25 (貫かれるコックピット)
「じゃあ次は オレ達だな…」
レナ達は ネットのDLマスターズで勝負をしていたが、こっちは艦のサーバーを使ったシミュレーターだ。
DLマスターズは こっちが入力した情報を地球連合のサーバーで処理を行い出力データを通信でプレイヤーに送信する。
こうする事で、プレイヤー側がDLマスターズのデータを書き換える事が出来なくなり、システムの安全性が確保出来、こっちが使うスペックは大幅に削減できる。
ただ…ファントムやフェニックスで戦うなら、自作MODしか無く、大元のデータがこちらに無いので国連のサーバーにMODをアップするしかない。
そして 安全性の為に 徹底的なチェックが行われるので、時間が掛かり 難しいと言う即応性に欠ける事がデメリットがある…。
ナオとラズロが 艦の民間回線からシミュレータールームにアクセスし、ファントムとフェニックスのデータをインストールさせる。
この艦に搭載されている娯楽用のVRサーバーは、仮想空間上に都市を作り上げる程のスペックがあり、狭い艦内のストレス軽減の為…と言うより、スペースが取れない現実とスペースを無限に取れる仮想空間の二重生活になっていて、乗組員は それぞれを自然に行き来している。
「フェニックスには ナオと私が乗る…。」
「アレって複座型なのか?」
クオリアの言葉にオレが聞く。
「後ろのスペースに補助席がある。
ナオの今のスペックでは 動かせるだろうが、かなり扱いづらいはずだ。」
「まぁ取り合えず動かして見るよ。
ラズロ…まずは慣らし運転からだ。
そこから 戦えるなら戦うって事で…。」
「分かった…いっちょやりますか~」
ラズロがそう言いダイブし、それを確認した オレとクオリアは、ハンガーの横に設置されているベンチに座り仮想世界にダイブした。
海の上に浮かぶ、長さが2キロの巨大なメガフロート…。
ここは 海上都市シーランド王国の仮想空間上に作られたVR上の都市だ。
ナオとラズロは メガフロートの端の格納庫の中に現れ、オレ達がフェニックスを…ラズロがファントムを召喚する。
赤と緑の量子光がゆっくりと機体を再構成している間…ふとオレは周りを見る。
周りには 倉庫区画だってのに 近くに店があるのか、空飛ぶバイクに乗る人や、仮装したようなアバターが通り過ぎている。
「流石にここはマズくないか?」
オレがラズロに言う。
「なに…こっちの連中は イベントで通してあるから大丈夫。
VR上だから、かなり過激な事をやっても大丈夫なんだな…。」
「うえ…また面倒な事にならないと良いんだけど…。」
ラズロは つくづく過激な事をする…。
ファントムにラズロが乗り込み、フェニックスにオレとクオリアが乗り込む。
システムと設定をクオリアにやって貰い…ダイレクトリンクシステムを起動させ、駐機姿勢のフェニックスを立ち上がらせる…。
「うおっと…。」
機体が傾き…危うく転びかける。
「重心位置が高い…。」
オレが使っていた黒鋼もそうだが、肩装甲が重くして 重心位置を高くし、倒れやすくしているのだろう…。
その代わりに 倒れやすくする事で 機体の瞬発力が上がり、一瞬で向きを変えて移動する事が出来る。
特に 当たる=ほぼ撃墜の今の現代では、未来予測システムの警告を受けてから如何に早く回避するかが 重要となってくる。
とは言っても、早く回避が出来ても その後バランスを崩して転び、そこを狙われたのでは意味が無い…これを扱えるパイロットは限られて来るだろうな…。
オレは 今にもすっ転びそうな機体を慎重に立ち上げ、歩いてみる。
「うわ…なんだ この機体…動きやすい。」
