21 (機内で膨らませちゃダメなもの。)
「はあ はあ はあ」
深い呼吸をしつつ、トヨカズが戦闘を続ける…。
戦闘から…1時間…。
第5波を片付け…撃墜総数が2000を超える…キツイ…。
『大丈夫?』
「ああ…何とか…。」
ロウ機が トヨカズ機の肩に手を置き接触通信をする。
流石にタフなロウは、如何にかなっているが、昨日 眠れてなかったせいか 機体より先に まず こっちが潰れそうだ…。
「…戦況は?」
『こっちは 大半が生きている、まだ突破されてない。
けど、サイボーグ部隊 危ない 見たい…。
今、ナオ達 援軍に向かっている…。』
「はあ?え?何で…何でこっちより粘れねーんだよ!」
相当イラついれいるのだろう…ロウに当たり散らすように大声で言う。
『多分、ひ弱な機体 使ってるから』
「あ…そう言う事か…。」
スピード特化のスピーダー系の機体は、高速戦闘をする為に軽量化されている…強度自体は こちらと同じ位だろうが、圧力に強い曲面を多用したベックと 装甲を分厚くしているパワードと比べれば、全方向から掛かる圧力には弱い…そもそも あの機体は 未来予測システムで回避する事が前提の機体だ…。
全方向から回避出来ない圧力を1時間も受け続けていれば、ダメージが蓄積されて行くだろう…。
と、ロウに言われるまで気づかない何て…相当参ってんだな…。
『こちらレナ…第6波接近中…これがラスト。
今後 掃討作戦を予定していますが 散発的な戦闘になるでしょう…。』
レナが言う。
「てことは、休めるのか…。」
弾薬コンテナは さっきの投下で最後…。
今は 余っている空母からエアトラS2で輸送中…ここに直接落とすらしい…。
間に合えば 戦闘中に補給が受けられるか?
幸い…弾薬コンテナを担いでいる為、後1回は補給が出来る…十分にやれる。
「ロウ…弾薬はケチって使え…。
これでラストとは言え 第7波があった場合 弾が無い状態で 戦う事になる。」
『分かた』
ロウ機は、今まで温存していた肩のハードポイントに装着されているショベルを取り出し、右腕左腕に装着…。
もう一本のショベルを片手で持ち、ボックスライフルをトヨカズ機に渡す。
『ケチって使え…ロウ、これで良い…。』
ロウ機はショベルを構える…。
確かにオレは 接近戦は苦手だし…ロウが それをやってくれる分には助かる…。
トヨカズ機は 味方の残骸からボックスライフルを見つけ、両肩に装着…真っすぐしか撃てないが、接近された時に役に立つ…。
味方機は ワームに潰されていない大丈夫そうな弾薬を拾い…大量に転がっている空マガジンにDLの指で装填していく。
コイルガンは 弾丸だけで 火薬は積められていない。
なので磁気さえ発生している弾丸なら現場から回収して再利用も可能だ。
勿論 精度は低くなるだろうが…。
『ワーム接近…残り30秒』
レナが全機に警告…DL部隊が速やかに戦闘配置につく…。
「よーし生き残るぞ…。」
『おう…』
ロウ機はトヨカズ機の肩から手を放し、海底を蹴り上げ2機は飛び上がった。
『次…』
ナオ機がシャベルでワームを切り裂く…。
ワームが味方の疾風と接近しすぎて 下手に撃つと味方に当たる…。
ここに到着した時にクオリアとジガが 自己完結型誘導弾を放って即座に4分の1を撃墜したが、味方機を1機巻き込んでしまった為、ここでは使えない…。
散らばった個体は ジガが丁寧に誘導弾を操作して撃ち抜いて行く…効率は大分落ちているな…。
『クオリア…救助は終わったか?』
『まだだ…あと少し…。』
フレームが歪み、脱出が出来ない疾風をクオリアが指から放つ熱線で丁寧に溶断して行く…。
義体の比重が重くて脱出が出来ない者…コックピットが潰され、開閉が出来ない者…。
『それにしてもサイボーグ部隊だと言うのに…損失機が多過ぎじゃないか?』
高性能、機動重視の疾風を主力したサイボーグ部隊が瓦解寸前だと言う事で救援に来てみたが、トヨカズ方面の黒鋼を中心にした部隊の方より、3倍近い損失機が出ている。
