必死に出ようとする幼体ワームが出てくる。
ハルミ機のGウォークが無意識に幼体に手を伸ばす…が…。
ダッダッ…。
後方からM4アサルトライフルを持ったトヨカズに頭を撃ち抜かれ、動かなくなった。
必死だったのだろう…かなりの疲れが見える…あっ倒れた。
私は、すぐさま迷惑にならない端に機体を駐機姿勢で止めて、機体から降り、トヨカズの元に駆け寄る…。
ロウが見守る中、トヨカズを簡易検査…過労か…。
戦場で張り詰めていて無理していた身体が安心した事で 反動が来たのだろう…。
私は幼体のワームの遺体の山を見る…。
「ワームよ…どうやら私は、アンタ達より ヒトが好きみたいだ…。
助けられないで、すまんな…。」
私の戦いはまだ…終わってない…。
搬入用のエレベーターの前で医者が、私の預けていた 赤い十字架が背中にプリントされた白衣を渡される…。
私が赤十字の誓いを立てた時にプリントし、その後の白衣も同じようにプリントし続けていた…。
分かっている…戦争をやっている以上…救う命を選ばないと行けないって事は…。
それでも 私は命を救う医師だ…。
私は 赤十字の白衣を身に着け、第2の戦場に向かって行った。