ラズロがファントムを立ち上げ、すぐさま 急加速し、右旋回でライフルを構え、すぐに左旋回して構える。
初見だってのに早くも高速戦闘機動を取れている。
「へえ…最大戦闘能力や武装に問題があるだろうが、操縦はし易い。」
確かに出力は抑えめだが、機体制御はサポートが多めで こちらで制御する数が圧倒的に少ない…。
面倒な事は全部機械に丸投げする『トニー王国』の設計思想だ。
なるほど…馬鹿でも戦える機体か…案外良いのかも知れない…。
「こんな欠陥機で良くアレだけの戦闘が出来るな…。」
ナオが操るフェニックスがヨロヨロと頼りなく歩く…。
「やっぱり無理か…サポートに入る。」
後部シート…と言うより緊急用のバックパックを入れる スペースに座っているクオリアが言う。
フェニックスのバランス制御をクオリアに肩代わりして貰い、ふらつきが直る。
「やっぱり システム側でバランス調整をするのが無難か?」
本当に こんなじゃじゃ馬 機体を よく制御仕切る…悔しい事にパイロットの性能は 向こうが上のようだ。
「私もそう思う…と言うより、バランス調整システムを最低限しか入れていない…。
それでも パイロットのスペックが良いから十分に動けるだろうが…。」
「まだギリギリ 人の域のオレには無理だよ…。」
オレがクオリアに言う。
『さてと、模擬戦に行こうか…。』
ラズロ機のファントムがボックスライフルなどの装備を装着しつつ言う。
「性能はこっちが上だが、まともに戦えないだろ…。」
「私のサポートがあれば互角になると出てる。」
「と言う事はクオリアだけなら圧勝か?」
「…YESだ…。
ただ、今回の目的に反する。」
「分かった…『ウィザード』よろしく。」
「……了解『ガンナー』は頼む。」
オレが機体を加速させ、街中の道路を急加速で滑走する。
「ちょ…。」
暴れ機体を制御するのに集中していて、道路にいた人をひき殺すが、当たり判定をOFFにしているのか、人をすり抜ける。
周りの人は逃げる所か寄ってくる始末で、完璧にお祭りのイベントのようだ。
街中を滑走して逃げるナオ機に対して、後ろからボックスライフルで撃ってくるファントムのラズロ機…。
ナオ機は建物を盾にして回避…銃弾はビルに当たる。
辺りからは悲鳴では無く『おおお!!』と言う歓声が聞こえ、建物の屋上からスティンガーミサイルを遊び感覚でラズロ機にぶっ放し、援護してくれる人もいる。
地対空用のスティンガーミサイルは、歩兵がDLを撃墜する際に使われる物で、発射した弾頭がラズロ機の腹部に狙ってホーミングし…命中。
耐弾ジェルは 比較的爆発に弱い為、普通なら腹部損傷で機能停止するはず…なのだが…。
あえて避けずに命中したラズロ機は爆炎からゆっくりと出て来て、チッチッチと指を振り、機体が無傷だとアピールする。
『うっは…スゲーな あの新型…スティンガーの直撃でも無傷かよ…。』
スピーカーから ぶっ放した男の声が聞こえる。
ラズロ機は、建物の上にいるスティンガー持ちの男に向けて発砲…パイロットスーツを着ていない男に命中して 身体がバラバラになり、量子光を放ち強制ログアウトした。
狙いは正確…。
「クオリア!!ライフル…右手。」
「了解…。」
右手に赤い量子光が集まりライフルの形になり 実体化…。
「ステアーかよ…。
なんでアメリカ人がオーストラリアの銃を使ってんだーよ…。」
ナオ機が手に持っている銃は ステアーAUGをDLの大きさに拡大したアサルトライフル。
流石に火薬式では無く機構自体は コイルガンで、同じなのはデザインだけだ。
使い慣れないブルパップだが…どうにかなるか?
