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15 (電子幽霊事件)

 学生寮 1階カラオケルーム。

「電子幽霊?」

 幽霊は分かる、実体のない怨念(おんねん)や呪い殺したりするアレだろう?

 それが電子?

 お葬式から1週間後の夜…やっとこの生活にも慣れてきて、いつも通り夕食を済ました後に、重要な話があると クオリアに呼ばれ、完全防音の機能があるカラオケボックスに2人で入りクオリアが話す。

「そうだ、ここでは発生したとは聞いてないが、高度化された都市では(まれ)では あるが出る。」

「それは霊的な物なのか?」

 ナオ(オレ)がクオリアに言う。

「幽霊の定義にもよるが、ここでは機械由来の現象だな…。

 情報を処理するコンピューターは 低レベルだが自我や魂を持っているんだ。」

「は?じゃなんだ?オレのメックが勝手に喋りだしたりするのか?」

「さすがに会話まではな…。

 この世界の ありと あらゆる物は 量子レベルで行われるエネルギー交換から生み出される情報で構成されているんだ。

 2000年代のノイマン型コンピュータにも、企業サーバーとかの大規模な情報処理をしている機械は、エラーレートが時間と共に上がって行き、通常ならエラーを抑え込む修正プログラムが働いて いるから気にならないが、修正(しゅうせい)レベルを超えると使い物にならなくなるので『壊れた』て事になって処分されるんだ。

 でもそれは、魂や自我が形成された結果なんだ」

「つまり自我や魂は情報処理のエラーから生まれるって事?」

「厳密には情報処理なんだがな…この場合はエラーで正しい。

 で2000年代のノイマン型コンピューターは、生まれる自我なんて無視できるレベルだったんだが、次のニューロコンピューターは、処理速度が桁違いに早いのと 人の脳を模倣(もほう)している事もあって、エラーレートが急上昇した。

 それにともなって修正プログラムも進化はしたんだが、1時間で人の脳の数千年分の情報を処理できる今のコンピューターでは、このエラーが新たなプログラムを作り出すレベルにまで達して問題を起こし始めた…これが電子幽霊」

「つまり都市の管理システムのバグからくる怪奇現象?」

「人は頭が柔軟だな…その言葉であってる。」

「いやクオリアが複雑過ぎるんだって。」

 クオリアは辞書を引いたように正確に話すものの、話を簡潔(かんけつ)にまとめる事は苦手だ。

 多分エレクトロン自体が高性能なので『簡潔(かんけつ)にまとめる』なんて事は やらないんだろう。

「んで その怪奇現象が ここでも起こったのか?」

「確定ではないが おそらく起きている。」

 クオリアはそう言うとオレの目の前にARウィンドウを表示させ、可視化モードで見せる。

「それで今回の事件だ。

 被害者は『ハナダ』と呼ばれる人で 年は20歳、3年に所属している」

 クオリアが『ハナダ』のプロフィールや略歴を表示する。

 何処(どこ)から持ってきたのかは あえて聞かないが『典型的な働きたくない人』だ。

 高校を卒業と入学を繰り返している。

 ここではニートでも毎月 生活保障金が振り込まれるんだが、学生をやっているのは対面的な物だろう。

「ハナダ曰く『犯人は顔を布袋で隠していて、ナイフで殺そうとしてくる。』との事。

 事実ハナダを殺そうとする時、偶然(ぐうぜん)居合わせた女性が首を切りつけられている。

 これが傷跡の写真」

「うわっ」

 首の気管を狙ったのか傷跡は横向きに浅くついていて、出血している。

 もう少し深く切られれば 気管を切られて呼吸が出来なくなって死んでいただろう。

「で女性の証言は?」

「傷を見る限り、後ろから抱きつく形で切り付けられたのだが『切られた感覚はあっても抱きつかれる感触は無かった。』と証言している。」

 クオリアがジェスチャーをしながら説明する。

「そいつ腕が異様に長いのか?」

 抱きつかずに首を切るには、腕が異様に長く、多関節である必要がある。

 当然ながら人では不可能であり、サイボーグになるんだろうが…そもそも必要性がない事が問題だ。

 なぜ抱きつかなかった?

