37.便利で危険な大量収納
「あ……その、あれだ! まあ、うん」
よく分からない言葉を発しながら、とりあえず布団で覆ってみる。顔を赤くしたリアムは可愛いが、ちょっとオレは泣きそうだった。なんでパンツ出してるときに来ちゃうんだろ。
「……荷物が多いな」
会話をなんとか修正しようとするリアムの努力に乗っかって、出したものを確認する。残りは武器くらいか。武器を出し終えたら、袋の底のゴミを出すつもりで自爆呪文を使ってみよう。何か残ってれば放りだされるはずだ。
「あとは武器だ」
再び収納魔法の口から取り出して並べる。本当は布団の上に並べる予定だったが、残念ながらパンツを隠すのに使用したため、硬い地面に置いた。今度はリアムがいるので説明しながら出す。
「ナイフ、予備のナイフ、予備の予備のナイフだろ。それからレイルに貰ったナイフ。ジャックに借りたナイフ。ノアの包丁と、これは……誰のだっけ? まあいいか」
大量の刃物が出てくる。こんなにナイフ類を沢山持っていたのかと、今更ながらに驚いた。いくらでも収納できるからって、入れすぎたな。詰め直すときは半分にしよう。
「予備の予備?」
シフェルが奇妙な言い回しに反応した。リアムは地面のナイフを長さ順に並べ直している。几帳面な性格なのか、興味津々なだけか。鞘があるから問題はなさそうだ。
「そう、まず戦うだろ。刺したら抜けなくなるから予備がいるじゃん。それも刺しちゃったら予備の予備がいるって、レイルに教わった」
「予備の予備の先はないんですか?」
「その時点で、殺した相手から奪うのが正解」
「……教育係の選び方を間違えた気がします」
ぼやくシフェルを他所に、次は銃関係も出さなくてはならない。全部覚えているといいけど……。フラグめいた考えが過ぎった。まだ刃物がいくつか残ってる気もする。
「銃は……レイルにもらったメイン。メインの予備、予備の予備、それから暴発したとき用。弾はこっちの袋で、その予備。投げナイフと地図、懐中電灯を忘れてた」
ベルトにずらりと装着されたダガータイプのナイフを置いた。嬉しそうに受け取ったリアムが一番端に並べる。うん、確かに小さなナイフに分類されるけどね。投げる専用だから、リアムの手が切れる心配をしなくていい。
地図は先日、西の自治領で役に立った。
「あ、忘れないうちにお願いしとくけど……地図にGPS付けられない? 自分の位置が分かる機能!」
「ついてますよ」
けろりとシフェルが肯定した。地図の上部にある三角のマークを押すと、中央の国の真ん中ら辺に赤いマークが点灯する。
「もう一度押すと消えます。授業で言いましたよね?」
「ソ、ソウデシタネ」
聞いたか覚えてないが、シフェルが言ったというなら教えたのだろう。噴き出す冷や汗を拭いながら笑顔で応じておく。藪蛇だ、ジャックやノア辺りに相談するべきだった。
誤魔化すために、収納したリストを脳裏に思い浮かべる。
「ライフルを預ったから、確かライアンのが2本……2丁って数えるのか? 自分用と予備、サシャの半月刀もあるし、あっ! これこれ」
手に余るサイズの銃を引っ張り出す。将来手が大きくなったら使うつもりで仕舞いこんでいた。レイルに強請ったらくれたんだよ、アイツ結構優しいかも。リボルバーは珍しいのか、シフェルが拾い上げて刻印を読んでいる。
「この銃、かなり年代物ですよ? 誰が……」
「レイル」
シフェルの疑問に即答した。ほかに誰がオレに武器を与えるんだ? 基本的に傭兵連中や教官役としか接点がないんだから。残りはかなり少なくなったが、何か忘れてる気がして……のどの奥に魚の骨がひっかかったときの、あの違和感がある。
「こんなもんかな? 銃弾も出たし……危険なものは終わったと思うんだよ」
まだ小骨の違和感が頭を過ぎるが、仕方ないので、残りは袋をひっくり返すことにした。
「あと自爆呪文だから、あっちでやる」
すこし離れた場所に歩いていくと、後ろをリアムがついてきた。当然だが近衛であるシフェルもついてくる。振り返ったオレは溜め息をついた。
「あのね、リアム。ひっくり返したときに何が出るか分からないから、すこし離れててくれる?」
「でも……」
拗ねたような顔をされると、すごく抱き締めたくなるんですけど? 何コレ、番になった弊害とかあるんですか!? シフェルに目で尋ねるが、意図が伝わらなかったらしく首を傾げられた。
「本当に危険だから、あの荷物のあたりにいて」
大量に山積みの荷物を指差して、それからリアムに近づいた。そっと手を伸ばして黒髪を引き寄せる。そのまま毛先にキスを落とすと、リアムの頬が笑み崩れた。
「ね、お願い」
重ねて頼むと、ようやく納得したリアムがシフェルを伴って離れる。一息ついて、自爆呪文を唱えた。確か両手を上に掲げて……
『空にな~れ』
どさっ、どさどさ!