『水圧でのダメージは、ベックより大きいだろうからな…。
自分の性能に自信がある者こそ、こう言う時に足をすくわれるんだ。』
コックピットの装甲が外れ、クオリアが蹴り飛ばし、中から兵士が出てくる…。
兵士は 海中に投げ出されると 即座に浮き輪を膨らまし、急上昇して行く…。
疾風の残存部隊が体勢を立て直し、復帰…高性能機体をフルに使い またワームを狩り始めた。
『戦闘の効率は良いんだけどな…。』
遠距離戦を基本としつつ、1匹に対して1発を正確に撃ち込み対処している。
弾の消耗は こっちの方が圧倒的に少ない…。
『こちらのディフェンスは元に戻った…今度はトヨカズの方が危ない…。
各部隊の疲労値が危険ラインだ。』
『分かった…。』
ワームを正確に狙い撃ちつつ、ナオ機は後退…クオリアとジガと合流し、トヨカズの方面に行こうとするが…。
『…っ!…ナオ、急速降下…伏せろ!』
クオリアの言葉にナオが即座に反応して降下し、海面に伏せる…。
物凄い水流がこちらに流れ込み、ワームの進行は止まり、重量の軽い疾風は飛ばされるが、姿勢制御を完璧にこなしつつ、岩場や海底に伏せる…高さを取ってワームを撃とうとしている機体もあるが、水流が早く銃弾が流されて上手く当たらない。
『一体…何が…。』
オレが状況を確認しようとするが、情報が降りてこない…上も理解していない?
『フェニックス小隊が ネスト内で核融合爆発をさせた?
今 護衛のエレクトロン中隊が、被害の軽減に努めている…。』
『は?核?
なら突入したフェニックス小隊は?』
『まだ未確認だが、道連れにしたと予想される…。
いや道連れが前提だったのかも知れない。』
『どう言う事だ?』
『ワーム側に学習させない為だ…。
ネスト攻略の情報を持っている個体は すべて死んだ。
内部の情報も、一切データが残っていない。』
『いやいやいや…だったら、こっちも対策出来ないだろう…。』
『それが狙いだ…数年後にラプラスが現れて、今回の戦闘情報を探すだろう…。
見つかれば、過去のワームに情報を送られて学習され、更に進化する。
だから フェニックス小隊は、ワームがこっちの情報を持っていないと判断した時点で この結論にたどり着いた。』
『タイムパラドックスの帳尻合わせか…。』
『そうだ…。
報告が入った…。
ネストを破壊した事で、ワームの指揮系統に異常…統率が取れ無くなっている…ネスト内に指揮官がいた事は確かのようだ。』
『…分かった。
オレ達の任務を果たそう…。
進行を食い止める…行くぞ…。』
統率を失ったワームは密集陣形だった為に互いにぶつかり、動けなくなりつつある。
そのチャンスを逃がさず、疾風の部隊が 狩り始めた…オレ達も速やかに前線に向かう。
水流がヒドイ…。
ネストで何かが起きた?
『全機へ…ネストが消滅…クオリアから 原因は核融合による爆発では無いかと推測されています。
この情報は 確定情報では無いので注意して下さい。
それと、ネストが消滅した事でワームが統率を失いました。
各自、気を付けて対処して下さい。』
レナからの通信だ。
核か…確かに1000mもの海底なら、放射線は海水で遮断出来るだろうから問題無いんだろうが 温度上昇で近海の魚が死ぬな…とは言っても、ここで戦っている以上…防げない被害なんだが…。
「ロウ…ワームは、司令官がいなくなって、まともに戦えなくなったらしい。
暴れているから 気を付けろだと…。」
ロウ機の肩を掴みトヨカズが言う。
『うん、分かた』
残弾は僅か…ロウ機に背中の弾薬コンテナからマガジンを出して貰い…補給。
統率を失い暴れているワームに銃弾を浴びせる…いくらか楽だ。
ロウも 近接戦闘は危険だと判断してオレが返したボックスライフルで遠距離から仕留めている…これなら…。
警報音が鳴り、赤い枠がワームを囲む…敵は、2連装砲型…攻撃警報…。
でも、当たるはずが無い…奴らの銃はライフリング加工がされていないマスケット砲だ…それが警報?
