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58.師匠に認められた弟子っぽい

「よう、生き残ったか~」


 聞き覚えのある声と真っ赤な髪、冷たい薄氷色の瞳。薄情で有名な情報屋の登場に、傭兵達がざわめく。オレと仲がいい認識なら、いい加減慣れて欲しいもんだが……。


 なにやらメモを手に歩いてきたレイルが、ぐるりと周囲を見回して数本の線を引いた。気になって覗き込むと、並んでいた名前が閉じる前にちらりと見える。


「名簿?」


「見ちゃったのか。しかたねえな、まあ指揮官だし。見せておくか」


 一度は閉じたくせに、あっさりと彼はメモ帳を見せてくれた。左右にびっしり書かれた名前が線で消されている。ページをめくると見覚えのある名前が並んで、2名に横線が引かれていた。


 今回亡くなった傭兵の名前だ。コリーとネイト……忘れないようにしよう。収納口から取り出したリスト用紙の裏に名前を記して片付けた。それから興味深そうなレイルが、顎に手を当てて見ている。


「なんでメモした?」


「オレが殺した奴を忘れないようにだ」


「敵はいいのか?」


「敵まで責任取れないよ。戦争だもん」


 殺した味方をフォローするのが精一杯だ。残酷な言い方かもしれないけど、戦場にいる奴は命を奪われる覚悟があると思う。オレも含めてだ。


 感情で死にたくないと願っても、理性では殺されても仕方ないと理解してる。そもそも武器を手にして戦ってるんだぞ? 玩具の水鉄砲じゃなくて殺傷能力がある銃、鈍らの金属片でなく刃のついた立派なナイフだった。互いに向けて戦えば、当然どちらか……下手すりゃ両方が死ぬ。


 怖いなら戦場に立たなければいい。もしくは絶対に負けないほど強くなればいいんだ。どんなに強くなっても、流れ弾みたいな不運もあるから生き残れる確証がない。それが戦場だった。


 オレがゲームや映画でしか観たり経験しなかった現場――命をやり取りする本物の戦場で、命が大切なんてキレイゴトが通用するはずもない。それでも振り翳してしまうんだけど……。


 田舎のおばあちゃんの言霊信仰に近いのかな。言葉にして発することで、願いとして叶う気がした。だから生き残って欲しくて「命は大切じゃん」と口癖のように繰り返すのだ。


「それもそうだな。ところで全滅には1人足りないぞ」


「嘘、どれ?」


 レイルが器用にもさらさらと似顔絵めいた顔を描く。出来上がっていく絵に、見覚えがあった。たしか……こいつはガタイがよくて。


 にしても、レイルって絵がうまいな。オレが描いたら、○に人と一がついたレベルで、個人識別できない代物だと思う。よく殺人現場を描く時の人模型になっちゃう自信ありだ。非常口の走る人レベルなら、オレより絵がうまい部類だろう。


「あのさ、大きくって……こんな感じの奴だよね?」


 少し離れたところでコーヒーの片づけをしているジークムンドを指差した。顔を上げたレイルが、じっと見てから頷く。


「ああ、似てるな。特に身体の大きさや強面なところが」


「だよな! じゃあ、オレが殺したぞ。死体が出てないのか?」


「……おまえが?」


 なぜに疑う……。納得できない気持ちで睨みつけると、レイルが肩を竦めて説明を始めた。


「アイツはいつも卑怯な手を使って生き延びてる傭兵なんだ。常に手下を連れ歩いて、2~3人で襲ってくるから、囲まれると厄介だ。本当に息の根を止めたのか」


「うん、指揮官の側にいた。手下もいたぞ。オレがコイツの胸を刺して下がったところで、手下にナイフを投げて、2本目を腹にぶち込んだ。直後にジャック達が手助けに来たから、手が空いたオレは胸のナイフの回収がてら首を切った」


 胸から抜いた仕草の直後、首を切る真似をして見せた。確実に息はしてなかったはずだ。言い切ったオレに目を見開いたレイルが、「お前もナイフは一人前か」と感慨深そうに呟いた。


 にへらっと顔が緩む。今のって師匠に認められた弟子っぽいよな。前世界で中途半端にあれこれ放り出して生きてきたけど、異世界で本当に人に恵まれたと思う。褒めてくれたり撫でてくれたり、オレを真剣に育てて叱ってくれる奴もいるなんて。


