22 (空に咲く花畑)
都市の天井スクリーンの日が沈んで行き、空が赤くなり始め 夕焼けが始まり、都市中の街灯が点き始める…。
それから5分後の午後6:00…毎日1秒もズレない この都市の夜が始まった。
「「お疲れー…。」」
カンっとグラスがぶつかる音がする…。
寮の屋上には、トヨカズとレナに カズナにロウとヒロム…後はジガとクオリアがドアを開けてやって来た…。
ジガが 背中で寝ているナオをベンチに降ろして座らせている…。
「何でナオは 起きないんだ?」
オレがクオリアに聞く。
クオリアの部屋から ここまで運ばれたってのに起きないし、義体のせいか寝息も無いのでまるで、死体を運んでいるようだ。
「6:00を過ぎたし、そろそろ起きるはずなんだが…。
少々誤差が出ているか…。」
「ふぁああ」
クオリアがそう言うと ほぼ同時にナオの目がゆっくりと開き、思いっきり欠伸をする。
「ナオ…ゆっくり眠れたか?」
「ああ…ありがと、クオリア…助かった。
で、もう始まってるのか?」
オレが周りを見る…。
クオリアの部屋で寝ていたはずなのに 気づいたら屋上のベンチに座っていた。
周りを見て見ると、ARのバーベキューセットを広げ、レナが肉を網で焼き始めている所だ。
どうやらクオリアに運ばれたみたいだ。
「今は午後6:03分…パーティはもう始まっている…。」
「はいよ…。」
オレはベンチから立ち上がる。
「相当疲れていたのか?
起きるまで死体見てぇにピクリとも動かなかったんだが…。」
トヨカズがオレに近づいて言う。
「あーフルダイブで加速して寝ていたからな…24倍で…。」
オレは あの後、寮に戻った所で この義体になって初めての我慢できない程の眠気に襲われ、そのままクオリアの部屋に行って、全身を検査をし、ブレインキューブ内で丸一日の休養を取る事になった。
最近は 自分でもある程度、思考加速は出来るようになったが、寝ている時までは流石に無理なので、クオリアと一緒に24倍でダイブし、クオリアに倍率の制御を任せる事になった。
まぁクオリアは その状態でもマルチタスクで現実世界で行動していた見たいなんだが…。
「いや…頭を使って疲れたのに加速して更に疲れる気か!?」
トヨカズが不思議そうに言う。
「それが加速しても普通に休めるんだな…何故か…。」
「理由は、物理じゃなくて メンタルの問題だからだ。
ナオのメンタルが疲弊すると、それを義体側が反映して疲れているように振る舞っているんだ。
本来、ナオのスペックなら あのレベルの処理は処理の内には 入らない…。」
クオリアがオレに言う。
「本当に人の限界を感じるよ…10分程度のあのレースが6時間位に感じたからな。」
「36倍か…どうりで、辛くなる訳だ。
最近のナオは無理しすぎだ。」
「こっちも 相当 熱くなっちゃったからな…。
流石に今日のトレーニングはパスかな…。」
「もお何話してるの…お肉が冷めちゃうよ…。」
網皿で肉をせっせと焼いているレナが言う。
「今度は冷める肉を作ったのか…。
と言うか…どんどん食われているな…。」
網皿で焼き終わった肉をロウとヒロムが片っ端から食べ、肉の取り合いが始まっていた。
「ARだから、肉は無くならないってのに…。」
ナオが言う。
「コイツ、良い物食って育ってる…美味い。」
ロウがご飯大盛の茶碗を片手に先割れスプーンで肉を食べる。
「おお流石 野生児…お肉の味が分かる~これがA級肉。」
レナも肉の供給を閉ざすかと大量の肉を相手に焼き続ける。
「はーい焼きそばも上がったぞ…。」
隣で焼きそばを作っているジガが言う。
カズナはこっちが良いのか…あの戦場に踏み込みたくないのか皿に焼きそばを大盛で乗せる。
「しっかし良く食べるな…夕食が食べられなくなるぞ」
「まぁ良いんじゃないか?一日位…。」
肉を奪取したトヨカズが更に山盛りの肉を乗せてオレに言う。
ここで満腹中枢を刺激するとリアルの食事が入らなくなる。
まぁ 一食抜いても死なないし良いのかな…。
ひゅ~~~パン!!
辺りが光り、ナオは咄嗟に しゃがみ込むが 音の発生源を確認し、立ち上がる。
「これが トヨカズが手伝ったAR花火か…。」
「大きく見えるだろう…。
実際の花火だと200m位打ち上るから、天井に当たっちまうんだ…。」
トヨカズが空を見上げる…。
「うわあ~~きれい」
カズナが トヨカズの前までやってきて はしゃぐ。
人を殺す為に生まれた火薬が空に花を咲かせる。
その花の美しさは 焼肉戦争を休戦状態に追い込み、ロウとヒロムの頭を空に向かせる。
「すごい…科学て、こんな事、出来るのか…。」
ロウの目が輝かせる。
「実際はARだけどな…まぁそれも科学か…。」
そのロウをヒロムが見て、ヒロムもまた上を向く…。
それから30分…夜空に沢山の火の花が咲き…オレもオレンジジュースを片手に空の花畑を楽しんだ。
 




