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26 (ゴールドスミス・ノート)

 物語の舞台は17世紀イギリス…。

 金細工(きんざいく)職人のゴールドスミスは、その名の通り(きん)を加工して売る職人だ。


 ある日ゴールドスミスは 大商人の『セルバンテス』と何気ない会話をしていた。

『いやー稼げるのは良いのだが、金貨の管理には 心労をもたらす。

 しかも 金が無いなら ある程度稼げば 不安は収まるが、金貨は持てば持つほど心労が増える。』

 セルバンテスはそう言い、ため息を漏らす。

 この時代は まだ金本位制(きんほんいせい)で、通貨は金貨、銀貨、銅貨を使っていた。

 大商人は 金貨で取引をする為、家には大量の金貨を置いており、取引する時は 馬車に重い金貨を乗せて いちいち運ばなくてはならなかった。

 当然 金貨の輸送を狙いって襲撃する(やから)は 後を絶たないし、だったら金貨を守る傭兵を雇えば良いかと言うと、その傭兵があっさりと裏切り、馬と金貨1箱を奪って何処(どこ)かに行ってしまう。

 そう言った事もあり、警備も信用できず、屋敷に置いておくにも不安が残り、セルバンテスは 数人程度なら如何(どう)にかなる程度に自分を鍛え、大きな馬車を買い、常に自分が金貨を管理する事にした。

 自分以外の人間は 信用出来ず、自分が守るしかない…いつしかセルバンテスは精神が疲弊(ひへい)していた。

 ゴールドスミスは セルバンテスの話を聞き…少し考え、こう言った。

『だったら、その金貨は私が預かろう。

 私は金細工(きんざいく)職人だから家には 簡単に破られない金庫があるし 信頼出来る警備もいる。』

 確かに自分は商人で、金の管理については 金細工職人の方が適任か…。

『だが、君が私の金貨を盗む可能性がある。』

 用心深いセルバンテスは言う。

『だったら、君と私の名義で預かり証を書こう。

 君が預けた金額分の預かり証に書いて、私はその預かり証と引き換えに記載されている分の金貨を渡す…。

 あー勿論(もちろん)、手数料は いくらか貰うがね…。』

 『セルバンテス』は、少し考え『分かった…頼む…。』と言った。

 こうしてセルバンテスの心労は消え、預かり証と言うポケットに入る軽い紙を守るだけで、金貨を安全に引き出せるようになった。


 さて、しばらく過ぎ…セルバンテスの話を聞いた大商人は 商人の最大の悩みを解決してくれるこのビジネスを聞き付け、あちこちから、商人が来ては ゴールドスミスに金貨を預け、その度に商人とゴールドスミスの間で預かり証を書いた。

 預かる金貨の数は日増しに増え、手数料の一部で金庫をどんどん大きく丈夫にして行った。


 更に月日が流れ…ゴールドスミスは 商人の間で不思議な現象が起こっている事に気付いた。

 最初の頃は 取引先の人間と一緒にゴールドスミスの所に来て、こちらで金貨を積み込んでいたが、預かり証を取引先に渡す事で契約を成立させていたのだ。

 まぁ理屈は分かる…。

 ゴールドスミスの所に行き、預かり証を渡せば確実に金が手に入るのだから、わざわざ馬車を使って重い金を取りに行く必要は無い…心労が増えるだけだからだ。

 それに預かり証と言う紙なら、持ち運びが簡単で 襲われる危険性も格段に少なくなる。

 これが 最初の紙幣だ。


 さて、次に大量に金貨を持っているゴールドスミスに(かね)を借りたいと言い出す者が現れた。

 そこでゴールドスミスは 更に考える。

 今は大半が預かり証の交換で取引が行われていて、(きん)に交換するのは この取引が広まっていない海の向こうの商人だ。

 なので、金庫には 大量の金貨がある…。

 勿論、預かり証を全部かき集めれば 金庫は空っぽになるはずだが…。

 一度に全員が交換しに来るとは 到底考えられない…そう、1割もあれば十分だ…。

 ゴールドスミスは 金を貸す際に金貨では無く 預かり証を発行する事で 全預り金の9倍もの金額の預かり証を発行するようになった。

 信用創造…無からお金が生まれる錬金術が誕生した瞬間だ。

 その後は ゴールドスミスは、支店を各地に広げ、引き落とす(きん)が足りない時には、支店同士で金を移動させる事によって、更に預かり証を発行出来るようになっていた。

 最終的には 当時の国民がこのシステムを受け入れられず、ゴールドスミスは 詐欺師として死刑になったが、このシステムを国が引き継ぎ、後のイングランド銀行に繋がる。

 そして (きん)が無く、軍備や報酬が払えない予算的制約を抱えていた各国との戦争で、信用で(かね)を作れるイギリスが経済力で勝利した。

 

 その後は 各国でこのシステムが採用され、一般的な銀行になった。

 つまり、銀行が預かり証(紙幣)を発行する事で、銀行側は預かり証分の負債(ふさい)を負い、銀行で借りた人は、預かり証分の利益を得る。

 その後、借りた人が 銀行に借金を返す事で、負債(ふさい)と利益が相殺される。

 ただ借金の返済に使われた預かり証は、銀行が信用と言う実体が無い物を担保(たんぽ)に発行される物なので、預かり証の発行は その通貨を使う国の物の最大供給能力が上限となる制限はあるが、実質無限に発行する事が出来る。

 さて、今までは現金のみ での取引についてだ…。

 今は、口座の変数の上下するだけで このプロセスをやっていて 自国通貨建てで運営されている国が破綻する事は まずない。

 これが金融の基本だが、日本は 国と銀行がリスクの(ほとん)どない負債(借金)を負う事が前提で、国民が利益を得るシステムだと言うのに、政府が意図的に それを無視し、日本が滅びるまで返済する必要が無い政府の負債(国の借金)を返済しようとした為、国民が利益が得られ無くなり、会社が潰れ、それは国の生産力を落とす事に繋がった。

 これが 国の集団自殺…緊縮財政だ。

 まぁ予算上限の限界が ほぼ無い状態が普通なのに、予算制約を設けたガチガチの縛りプレイで国を運営したら、そりゃあ国がボロボロになる…ある意味当然の事だ。

 最終的に 内政がボロボロになった日本の12倍の軍事力を持つまでに成長した中国と戦争…する事も出来なく、日本の政治家が、自国を守らず、他国の企業に積極的に自国の切り崩して売った為、日本国籍を持つ中国人が日本人の過半数を超え『実質、中国領土』となった。

 

 シアタールームの照明がつく。

『お疲れさまでした。お忘れ物の無いよう、お気を付けて退出をお願いします。

 本日はご利用ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。』

 ドラムちゃんの声がスピーカーを通して聞こえ暗幕が閉じていく…。

 辺りが明るくなり、客が次々と退出していく。

 17世紀の金融工学から入り、21世紀の日本の買い取りまでを上手く2時間ちょっとに収め、最後は日本が買い取られるバットエンドと言う形で終わった。

 史実(しじつ)忠実(ちゅうじつ)に作られ、金融システムも出来るだけ分かり易いように説明されていたと思う。

 ナオ(オレ)とクオリアは スプリングと一緒に一番最後にシアタールームを出た。

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