表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/354

16 (滅びたレーション)

 砦学園都市の中心にある 地上の倉庫に繋がるエレベーターに乗り、アントニー、レナ、ジガ、トヨカズ、カズナ、ロウが上がり、荷物を下ろす。

 倉庫には 研究都市から走って戻って来た ナオ(オレ)とクオリアが待っていた。

「これでそろったね…。

 ナオ…DLは?」

 アントニーがオレに聞く。

「あ…これ」

 オレは背負っているバックパックを開き、キューブを取り出す。

「ほう…これが…。」

「まだ粗削(あらけず)りだけどな…。」

 オレが言う。

「それじゃあ…こっちの物資も積みましょう…」

 エアトラS2に入っているパワードの固定ネットを外し、弾薬コンテナを開けて中にマガジンを積みこみ、ハードポイントにも取り付けて行く。

 マガジンの数は いつもより多めだ。

 機体を固定し、次に エアトラS2の推進剤を補給…。

 今回は 使う予定は無いが、酸素と水素から飲料水を作れるので緊急時には役に立つ。

 そして、レーションを入れた大きな折り畳みコンテナ(オリコン)をアントニーが持ってくる…。

「あれ?これで全部?何日分?」

 食料は 4人分のはずだが、見た所やけに少ない

「全部で120日分…4人だから1人30日だね…。」

 アントニーがオレの質問に答える。

「よくこんだけ、収まるな…。」

 旧時代の自衛隊のレーションなら120日分で 350㎏位には なるはずなのだが、コンテナを持ち上げて見ると40㎏も無い。

 となると1日分当たり300g程度になのか…。

「中は どうなってるんだ?」

 オレは 一旦いったんコンテナを地面に降ろし、フタをはずして中身を確認する。

 中は、ぎっちりと軽量の炭素繊維プラスチックの箱が入っていて、1つ箱を取り出して開けて見ると真空包装されて3つの切れ目が入ったショートブレッドが入っている。

「ミートキューブだけか?

 連食(れんしょく)は 精神を()(つぶ)して士気(しき)をダダ下がりにするぞ…。」

 食事と言うのは 戦う兵の士気を上げる重要な役割がある。

 第二次世界大戦で 数ヵ月単位で連食させられたアメリカ兵は 食べる事が苦痛に感じて、それなりにまともな味のレーションのMREをMr.E(ミステリー)とか、Meals(敵から) Rejected(も拒否)by the Enemy(された食べ物)とか、Materials(食べ物) Resembling(に似た) Edibles(何か)などと言ったらしい。

 とは言え、旧日本軍 見たいに補給も出来ず、プロパガンダで撤退出来ない状態にして、戦死者の半数が餓死(がし)になる名誉が一切無い死に方になるよりかは(はる)かにマシなのだが…。