『トヨカズ!』
近かった事もあり、ロウからの通信が聞こえる…クソ…反応が遅れた。
トヨカズ機は 下を向く…その旋回した機体への慣性で、額を伝って汗が片目に入った…。
「あがっ…。」
こんな時に…ダイレクトリンクシステムは、目を強く閉じると映像情報が遮断される。
これは フラッシュバンによる対策だ…。
片目を閉じ…遠近感が無くなった状態で、トヨカズ機は後ろに下がりながら、弾に向かって撃つ…今までのオレとは違い、火器管制システム任せの指切りでの3点バーストだ。
弾が避ける?…オレにはそう見えた…そして…弾はコックピットに直撃…。
弾に羽がついている…追尾型の砲弾?
コックピットは耐え抜いたが、水圧で機体の限界が来る…。
機体が脱出を提案…オレは、放棄決定…速やかに判断を下す。
腕や脚がパージされ、コックピットブロックだけになる。
オレは救命胴衣のボンベの線を抜き、瞬時に浮き輪が膨らむ…よし…。
コックピットブロックを開く…。
ほぼと同時に キーを抜き、ポケットに入れる…戦闘の記録が入っているこのキーは絶対に持ち帰らなければならない…が…。
えっ…。
コックピット内の空気と大量に入って来た海水で外に放り出される事を予想していたが…。
コックピットが上を向き…海水が入ってくる…。
空気がコクッピットの前方に集まった事で、浮き輪で浮かび…頭だけ海面から出た状態になった…外に出るには、潜ってコックピットの後ろのハッチから外に出なきゃならないんだが…。
うそぉ…沈まねぇ…。
オレが いくら潜ろうとしても、浮き輪の浮力が邪魔をして沈めない。
考えて見れば当たり前だ…そもそも沈まない為の浮き輪だ。
「あー詰んだか?」
トヨカズが脱出してこない…。
「死んだ?」
トヨカズの機体がバラバラになり、コックピットブロックだけが残った…。
機体は凹んでいるが 多分無事なはず…コックピットのハッチもちゃんと開いている。
なら何で出てこない?…出てくるのを見逃した?
トヨカズ機を背に向けて、トヨカズ機のマガジンを左手で取り、ハードポイントに装着しつつ、右手のボックスライフルでワームを撃って行く…。
コックピットブロックは落下中で ロウ機もそれに合わせて降りている…角度が浅くなり、ワームの背中を狙えなくなくなり、ワームの体当たり攻撃に当たる危険性が上がる…。
なら…通信…。
ロウ機の左手がコックピットの装甲に触れ…回線が開か…無い?
システムが死んでいる。
『ロウか?聞こえるか?閉じ込められているハッチを上に向けてくれ…。』
反響音がしているが、確かにトヨカズの声だ…。
「生きてた。」
すぐさま、トヨカズの言う通りにハッチを上に向ける…。
「危ねぇ助かった…。」
DLは装甲に手を当てると手が振動して音を作り出し、装甲を揺らして中に音を伝える。
接触回線をしよう思ったのかどうかは分からないが…どうにか助かった。
トヨカズはコックピットのハッチから 外に排出され、海中を急上昇して行く…。
上には音と血に反応したサメが餌を探して泳いでおり、出血しているパイロットを咥えている。
「うっそ…」
目の前にはサメ…オレは咄嗟にホルスターからステアーTMPを取り出す。
銃は初弾が装填された状態で真空包装されていて銃の中には 水は入っていない。
装填されている9パラは海水により速度が大幅に減衰するだろうが、サメとの距離は5mも無い…。
オレはボタン式のセーフティを外して こちらを食べようとするサメの鼻に向けてフルオートで撃つ…。
効果は十分だ…サメが微弱な電気を感知出来る鼻で、神経が密集している器官、ロレンチーニ器官をズタズタにしたオレは無事、海上に向かって上がって行った。




