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17 (エレクトロン大使館)

 自分の部屋と言うものは、その人の素の性格で出ると言われている。

 例えばトヨカズの部屋は 昔で言うところのネットカフェ部屋だ。

 2台のPCにディスプレイが3台、大型冷蔵庫位あるホームサーバーを置く為に必要な5℃に設定されたサーバールーム。

 表向きはPC好きの部屋になっているが…アイツのプライベートエリアは、ホームサーバー内の隔離されたVR空間にある。

 そこで何をやっているのかは分からないし、踏み込もうとも思わない。

 人は誰もが仮面を被り、他人と協調性を図ろうとする。

 『よく見せたいから』『優越感に浸りたいから』など理由は様々だが、仮面を常に被り続けると仮面に自我(ジガ)を浸食され、仮面が本体になってしまう事もよくある。

 それを防ぐ為にも自分を維持する為の不可侵領域(プライベートエリア)が必要なんだ。


 さてオレ達の『イメージの中にあるクオリア』が構成要素の(ほとん)どを占めると言う クオリアは 仮面を被らない。

 (ゆえ)に オレが簡単に部屋に入れるのは、クオリアが公の部屋(パブリックルーム)であると認識しているからだと言える。

 部屋は 寮の倉庫区画にある2階の大部屋…と言うより空いている倉庫を改造したものだ。

 広さは32畳(おおよそ58平方メートル)で8人部屋の規格になっている。

 そして何で たった1人でこのサイズの大部屋が必要なのかと言うと…表札を見れば一目でわかる。

 そこには『Electron Embassy』と英語で書いてあり、下に『エレクトロン たいしかん』とトニー王国語。

 更に下に『Qualia(クオリア) Room(ルーム)』と表記されている。


「え?大使館?ここエレクトロンの領土?」

 表札を見たナオ(オレ)は驚く、今の世の中 大使館自体が珍しい。

 何せ今の時代、VR空間がある為、外国の人がリアルで 行き来する機会自体が、(ほとん)どない。

 自分の都市で生まれ、その都市で一生を終える事が圧倒的に多く、わざわざ外の無法地帯に出てまで 観光をする者もいない。

 ここだってそれなりに人気がある都市 では あるものの『ご近所さん』を除けば、年間の観光客は500人も来ない。

「この都市に エレクトロンは私1人しかいないから、(ほとん)ど開店休業状態なのだが、たまに『アントニー・トニー』から依頼が来ることもある…今回のようにな。」

 あ~都市長の依頼だったのか…。

「じゃ狭いと思うが入ってくれ」

 32畳を狭いと表現するか…。

 クオリアが扉を開け、中から冷気がやってくる。

「寒ぶッ」

 中に入ると更に寒い…。

 近くの温度表示を見れば なんと5℃。

 外が20℃位なので、その差は15℃。

 ジャージ姿のオレには かなり厳しい。

 そう言えばエレクトロンって南極出身だったよな…これが適温なのか?

「そこにガウンが掛けてある…使っていい」

 オレが 壁掛けハンガーにぶら下がっているガウンを着こむと部屋の照明がつく。

 周りを見渡すと確かに狭かった。


 その部屋を一言で表現するなら『町工場(こうば)』だろう。

 32畳の半分は 工作機械と材料があり、棚にはヒューマノイドのパーツ…と倉庫状態。

 もう半分は 応接室とヒューマノイド用のカプセル型のメンテナンスベッドが2台、天井まで届く巨大サーバーが1台と…クオリアの言った通り、物がありすぎて確かに狭い…。

 ベッドの片方は空いており、多分クオリアの…もう一つの中には『クオリア』が入っていた。

「パーツを作る工作機に材料、大量の予備部品に、予備用の義体…。」

『今の義体メンテナンスは 高度な技術に依存しているんだ。

 もし その技術が何らかの方法で失われたら如何(どう)する?

 メンテナンスを受けられなくなったサイボーグは、そこで死亡確定さ。

 更に言うなら、メンテナンス用パーツの製造が停止、高度化による規格の変更によってパーツが合わなくなって死ぬケースもある。

 『不老不死』とか呼ばれてはいるが実際、生身の方が身体の寿命は長いんだ…』

 先ほど聞いたカレンの言葉を思い出す。

「パーツの供給が難しい外国で生活するには これ位は必要なのか…。」

「多少過剰では あるんだがな…。

 ただ今後、数が増えるなら ここが病院になる。

 この設備を置く時に運営と問題になったんだがな…。」

 クオリアが機械類に埋まったドラムを掘り起こし、チェックプログラムをかける。

「……。

 もしかしてオーパーツの持ち込み?」

 この都市は都市で製造出来ない物の持ち込みを禁止ている。

 便利だからと、構造も分かっていないのに新しい技術でインフラを作り、致命的な欠陥1つで対処できなくなり 壊滅した大戦での教訓らしい。

 もちろんサイボーグ(トランスヒューマン)などは ヒトとして持ち込まれるので、ある程度融通は利くのだが…。

「そう…でも私が長期滞在するならメンテナンス施設は必須だったから、アントニーが機転を利かせてくれた。」

「あーそれで大使館。

 エレクトロンの領土だからオーパーツを置いても問題ないよな てか…。」

「もちろん危険物は持ち込めないが、工作機械なら持ち込む際に警察のDL一個小隊が完全武装で護衛に つかれるだけで済む。」

「だけ…なんだ…」

 まぁ『歩く大量破壊兵器』と呼ばれているエレクトロンが作った物だ。

 警戒しすぎて無駄と言う事は無い。

 とはいえ、前評判を聞く限りクオリアが何かやらかしたとしても、オレ達で止められるとは 思えないんだが…。

「よし動くぞ。道を開けてくれ…。」

「はいはい。」

 近くにあるキャスターをどけて ドラムが通れるギリギリの道を確保する。

 ドラムが起動し、2台が並んでオレを通り過ぎ、廊下に出た。

 すれ違う際にドラムのディスプレイを見たらクオリアの顔が映っていた。

「あの2機、クオリアが操作しているのか?」

「そう、私をコピーして差分情報だけを共有している。

 そちらの方が レスポンスが速いからな…。」

「へえ…ネットワークが本体だと そういう事も出来るのか」

 人だったら自分のコピーを作るのは、出来るとしても やらないだろうからな…。


「じゃあオレは病院に戻るな」

「別に警備をつけたんだからナオが行かなくても…。」

「今回の相手は 機械相手に対して かなり強いんだから、生身で対処出来る事もあるかも しれないだろう…。」

 そう言い、腰のホルスターに入っているリボルバーを見せる。

 45口径の6発式で、様々な特殊弾にも対応してる。

 リボルバーからシリンダーを抜き、弾の種類を確認する。

 非殺傷弾が3発、殺傷用の弾丸が3発…。

 非殺傷弾を3発も食らってもまだ抵抗するなら即射殺だ。

 躊躇(ちゅうちょ)すれば こっちが死ぬ。

 最後に初弾を非殺傷弾にセットし終了…ホルスターに銃を収め、ピンでとめる。

「ならドラムで送る。

 下で待たせて置く。」

「ありがと…じゃ行くわ」


 寮の外のドラムには背中を開く事で人が乗れる足場を作れる。

 ナオ(オレ)は立った状態でドラムをつかんで乗り、ゆっくりと動き出す。

 後ろの人を振り落とさないように加速やカーブはゆっくり目に進み、この都市の中心の警察署に行き、そこで装備一式を換装してもらう事になる。

 大通りをドラムで飛ばす オレは『これって自家用車の保有になるのかな?』と言う割と 如何(どう)でも良い事を思っていた。

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