 腕で拘束すれば逃げられずに確実に殺せたなのに…。

「これが大前提だ。

 問題なのは、街頭カメラが『殺人未遂』ではなく『ケガ』として病院に通報していると言う事だ。」

「確かこの都市のセキュリティを任されているのは『ケインズシステム』だよな」

「そうだ…町中のセキュリティカメラと住民の中にあるマイクロマシンで行動ログを取っている。

 何かの犯罪が起きれば過去24時間の行動ログが警察に提出される。」

 人権?プライバシー?何それ?の状態ではあるが、少なくとも犯罪が起きる(病人が出る)まで、プライバシーは保証され、それを管理するのも学習能力が無い ただの機械だ。

 しかも冤罪(えんざい)が起こらず 裁判も1週間で決着がつく為、この時代の色々な都市に導入されている…らしい。

「で、これが街頭カメラの犯行映像だ。」

 クオリアは ARウィンドウの画像を切り替え、映像を流す。

「は?」

 そこには、犯人が映っていなく女性の首が何もないのに切り付けられた映像だった。

「光学迷彩?……いやハナダには見えていたんだよな…と言う事は街頭カメラを騙したのか?」

 確かに観測機器である街頭カメラを黙らせれば『ケインズ』は通報はしない。

 ただ被害者の身体に仕込まれているバイタル確認用のマイクロマシンは誤魔化せなかったのか、本人のバイタルが不自然(おか)しい と分かって『ケインズ』が病院に通報したと言う事か?

「これセキュリティを今すぐにアップグレードさせないと、マズくないか?」

 この都市が、少ないものの移民を認めて治安を維持出来ているのは『犯罪行為をすれば100%見つかる』と言う抑止力(よくしりょく)によるものだ。

 万が一このジャミングプログラムが流出すれば、地球上の同じケインズシステム型で運営されている都市で 犯罪がやりたい放題になり、なおかつ証拠が無い為 起訴出来ない完全犯罪が成立する事になる。

「実際マズい、現状『ケインズシステム』は 完璧なシステムだ。

 (ゆえ)に原因が特定できない欠陥が見つかってもシステム要員じゃ対処が難しい。」

 人がケインズを総当たりで検査にかけていたら1ヵ月はかかる…それだけこの都市のシステムは大規模なんだ。

 更にその検査プログラム自体が騙されている可能性もある。

 人力で調べる方が確実だが、年単位の時間がかかるので論外だ。

 エレクトロンのクオリアに調べさせれば、現実的なレベルで終わるだろうが、人が把握(はあく)不可能な『バックドア』を仕込まれると言うセキュリティ上の問題が発生する。

 実際の所 クオリアがやったとしても自己防衛の為か、周りに不利益にならないように使う はずなので問題は無いと言えば問題ないのだが、これを上に言って信用しろと言ってもダメだろう。

「だから電子幽霊にしろ 人間にしろ 捕まえてジャミングプログラムを奪う必要がある。

 それさえあれば 解析してパッチを当てる事は簡単だ。」

「クオリアは どっちだと思ってる?」

「どちらかと言えば 電子幽霊だと思っている。

 監視用マイクロマシンは 入れない事も出来るだろうが、質量を消せる訳じゃないから入国時に感圧センサーに引っかかる。

 仮にそれも誤魔化せたとしても常にジャミングを掛け続けないと いけない。

 急にジャミングをかけて人が消えたら記録に残るはずだからだ。

 それに…そもそも やる理由その物がない…。

 人は利益がリスクに見合わなければ保守的な行動を取る。

 今の生活を崩されたくないと考えるからだ。

 これだけ面倒な事をやって犯人に何か(えき)が有るとは思えない」

「なら、とりあえずハナダをエサにして犯人が食いつくのを待つか?」

「私もそれがいいと思う。

 ハナダなら病院にいる…あそこの警備はしっかりしているからな」

「ならついでにメンテナンスの予約でも入れておくか…。」

 今までは1日ごとだった定期チェックが1週間ごとになって 次の検査で異常が無かったら1ヵ月ごとのチェックになる。

 かなり面倒ではあるが、自分の身体に関しての事だし、更に人体実験に対する報酬もあって、生活保障金と合わせると この都市の中級階層位の所得を得ている。

 最後にクオリアは『この件は他言無用』とだけ言って部屋に戻っていった。

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