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50.出世払いは高くつく、かも

 皇家直系の血が絶えて喜びそうな中央の国の貴族――かつて分家として降嫁した姫の血筋とか? ちょっと小説の読みすぎだろうか。


「直系以外の公爵や侯爵がいるんじゃない? 分家みたいな」


「いますよ、我がメッツァラ家もそのひとつですから」


 あっさり暴露したシフェルの目を見ながら、次の手を打つ。リアムを守る手は多ければ多いほど安心できるし、オレは彼女の守りに手を抜く気はなかった。シフェルは絶対に味方としてキープする必要がある。


「メッツァラ公爵家以外は?」


「ラスカートン公爵家、シエンタイル侯爵家あたりですか。どちらも当主の祖母が皇家直系の姫君でした」


 特に秘密にされた情報でもないらしい。オレは異世界人だから知らないが、この国の貴族なら当然知っている情報だった。他人事のように語るシフェルの口調は、教官のときと同じ。教え導くが、答えは口にしないという意味だ。


 うーんと考え込んだ。


 前世界で平民?だったため、貴族階級の考え方や皇位継承権の話は想像するしかない。小説や映画でみた知識がどこまで通用するか。


「祖母まで遡らないと繋がらないの?」


「我が公爵家は先々代の陛下の妹君が降嫁しています」


 先々代皇帝はリアムの母だから、リアムにとって叔母となる。祖母が皇族だった2つの貴族家より、母親が皇妹だったシフェルの方が血が近い。リアムとシフェルは従兄妹同士なのだ。そこで気付いた。


「じゃあ簡単だ」


 ぽんと手を叩いたオレに、リアムが怪訝そうな顔を向ける。


「シフェルが生きていれば、無駄じゃん。他の家がいくら動いても、シフェルも暗殺しないと皇位継承権が1位にならないんだろ?」


 きょとんとした顔でシフェルを見たリアムがくすくす笑い出し、シフェルも頬を緩めた。なぜ笑われるんだ? どこかで数え方を間違えたのか。


「確かに、今は私が皇位継承権1位ですね。せいぜい長生きするとしましょう」


「そうして。あとどちらの家がより怪しいと思う?」


 内通者として、ラスカートン公爵家とシエンタイル侯爵家のどちらがより怪しいのか。素直に尋ねると、シフェルは少し考えてから慎重に言葉を選ぶ。


「ラスカートン公爵自身は高潔な方で信用できますが、ご子息は野心溢れる方です。シエンタイル侯爵は慎重で堅実な反面、疑り深くわが子さえ信用しません」


 どちらも疑わしい。シフェルの評価を聞いたオレは結論を棚上げした。


「うーん、結局両方怪しいのなら、レイルの調査待ちだな」


「レイルに依頼を?」


 彼が引き受けるわけがない。そう匂わせるシフェルの意図はわからないが、オレは首をかしげて目を瞬いた。


「出世払いで引き受けてもらったぞ」


「……本当に、規格外です」


 大きな溜め息と一緒に告げられる、聞き慣れた言葉に肩を竦める。だが続いたセリフに驚いて動きが止まった。


「あの男が出世払いで情報を売るなんて、一度もなかったのです。よほど気に入られましたね」


「一度も?」


「ええ、私が知る限り一度もです」


 きっぱり断言され、不安が過ぎった。出世しなかったらどうしよう……。






 レイルの調査結果待ち、この判断は問題がなかったようでシフェルもリアムも頷いてくれた。物騒なお茶会が終わると、シフェルはそそくさと部屋を出て行く。制圧後を引き継ぐ文官や武官を連れて、再び西の国へ戻るらしい。


 足元の絨毯は相変わらず寝心地がよく、ソファに背を預けて絨毯に転がった。当然のようにヒジリが隣で丸くなり、元の巨大猫に戻ったブラウはソファの上に陣取る。上から見下ろす猫の尻尾が目の前でひらひら揺れた。