「あ~昔はそんな事もあったらしいけど、今はARの料理がいくらでも食べられるから、疲弊(ひへい)はしないね…。」

「……ああ、そう言えばそうか…。」

 基本小型サーバーさえ持って行けば、数十万種類の食事が好きなだけ食べれる…。

 確かに こちらの方が効率が良いし、これならリアルがミートキューブだけでも、士気が落ちず如何(どう)にかなる。

「元々、AR料理は 宇宙食の軽量化から始まったからな…。

 ARなら無重力下でも制限無しで いくらでも食べられるから、乗員のストレスを軽減できる。」

 オレの隣にいるクオリアが言う。

「一応味は、フルーツ、チョコ、メープル、プレーンの基本の4種類。

 品質保証期間は1年切ってるけど 十分に使えるよ。」

 オレがレーションのコンテナを持ち上げ、ハッチの前で待っているクオリアに渡す。

 クオリアはDLのパレットの横からコンテナを入れて、自分もその小さな隙間(すきま)から乗り込み、備蓄棚にコンテナを入れて扉を閉め、コクピットに移る。

 その次は ジガだ。

 ジガは 駐機姿勢のトヨカズ機の炎龍(エンリュウ)の肩に(あが)り、上から中に入る。

 続いて、レナにカズナ、ロウの順で入り、オレは アントニーから最後の荷物を受け取る。

 両手で抱える程の大きさの正立方体の箱で、パイロットスーツを着ている手なので 熱は感じられないが、サーモグラフィで箱の外装から熱を放っている事を確認する。

「これは?」

 オレがアントニーに聞く。

「これは 高濃縮トリチウム…原子力電池の燃料だね。」

 トリチウム…三重水素…放射性同位体か…。

 オレは サブタスクで即座に検索を始める。

「放射線は?」

「厚さ0.5mmの炭素繊維の2重装甲で(おお)われていてる。

 貫通力の引くいβ(ベータ)線なら これで十分…向こうに行ったらこれを渡して下さい。」

 トリチウムから出る放射線と、人体被害が出る放射線の安全基準を確認。

 更にβ線の貫通力を調べ、アントニーの言っている事が正しいと確認して受け取る。

 調べて見て分かったが遮蔽(しゃへい)さえしてれば、人体に被害を出すには 放射線量が低すぎるし、例え問題が起きたとしても、海に投棄(とうき)すれば 最大40日程度で無毒化されるらしい…。

 更に言えば 元は水なので身体の特定の部位に長時間留まる事も無く、短期間で尿として排出されるので、意外な事に放射線同位体の中では一番安全と言える。

「分かった…。」

 オレは 高濃縮トリチウムの箱を受け取り、機内の端に3箱乗せてネットで固定する…これで後は 乗るだけだ。

 トヨカズが 炎龍(エンリュウ)の肩に(つか)まり、中に入り 最後にオレが入る。

 エアトラS2の中はギチギチで、シートの後ろには まともに移動が出来ない。

 オレが右の端にシートの上から入って座り、シートベルトを閉めるとほぼ同時に後部ハッチが閉まった。

 倉庫のハッチが開き、エアトラS2を乗せているクローラー・トランスポーターが動き出し、外まで移動する。

 外は雪が無く、短い春を迎えていて、天気は良好…綺麗な夜空が見える。

 エアトラS2のプロペラが上を向き、回転を始める。

 積載重量ギリギリの機体が ゆっくりと持ち上がり、少しずつ高度を上げて行く…。

 ARで壁が透過し、こちらから外が見えるようになり、プロペラを斜めに傾ける中間モードで前に進みだし、空力を十分に確保した所でプロペラ機モードに切り替え、更に加速する。

 今回の目的地『シーランド艦』は ここから巡航速度で30分の位置にある海を航行中で、オレ達は そこに乗る事になる。

 オレは バックパックの中からファントムのキューブを取り出し、有線ケーブルを首に繋ぎ もう一方をキューブに()す。

 研究都市の研究員が頑張ってくれたお陰で、DL用の互換性は出来た。

 と言う事は オレ用に個人調整が出来る事になる。

 ファントムに搭乗者のアカウントを追加し、オレが黒鋼(クロガネ)を操縦していた時の個人調整データを入れて見る…データは正確に変換され、機体の調整が始まる。

 現状だと キューブのスペックの都合上、量子フライトユニットでのロングジャンプは 使えないし、深度1000mなので 通行止めを常に全身に展開しないと行けない…。

 更に この深度だとライフルの類も圧壊するレベルだで、使えるのはシャベルだけ…どこまで持つかは別だが…。

 結局、作戦ギリギリまで改良して如何(どう)にか するしかないか…。

 オレの横の席に座っているトヨカズ、ロウ、カズナ、レナは共に賑やかに空を楽しんでいる。

 これから戦場に行くと言うのに 家族旅行に来た見たいなノリだ。

「そこまでリラックス出来れば良いんだけどな」

 ずっと周りを警戒し続けると精神が疲弊(ひへい)するから、適度にリラックスする必要があるのだが、オレはそんな風には、器用に振る舞えない。

 もしかしたら、ロウとカズナには 周りをリラックスさせる効果があるのか?

 そう思いながら オレは 今頃作戦の準備が始めてるだろう空に薄く見える月を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