想像よりずっしりした音がして、最後にガシャンと金属音がした。幸いこちらへ倒れてくるような物は残っていなかったらしい。
大きな金属の筒、フライパンや鍋の調理器具、食器、かまど用ブロックと鉄パイプ、石鹸、虫除けスプレー、大量の本………etc。
「……あれれ?」
「現場から消えた証拠品っ!」
首をかしげたオレの後ろから、シフェルの鋭い声がかかった。びくりと肩を揺らすと、大股に近づいたシフェルが横たわる荷物の上に落ちた金属の筒を引っ張り出す。重いのだが、軽々と持ち上げて担いだ。
見覚えのある土管のようなフォルム――シンカー本部を壊したバズーカ砲だった。
「これをずっと捜していたのに、どうしてあなたが……いえ、あの現場から持ち去ったのがキヨだったんですね」
「正確にはあの時点で収納魔法使えなかったから……うーんと、ある人が証拠物として押収して、調査に来た騎士さんに渡し忘れちゃったってカンジ。そのあとオレが返すつもりで預ったんだ」
「なるほど。ジャックさんが預って、私に提出するのを忘れ、キヨに押し付けたと」
伏字にした意味ないじゃん。一瞬で解読された。
「先ほどの投擲ナイフ付きベルトは、官舎の地下にあった備品ですね。この銃と剣は……サシャの持ち物でしょう。フライパンや鍋もありますが、この箱、爆薬じゃないですか。信管もあります。よく爆発しなかったですね」
感心しながら自爆呪文により放出された物を確認するシフェルの指摘に、爆発物の授業を受けた際にヴィリから爆薬作成キット一式を貰っていた事実を思い出す。そうだ、もしかして……自爆呪文で出てきた荷物が吹き飛んだ可能性もあった!?
「やべぇ、まじ自爆じゃん」
「キヨ、言葉遣いを直しなさい。それから……この収納量については、他言しないこと」
収納量? 荷物を振り返ると、確かに予備が多いかもしれない。だが黒い沼に飲まれた後、用心のためにあれこれ収納する癖がついてしまった。特に食べ物系と、解毒薬を含めた薬品系だ。
いつ誘拐されても生き残れるよう、生活道具一式を持ち歩くのは当然だ。収納魔法が使えるんだから、なおさら荷物は増える一方だった。
あれだ、旅行かばんを大きくすると荷物が増える理屈と同じ。海外旅行だからとシャンプーや石鹸まで持っていくだろ。都市に旅行するなら、シャンプーくらい現地調達でいいのにね、ってやつだ。
「なぜ?」
くすくす笑うリアムは、転がる鍋を拾って中に石鹸を放り込む。
「収納量が大きすぎるのだ。魔力量の多い赤瞳がバレるぞ」
その言葉に納得した。
同時に大事なことを思い出す。
「そうだ、それ! 赤瞳の戻し方ってどうするの?」
いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ
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