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43.結界が規格外で想定外らしい

 目前に迫った銃弾に、しかしオレは避けなかった。西の自治領を逃げ回ったとき、銃弾を結界が防いだ実績が脳裏を過ぎる。全身を結界でぴたりと囲ったのだから、心配は要らない。


 キンと甲高い音がして銃弾が弾かれた。よしっ! 内心でガッツポーズしながら、右腕を掴んだ男にホルダーから抜いた銃を向けて引き金を引く。魔力を込めた弾が相手の胸を貫き、一瞬で命を奪った。


 ぞくりと背筋を走る感覚が、心地よい。恐怖とも歓喜ともとれる感覚に酔いながら、銃を新たな敵に向けた。茂みに飛び込んだのか、周囲に敵の姿は見あたらない。僅かな時間で移動した敵の位置を、魔力を頼りに追った。


 ヒジリが1人、オレが3人。残るは2人だが……。


『主殿……また規格外なことを』


 呆れたと滲ませた声を出すヒジリが、ぴんと立てた尻尾を大きく揺すった。よほど驚いたのだろう、心配してくれたのかと近づいて頭を撫でる。


「規格外?」


『銃弾は魔力を込めるため、結界で防げない』


「うん?」

 

 あれれ? いま防いだだろ、おかしいじゃん。オレの視線を受け止めたヒジリは、無造作に左側に飛んだ。さっきまで彼のいた場所に着弾する。


 まだ敵は2人残っている。慌てて銃弾を装てんして走った。左側に1人、斜め右前に1人。左へ飛んだヒジリがそのまま走ったので、右前の男へ銃弾を放つ。咄嗟に避けた男の動きを予想して、向かって左に銃弾をお見舞いした。


「つぅ」


 呻いて肩を押さえる男に駆け寄り、彼の右手ごと銃を踏む。倒れこんだ男の頭にまだ温かい銃口を突きつけて、「降伏する?」と尋ねた。男がごくりと喉を鳴らす。目の前に死が突きつけられた状態で、彼はどうするんだろう。


 降伏されても拘束する手間が増えるだけ。分かっていても勧告しちゃうオレは甘いと思う。やっぱり安全な世界からきた、戦争ごっこしか知らないお子様だ。


「殺せ」


 潔い一言が返った。掠れた声に滲む恐怖に眉をひそめ、バレないように溜め息をつく。この世界の奴らは命を軽く考えすぎる。失ったら戻らないのに……。


『主殿』


 黒い毛皮を血で汚したヒジリが戻ってくる。大きく左右に振る尻尾が、ぴしっと地面を叩いた。苛立っている様子に首を傾げれば、オレが足で押さえている敵の首にヒジリが噛み付く。飛び掛る獣に、思わず全力で避けてしまった。


 頚動脈を噛み切ったヒジリがぶるりと身を震わせる。近くにいたため、頬に血が飛んできた。


「びっくりした……っ。いきなりどうした?」


『戦場で躊躇するでない』


 忠告めいた唸り声を上げたヒジリが大きな爪を引っ掛けて、オレが捕らえていた男を転がした。身体の下になっていた左手は、ナイフを握っている。ヒジリはそれを察して助けてくれたのだ。


「悪い、助かった」


 自分が甘いと思い知らされた。そうだ、生きようと思うのは誰でも同じで、仲間や家族の元へ帰りたいのも同じだ。そのために卑怯でも手段を選ばず敵を倒す必要があるのに……オレは躊躇った。すでに手は血塗れのくせに、殺さないで済むならなんて綺麗ごとを願う。


 サバゲーとは違う。戦争ごっこじゃない。油断したら自分が死ぬ戦場なのだ。それは嫌だった。死んだら二度とリアムに会えないし、彼女を悲しませる。強く拳を握った。


「……次はない」


『そうしてくれ』


 守護者を自認するヒジリの声に、自嘲の笑みが浮かんだ。


「キヨ、無事か!?」


「ボスなんだから飛び出すなよ」


 ジャックとジークムンドが走ってくる。どちらも強面だが優秀な傭兵だ。どうやら他の連中も周囲を警戒しながら近づいているらしい。魔力感知で動きを確かめながら、駆けつけた2人が乱暴に頭を撫でるのを許した。


 ぐらぐらするくらい強い力で撫で回されるのは、それだけ心配させた証拠だ。


「ごめん、つい走っちゃった」


「ケガはしていないか?」


 追いついたノアが手足を確認してから、取り出したタオルで頬を拭いてくれる。さきほどヒジリが倒した奴の血だろう。


「ありがと。オレにケガはないんだ」


 足元の死体に止めを差して確認した連中も合流して、やっと作戦終了っぽい。上を見ると、日が傾いてきていた。思っていたより時間が経過している。


「どうしようか。合図がないけど、帰っていいのかな……」


 うーんと唸る。当初の作戦だとこっちが囮となって守備兵を引き付け、レイルが調べた地下通路を使ってシフェル達が忍び込む。城を落としたら合図が来るはずだったんだけど?