「ヒジリ、残りの聖獣って何匹だっけ?」


『赤い龍、白トカゲ、金の一角馬(ユニコーン)だ』


「ふーん」


 なんとなく予感がある。きっとこれらの聖獣に会えば、彼らもオレと契約を望むのだろう。何か規則性があるのか、異世界人だからか。


『主殿の魔力は心地よい』


「うん?」


『聖獣は世界の調整を行う存在だが、自らは常に世界の揺らぎを受けて不安定なのだ。主殿の隣は居心地がいいから、離れたくなくなる』


 やっぱり理由があった。そうでなければ、ヒジリもブラウも初対面のオレについてこない。魔力が多い奴が好みなら、他にもいるのだから。過去の契約数の少なさから、何か法則めいたものがあると考えたが、ある意味予想通りだった。


『聖獣は主を持つと強くなるんだよ』


 尻尾で人の顔を叩きながら、偉そうに上から話さないでくれ。青い尻尾を掴んで引っ張ると、猫パンチが飛んできた。もっとも爪は引っ込めているので、彼なりに気は使ったようだ。


「強く? だって元からそれなりに強いんだろ」


 なぜ強くなる必要が? 尋ねたオレの疑問を違う意味に捉えたヒジリが尻尾で絨毯を叩く。


『魔獣程度相手にならぬ強さはある。主を持つと強くなる仕組みは知らぬが、おそらく主を守るための力が増強されるのだろう―――と、かつて赤龍の奴が言っておった』


 推定の「だろう」からの「○○さんが言ってたよ」の不確定要素がダブルコンボときたもんだ。


「聖獣殿が増えると、呼び名を改めて考える必要が出てくる」


 リアムが唸って考える内容が可愛くて、くすっと笑う。だって、まだ増えてない聖獣を確定要素として考えた上で、呼び方の心配だぞ。オレをかなり過大評価されてる気がした。


「増えない可能性もあるじゃん」


「『『それはない(よ)』』」


 聖獣とハモるリアムが力説する。


「セイならば、聖獣すべてと契約できる! 計算や読み書きも優秀だし、戦うと強い。綺麗なのに優しくて、俺……私と仲良くしてくれるんだぞ」


 うん、これが身内の欲目ってやつか。頬が赤くなるのを自覚しながら、隣に座ったリアムを引き寄せた。恥ずかしくて顔が見られない。でも嫌かといわれたら嬉しいんだと思う。


 過去も含めて、こんなにオレを評価してくれた人はいないから。ノロケみたいな発言に照れるリア充になれる未来なんて、前世界のオレに想像つかなかったはず。


「まあ、レイルに出世払いの約束したから……聖獣すべてと契約しないと足りなそう」


 冗談めかして呟けば、寄りかかったリアムが笑いながら身を起こした。彼女も真っ赤な顔をしている。


「私の夫も出世だぞ?」


「確かに、この世界で最高の出世だ」


 甘い雰囲気を作り出すバカップルをみて、罵った過去のオレに言ってやりたい。バカップルは当事者になると最高に照れて、最高に嬉しくて、最高に熱いものだから邪魔するなと。


「約束どおり、立派なお土産をくれたセイにどう報いたらいいだろう」


 出掛ける前に『西の国の領地を献上』なんて無謀な約束を取り付けられたオレだが、囮を上手に利用して暗躍した騎士達により叶ってしまった。


「じゃあさ、ここのピアスちょうだい」


 感情の高ぶりで砕いてしまったピアス穴を示す。覗き込んだリアムが眉をひそめた。白い手が伸びてきて、耳たぶに触れる。


「砕けたのか?」


「うん、レイルが来た時にね」


 リアムが危険だと思って赤瞳になりかけた。詳細を省いたオレの頬に貼られた絆創膏もどきを剥ぐと、傷はもう治ったらしい。指で触れても痛みも傷跡も感じ取れなかった。


「砕かぬよう、私のピアスをひとつやろう」


「え?」


 いそいそと自分の耳からピアスを外したリアムが近づく。目の前にリアムの胸がきて、すこし膨らんだ胸元に目がいってしまう。室内用の薄着だから、いつもより胸が大きく感じた。


 どうしよう、いい匂いする。どきどきしながら動けないオレの耳に指が触れ、残っていた金具を外して新しいピアスが通された。ひんやりするはずの金属が、少し温かい気がする。気のせいだと思うのに、頬が自然と綻んだ。


 彼女が身に着けていたピアスは、すごく特別だ。彼女の魔力が篭もっていて、どこか温かい。逆の耳から紫のピアスをひとつ外した。


「交換しようか」


 目を見開いたリアムは頬を染めて、小さく頷いた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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