01 (異世界転生したら未来でした)
とある戦場、森の中。
砲撃による爆音が鳴り響き、人が驚くほど簡単に吹き飛ぶ。
土と死体の焼けた臭い、ナオ達は塹壕の中でひたすら脅威が去るまで耐え続ける。
塹壕の上では4.5m程の機械の巨人同士が銃を持って撃ち合っており、生身のオレ達が攻撃に出れば簡単に消し飛ぶだろう。
「てか、何で補給ラインを抜かれているんだよ」
オレは通信兵に言う。
「分かりません、本部との通信が途絶、奇襲を受けて壊滅したとしか」
「な無茶苦茶な……どんだけ後方にあると思っているんだ」
「ですが……」
「あ~となると、敵の目的は補給線の寸断。
てことは、ここが最前線になって上に切り捨てられたのかな……民間軍事会社は死んでも戦死扱いにならないし……」
「そんな…」
「まぁ『自分が撃った銃弾は必ず返って来る』だな。
散々人を殺しておいて自分だけが撃たれないって事もない訳さ…大人しく殺される気も無いけど」
そもそもPMCはどれだけ稼いで死ぬ前に退職出来るかのギャンブルだ。
賭けから降り損なったこっちの責任でもある。
「本部、本部!!」
「止めろ!電波の発信源から位置を特定される。
指示が無いって事は、回収部隊を送れないから自力で帰ってこいって事だ。
下手に足止めの命令を受けても困る……戦闘が終わるまでここで生き残っていれば、まだ希望はある」
とは言っても、ここで死体のフリをする位しかやる事が無い。
あの巨人と生身で戦うのは危険だ……開発に関わっていたオレだからこそ分かる。
敵の巨人が大型の斧で味方の巨人の腹部を貫き、機能を停止する。
味方機が勝てば如何にかなったんだけどな。
味方機の上の空を見るとミサイルが飛んで来る…あれは味方陣営の方向だ。
ミサイルから大量の子爆弾が投下され、更に分裂が始まる。
あれはクラスター爆弾……こっちは条約で禁止しているはず……。
「どっちが正義なんだか……伏せろ!!」
オレは通信兵を押し倒し、無理やり伏せさせる。
抑えつけた通信兵がパニックを起こして暴れるがオレが必死に押さえ付ける。
「目を閉じ、耳を塞ぎ、口を開けろ!来るぞ!」
はぁあっとオレが大量の息を吸い込むと、周辺で爆発が起こり、爆風と熱が発生する。
オレが着ている強化服が持ってくれれば良いが…。
確認出来ないがクラスター爆弾により、敵の巨人やその周辺の歩兵は壊滅するだろう。
つまり、この攻撃から生き残ればオレ達の勝ちだ……。
「ナ□!!□オ!!今、助け□□から」
通信兵が見える何か叫んでいる様に見えるが、耳がやられたのか良く聞こえない。
爆発が終わった事で、多分、背中は熱でボロボロ…痛覚神経をやられているのか感覚が無い。
そして意識も朦朧としている…あ~こりゃダメだな。
とは言え、もう戦闘は終わっている見たいだ……これならコイツだけは帰れるだろう。
目が通信兵を認識出来なくなり、視界が暗くなって行く…耳はもう聞こえない。
てか、本当にあの世ってあるのかね?
もしも異世界転生があるなら、神様に言ってみたいね『なんでこんな混沌とした世界を望むのかって』
オレは最期にそう思った。
パーン グチャ!
頭を貫くような妙な感触と頭から響く破裂音…そして、気づくとそこは暗闇だった。
周りを見渡してみるが、あたり一面が真っ暗な状態で、光源の類は一切ない。
だが、光源が無いにもかかわらず自分の身体はかろうじて見える。
ナオは手を前に出し、ぶつからないようにまっすぐ進む…。
手が壁にぶつかり、壁伝いに行けば必ず出入り口に辿りつけるからだ。
だが、壁を見つけようとするもやけに端までが長い、10分、20分歩いただろうか?
はたまた、この状況で焦っていて実際は数分だったりするのだろうか?
無音の中で聞こえているのはやけに大きいオレの心臓の音だけだ。
そのような気の長くなる空間を歩いていると、背中から緑色の光が照らされオレの影が現れる。
振り返ると先ほど通った道にドアがあり、ドアの端から光が漏れている。
さっきは無かったのに…。
オレは警戒しつつも、現状 手掛かりがそこにしか無い為、扉を開けて中に入った。
扉の先は 応接室の様な部屋に繋がっており、向かい合った大きなソファーと 奥のソファーに女性が座っていた。
身長は女性としては高く、黒髪のロングヘアの長い髪をヘアゴムで結んでいて、不自然にならない程度に大きく、体と調和の取れた胸…。
服装は神職もビックリな、胸元が大きく開かれ胸を強調した白と赤の巫女服を着ていて、警戒しているオレに対して手招きしている。
オレは緊張を保ったまま手前のソファーに座り彼女の話を聞く姿勢を取った。
「遅くなってすまない、接続に時間がかかったものでな」
そう言いながら女性は足を組む。
「アンタは?」
「私はカレン。
職業は、そう…神様にでもしておくか」
「その恰好で神様?」
巫女服姿でよりにも よって神と名乗るか。
あ~なんか言わなきゃいけない様な気がするが思い出せない…死んだってのに後遺症か?
「で、神様がオレに何の用だ?」
そう聞き返すオレに自称神は 2本指で空間にL字を描き、青い仮想ウィンドウを表示させる。
そして いくつかキーを押し、分厚い本を目の前に召喚させて パラパラとページをめくる。
「キミの名前は神崎直人君だね。
早速で悪いが、君は2020年に何者かに銃撃を受け死亡した…その時の記憶はあるかい?」
「………ない」
ナオは、淡々と答える。
過去の記憶は靄がかかったように曖昧で、思い出せない…あの世にも後遺症は引き継がれるのか?
「ならそれでもいいさ…君は死亡し、ここに来た私は 君の今後の進路について決定する立場にある」
カレンは、足を組み直して言う。
「天国か?地獄か?」
「ああ それにもう1つ…現世で『別人として復活』する進路だ。」
「異世界転生か?」
ここで こんな質問を自然に返せる辺り、生前のオレはアニメやライトノベルに詳しかったようだ。
「まぁ君からしたら 異世界だろうな。
こちらからは 君に魔法が扱える丈夫な肉体と ある程度 快適な生活を保障出来る。
が、いきなり使える訳でも無いし、苦労する事も多いだろう……。
なら、このまま死んでいた方が、君にとっては楽かもしれない…」
カレンの表情が一瞬だが感情を見せる。
オレがどう出るか分からず、緊張と焦りの状態だ。
「……」
「生を望むか?死を望むか?」
「そんなの決まっている。生を望む」
死は最後まで生きた後に楽しめば良い、どうせいつか死ぬのだから…。
「はは君ならそう言って貰えると信じていたよ」
カレンは笑みを浮かべながら、緑色に輝く光の粒子に変わっていく。
「私たちの世界でまた会おう……ナオト」
カレンはそう言い、カレンの形をした粒子が綺麗に消えていくのであった。
オレはそんな夢を見た。