表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/410

34.夢オチが怖いので抓ってみた

 動かなくなったオレはしばらく意識を飛ばしていたらしい。


「セイ、大丈夫か? セイ」


 必死に呼び戻そうとするリアムの声に、「いっそこのまま亡き者に」と物騒なシフェルの呟きが被る。目を開いたまま気絶していたらしく、最初に視界に飛び込んだのは黒髪だった。


「っ、なんだろう、奇妙な夢を……」


 夢オチで片付けようとしたオレを膝枕した美人は、満面の笑みで「夢ではないぞ」と逃げ道を塞いだ。ぼんやりしながら頭を動かすと、左側でシフェルが呪いの本を開き、ぶつぶつ何かを呟いている。


 やばい、呪い殺される。視線をそらして反対側へ目をやると、ヒジリが寝転がっていた。背中がかゆいようで、背を絨毯にこすり付ける姿は、我関せずでマイペースだ。


「あのね、さっき『リアムが女性だ』って聞こえたんだけど」


「そうだ」


「そうだよね。こんなに美人さんだもん」


 思わず納得してしまった。最初にみたときに「女の子だ」と呟いた自分の直感は当たっていたらしい。何か理由があって、男のフリをしてきたのだろう。


 ラノベだと『皇位継承権が直系男子のみ』だったり『唯一の皇族が孕まされると大変なので男のフリを』の理由で男装するよな。


「死ねばいいのに、もげればいいのに」


「シフェル、聞こえてる……怖いから止めて」


 普段のクールな顔が嘘のように、呪いの言霊をむけてくるシフェルにお願いしてから起き上がった。ヒジリが擦り寄ってきたので、頭をなでてから喉をくすぐってやる。


 膝が軽くなったリアムは残念そうにしながらも、いそいそと隣に座りなおしていた。可愛いな、まじで。こんな美人で、中身が可愛い嫁さん……あれ? (つがい)って嫁さんで合ってる??


「リアムが女性なのはわかった。オレのいた世界だと『番』じゃなくて『お嫁さん』っていうんだけど、つまり、リアムはオレと結婚する話で合ってる?」


「お嫁さん……///////」


 ダメだ。照れちゃって話が先に行かない。仕方なく、怖ろしい視線を向けてくるシフェルを振り返る。彼から感じるオーラは『大事に育てている娘に、どこかの馬の骨が手をつけた』という、おどろおどろしいものだった。


「シ、シフェル、さん?」


『主殿、もう番を得たのか。すこし早いのではないか?』


 確かに12歳前後の外見で、嫁が決まるのは早いと思う。皇族の基準はわからないけど。


「はぁ……もう仕方ありません。正式な発表は後日ということにして、とりあえず説明をいたします」


 諦めた様子のシフェルがついに折れたことで、オレとリアムの婚約は仮に認められたらしい。他の皇族がいないのは聞いているから、反対できるのは側近だけなのだろう。


「食事をしながらでいいか?」


 オレは尋ねながら、顔を聖獣へ向ける。悪気なく、断りもなく、オレの手を齧る。空気の読めない聖獣は空腹なのだ。さっきからゴリゴリと骨を噛んでる音がした。痛いと感じた直後に治癒されるが、傷がなければいい話ではない。


「そうですね。朝食を運ばせます」


 シフェルが部屋を出て行くのを見送り、入ってきた侍女達がリアムを続き部屋に連れて行った。部屋に1人――正確には1人と1匹――になると、ソファの足元に崩れ落ちる。気が抜けたついでに、腰もぬけた。


 美人で綺麗、男にしておくのはもったいないと何度も思ったが、本当に異性だったなんて。


「オレがリアムと…」


 頬を染めてソファに寄りかかるオレの足に、ヒジリがのそりと顎を乗せた。


『主殿、めでたいことか?』


 騒動がすごかったので、祝ってもいいか判断に困っていたようだ。オレは嬉しいし祝って欲しいので頷くと、ヒジリの身体が青白く光った。僅かな時間だけですぐに光は消える。


「今の、なに?」


『祝いだ。おめでとう、主殿』


「ありがと」


 よくわからないが、素直に受け取っておく。光るのがお祝いだなんて、なかなか洒落たことをするものだ。ヒジリの頭を撫でながら待つと、隣室へ繋がる扉が開いた。


「あ、リアム……っ!?」


 着替えて普段と同じ姿になっていると思ったのに、まさかの薄ピンクのドレスだった。足首までしっかりスカートが隠している。胸元は刺繍が埋め尽くす花模様のビスチェ風で、下のスカートはたっぷりしたふわふわしたデザインだ。ノースリーブの腕をアイボリーのボレロが隠していた。