 合図がないならオレ達も攻め込んだ方がいいかも知れないし、邪魔するなと言われる可能性もある。判断が難しいので、ひとまず休憩を取ることにした。敵もないのに、緊張して立ち尽くす意味はない。


「よし、合図があるまで休憩」


 司令官役のオレの号令で、思い思いに休憩する。ライアンは木の枝に座ってるし、ノアはお茶の支度、ジャックはシートを敷いて平らな場所を確保した。手招きされてジャックの隣に行くと、ヒジリが丸くなって寝転ぶ。慣れた毛皮に寄りかかった。


「お茶だ」


「ありがとう、ノア」


 ジークムンドもちゃっかりシートに便乗している。保存食やらお茶やら、意外と豪華な休憩になった。慣れてきた干し肉を齧りながら、ヒジリにも差し出す。相変わらず手ごと食べられる。骨を砕く痛みに慣れる日が来るなんて……過去のオレに『この獣は持ち帰るな』と教えてやりたい。


「ところで聞きたいんだけど、結界で銃弾は防げないのか?」


「「「はあ?」」」


 今更何を初歩的なことを聞くんだ。そんなニュアンスの非難を込めた声が響く。敵地だがすでに制圧が終了した場だからか、彼らは声をひそめなかった。


 周囲の注目がこちらに集まる。すっごい居心地悪いんですけど。


「防げるわけないだろ」


「そんな便利な使い方ができたら、全員結界を張ってる」


「ボスらしいな」


 口々に答えた男達は苦笑いして顔を見合わせた。


『主殿の結界は銃弾を防いだぞ』


 バカにされていると勘違いしたヒジリが、ぽろっと秘密を漏らした。何てことするんだ、オレが規格外だと呆れたのはお前だろ。慌ててヒジリの口を押さえるが、ときすでに遅し。


 凝視する彼らの目が「あり得ない、規格外だ」と雄弁に物語っていた。


「えっと……」


「防いだ、のか?」


「どうやって!」


「結界に何か特殊な効果が?!」


 滅茶苦茶食いつかれて、腰が引ける。


「試しに張るから、確認してくれる?」


 妥協案を提示すれば、彼らは大きく頷いた。いつの間にか人が集まっており、休憩を指示したのに見学会が始まってしまう。仕方なくさきほどの結界を張ってみせた。ぺたぺた触るジャックが首をかしげる。


「身体の形に添わせたのか」


 前に勉強した際に聞いた結界は、大きな魔力を持つ魔術師などが部隊全体に張るものだ。大きなシャボン玉を作って皆を取り込む形が近い。個々を包む結界は考えたこともなくて、この形も検討すらされていない可能性が高かった。


 彼らにとって未知の結界を、魔法に詳しい連中を中心に撫で回している。


 外から見るといかがわしい状況じゃないだろうか。遠い目で現実逃避しながら、じっと立つオレは言われるままに手足を動かす。結界が身体を包んで動き、あまつさえ物理的に腕を掴めるほど密着している状況が不思議らしい。


 彼らの知る結界が部隊を守る覆いのイメージだとしたら、オレの結界は防護服のイメージだ。合羽も近いかも知れない。とにかく身体の外を膜状で覆って動きについてくる形だった。こっちの世界の常識では、この形が結界に応用できると考えなかったようだ。想定外ってやつか。


「すごいな……それ以前に強度を試したいが……」


 ジークムンドが口ごもる。当然だが結界の強度を試すなら銃で撃ってみるしかなかった。しかし上官でありボスであるオレに「撃ってもいいか」と聞くわけに行かない。


「強度試すなら、木とかに張ってもいいけど」


「「「「できるのか!?」」」」


 すさまじい食いつき具合に、引きつった笑みで頷いた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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