ナオ機が腰で構えながら撃つ。
ラズロ機が横に跳び…回避…うわっ未来予測システムの警告より早く反応している。
「この距離じゃ当たらないか…なら接近する…左腕ブレード…。
背中ウイング」
「了解 左腕ブレード…背中ウイング。」
左腕に直付けで大きな剣が現れる。
剣の刃先が量子光で輝き、無限の斬れ味を発生させる。
背中には量子光の翼が現れ、前にジャンプして急加速する。
やっている事は砦祭でのレースと同じだ。
ラズロ機に急接近し、速度を乗せ、左腕のブレードで突き刺す…。
ラズロ機が 右腕のシャベルシールドで防御…火花のように量子光が舞い…加速時の運動エネルギーが無効化され、左腕が後ろに行く。
「流石に無限の斬れ味も無効化されるか…まぁ予想通り。」
すかさず、ステアをラズロ機の腹部に向け、フルオート射撃…ほぼ0距離で発せられた速度MAXの銃弾が腹部装甲に当たるが、装甲に当たった瞬間に運動エネルギーを相殺され、銃弾の形を保ったまま変形せず、パラパラと下に落ちて行く異様な光景が展開される。
なら…。
「クオリア!!」
「了解…」
ナオ機がラズロ機に抱きつく…。
フェニックスの量子転換装甲とファントムの量子転換装甲がぶつかり、空間ハッキングの改変が行われ、双方運動エネルギー0にされる…つまりくっついたまま動けない。
だが、ファントムは運動エネルギーを相殺するだけだが、フェニックスは装甲自体のコードを書き換える事が出来る。
つまり、相手の装甲情報を解析し、相手の空間ハッキングに割り込む事でハッキングその物を不発に終わらせる…。
これは マシンパワーが無いと無理で、カツカツのファントムには出来ない芸当だ。
装甲を無効化…更に強く抱きしめ、バキっと言う音と共にファントムの背骨を破壊し、腹部を破壊、上半身と下半身が分裂し、地面を滑走する…キューブと切り離された事で、実体化を保てず 下半身が量子光を放ち消失する。
「ふう…どうにか勝てた…。」
ナオ機が腰を降ろし、駐機姿勢になり一息つく。
「なあ…クオリア…。
これ、ファントム同士で戦った場合 マシンスペックさえあれば、装甲強度は 関係なくなるんじゃないか?」
「そうなる…。
つまりコックピットが簡単に貫ける事になる。
これは 生存を最優先するDLのコンセプトに反す事になる。」
「そこも、改善か…武器側でコックピット装甲に反応して貫けないようにするしかないか…。」
「そうなると、そのコックピット装甲で全身を追われるだけだ。
だから火器管制の方で コックピット装甲への攻撃を無効化…他は有効化にするしかない。
と言っても、プログラムである以上…解析して突破されればコックピットを貫けるから…最終的に人の良心に頼るしか無くなる。」
「戦争で一番頼りに ならないのが その良心だぞ…」
「分かっている…が、火力を求める以上…使う側が学習して変わるしかない。
DLは道具で、道具の責任を負うのがパイロットだ。」
「分かっているよ…でも難しい問題だな…。
取り合えず、研究都市にデータを送ってキューブ側を如何にかして貰うか…。」
「了解…演習終了…ログアウトする。」
オレとクオリアが量子光に包まれログアウトした。
「あー負けた…悔しい~」
ラズロが言う…先に負けたヨハネとイオアンのチームは、ヨハネの怒りが収まったのかベンチに座っている。
「お疲れ…如何だった?」
「完敗さ…いや…スゲーぜ ナオ…。
両方の機体の特性を完璧に理解して立ち周っていた。」
ナオが オレに聞くと 少し興奮気味にオレが答える。
「とは言っても2人で操縦していたんだろう…。
流石のオレらもエレクトロンがいたら負けるだろう。」
ベンチに座って足を伸ばしているヨハネが言う。
「でも、クオリアは機体制御に徹していたらしい。
動きには ムラがあった。
とは言え、初見でフェニックスだから仕方ないんだろうな…。」
「それで、ファントムは如何だった?」
ヨハネの隣で座っているイオアンがラズロに聞く…。
「機体バランスが 良過ぎて扱いやすい…。
本当にベックの標準型を扱っている見たいだった。
こっちには 性能的に物足りないんだが、ベック乗りなら 機種転換訓練 何てしなくても十分に行けるだろうな…。」
ナオは 戦場に必要な機体を知り尽くしているのだろう。
扱いやすく、壊れにくく、拡張性が高く、新兵でもそれなりに使える機体…。
「バカにしていたが…フェニックスも まだ改良の余地があるな…。」
オレもベンチに座り、今回の模擬戦でのデータ解析を始めた…負けたってのに、オレの顔には笑みが浮かんでいた。