 怖いくらい恵まれてる。何より、可愛い嫁さんが出来る! 見限られて捨てられないよう、これからもがんばろうって気持ちがわいた。


 後ろから蛇が絡み付いて、しゅるるると不気味な音を立てながら舌を見せてくる。冷たい肌にどきっとしたが、意外と触り心地いいな。つうか……赤い。


「コウコ?」


『小さくなると主人が撫でてくれるとブラウに聞いたの』


 間違ってない。確かに小さくなったブラウが実家の猫みたいにくねると、つい誘われて撫でた。腹部とか、腹部とか、腹部……あれ? 腹しか撫でさせてもらってない。


「そっか、小さくなれると便利だよな。持ち歩き出来るし」


『そう? なら普段は小さくなってるわ。主人の体温が気持ちよくて』


 嬉しそうに頬に舌を這わせてくる。ぞくっとしたのは内緒だ。聖獣に性別はなくても、一応女性っぽいタイプだから気にすると可哀想だった。


「その蛇は?」


 顔を上げたレイルは、オレの首に絡まった赤い蛇に気付いて眉をひそめる。まあ、前世界でも爬虫類大好きで首に蛇を絡めるような奴は、ちょっと……かなり変わり者分類だから仕方ない。出来るだけコウコが気分を害さないように説明しないと。


「聖獣に赤龍っているじゃん。この子」


「はああああああぁ?!」


 突然の大声に、傭兵達が集まってきた。顎が外れそうなほど驚いているレイルは、顎関節の辺りを擦りながらガコンと痛そうな音をさせる。外れそうだったんじゃなく、外れちゃったみたいだ。悪いことをした。


 擦り寄るコウコが威嚇するように「シャー」と牙を剥く。どうやらノアが手を出そうとしたらしい。これは全員まとめて説明しないと面倒事になりそうだった。


「ヒジリ、ブラウ」


 ついでに彼らも影から呼び出す。ヒジリの黒い毛をなでながら、空いた左手でコウコをなでる。集まった傭兵達がひそひそ話を始めた。


「みんな集まって!! ヒジリ、ブラウが聖獣なのは知ってると思うけど、新しく契約した赤龍のコウコちゃんです! 乙女の身体に勝手に触るのは失礼なので、気をつけてね」


『あら、よく分かってくれてるわ』


 嬉しそうに巻きつくコウコだが、若干首が絞まってるから気をつけて欲しい。指を入れてネクタイみたいに緩めてから見回すと、傭兵達は言葉もなく立ち尽くしていた。


「それ、あの……戦った龍、か?」


 ジークムンドの掠れた声が動揺をよく表している。ジャックは言葉も出ず、彼の言葉に乗っかる形で頷いて指差す。ライアンは眉をひそめて、サシャは額を押さえて溜め息を吐いた。ノアは呆然と立ち尽くしている。他の連中も似たり寄ったりだった。


「なるほど戦場に出現した赤龍をお前が撃ち落したと聞いたが、これか」


 先ほどのオレの注意を無視して手を伸ばしたレイルの手に、コウコの牙が刺さる。ぶっすりと根元近くまで噛んで、彼女?は牙を抜いた。あっという間に血が滲む傷口に、レイルが舌打ちして口を寄せる。血を吸って捨てているようだが、毒はないと思う……たぶん。


「コウコ、まさか毒牙だったり……」


『毒は持ってるけど、今は使ってないわ』


 けろりと告げられた内容に、ほっとしていいのか? まあ毒を入れてないんなら大丈夫だろう。収納空間から取り出した絆創膏もどきをぺたりと貼った。


「毒があるとコレは効果ないぞ」


「持ってるけど、今回は毒を使ってないって。なら、ただの傷だろ。それと……」


 痛そうな顔をしながら文句を言ったレイルの鼻先に指を突きつけて、一応文句をつけておく。


「コウコに触れるなって言っただろ? 乙女なんだから、怒るに決まってる」


「嫉妬深い蛇か? 嫁さんに殺されるぞ」


 言われた内容に「嫉妬? ないない」と笑い飛ばそうとして、シューシュー威嚇音を立てるコウコを見る。まさか、コウコがリアムを噛んだり……しない、よな?

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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