 クリスみたいな巨乳じゃない控えめな胸元に、薔薇に似た花飾りが揺れる。巨乳は好きだが、リアムのささやかな胸も好きだ。というか、好きな人ならどっちでもいい。結局のところ、オレにとって惚れた女が理想になってしまうのだから。


 すごい清楚な感じの可愛い格好だ。象牙色の肌に桜色に近い薄ピンクが似合う。黒髪は緩やかに結って、半分ほど左側に垂らしていた。ハーフアップだっけ? 女性の髪形に詳しくないけど、項の後れ毛が色っぽい。


 顔が一気に赤くなるのが分かった。耳も真っ赤だろう。バカみたいにぽけっと眺めたあと、照れているリアムの指先がスカートを掴んで震えているのに気付いた。


『主殿』


 促されなくても分かった。たぶん、初めての女の子の格好で緊張しているのと、オレがどう思うか不安なのが混じっている。


「すっごい、綺麗! リアム、やっぱり美人だなぁ。惚れ直しちゃった」


 素直に賛辞を口にした。花に喩えたりなんて洒落た言い回しは知らないが、思ったままを真っ直ぐに告げる。ヒジリを押しのけて立ち上がり、ちょっと痺れた足で駆け寄った。


 手が触れる直前で立ち止まり、ひとつ呼吸を落ち着けてから膝をつく。礼儀作法のマナー教室で習ったとおり、差し出した手にリアムが手を重ねたあとに立ち上がり、触れるぎりぎりの距離を保ちながらテーブルへエスコートした。


 今までと違う緊張感がある。微笑ましい子供同士のやりとりを、侍女達は笑顔で見守ってくれた。侍女達は着替えや湯浴みも手伝うので、女性という秘密を知るようだ。すぐにリアムをドレスに着替えさせた様子から、普段人前に出ないときはドレスを着ていたかも知れない。


 椅子を引いた侍従の動きを待って、リアムを座らせる。隣の椅子に腰掛けても、視線が横顔から離せなかった。


 この美人が、あと数年でもっと美人になって、綺麗なお嫁さんになってくれる。


「リアム、本当にオレでいいの? あとでヤダとか言われても困る」


 今のうちに言質をとっておきたい。これで数年後に「こっちがいい」と別の男を連れてこられたら、めげるどころじゃない。ショックで禿げ散らかすかも。


 夢オチは怖いので、隠れて腿のあたりを抓ってみる。大丈夫、滅茶苦茶痛い。奇妙な行動をするオレを、机の下でヒジリが生温かい目で見守った。


「セイを選んだのは、私だ」


 公的な場では「余」、いままでは「俺」だった。女性らしい「私」の一人称がくすぐったくて、リアムは頬を染めたまま笑う。心配性の婚約者(仮)が心から喜んでくれてると伝わって、手放したくないと願っていると知らされて、舞い上がりそうだった。


「よかったですわね、ロザリアーヌ様」


 ん?


 聞き覚えがない名前に動きが止まる。ゆっくり首を傾けて、それから隣のリアムをじっと見た。同じ方角に首をかしげたリアムが、気付いた様子で頷く。


「私の本当の名前だ。ロザリアーヌ・ジョエル・リセ・エミリアス・ラ・コンセールジェリン」


 以前聞いたとき「ウィリアム・ジョゼフ(以下同じ)」と名乗っていた。女性名を男性用に変更したとしたら、上の2つが名前、その後ろは称号や皇族としてのファミリーネームなのだろう。


 かつての疑問もすっきり解けて、なるほどと頷いた。


「ウィリアムのリアムかと思ったけど、ロゼリアーヌも同じ略し方するんだ?」


 両親がそう呼んだと聞いていたので、「リアーヌ」のあたりが変形したのかと考えながら呟く。すぐに侍女から訂正が入った。


「いいえ、ウィリアムのお名前は亡くなられた前皇帝陛下のものですわ」

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

感想やコメント、評価をいただけると飛び上がって喜びます!

☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