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26.魔法は無効、魔力は有効?(1)

 顔を洗う巨大な黒猫もどきの直前で、氷も炎もかき消えた。結界で防いだら周囲に破片や余波があるだろうし、吸収された様子もない。首を傾げるオレに、ジャックがぽかっと拳を当てた。


 頭のてっぺんは痛い。拗ねた顔で睨むと、大きく溜め息を吐かれる。傷が残る頬を歪めた彼は苦笑いしながら、叩いた場所を撫でてくれた。


 そんなんで誤魔化されないぞ。


「痛かった」


「それはお前がいきなり魔法を使うからだろう。攻撃魔法を人や生き物に向けちゃダメだ」


 銃口や刃物の先を人に向けない。過去の世界で習った話に近いが、理由が分からなかった。戦争してるんだよな、この国。なのに魔力込めた銃弾で人殺しするのに、魔法を使って人殺ししちゃいけないのか?


「なんで?」


「常識だろ」


「いや、常識じゃないって」


「「「「「常識だ」」」」」


 周囲の傭兵が一斉にハモった。仲が良いのですね、皆さん……。


 尖った唇に加え、頬も膨らませて抗議する。と、ノアが横から人差し指で頬を押した。


 ぷしゅー。間抜けな音を立てて空気が抜けていく。いや、場は和むからいいんだけど……オレは完全に我が侭な子供扱いじゃないか。断固抗議する!


 ぐっと拳を握って口を開くが、ライアンの方が早かった。


「キヨの常識はずれてるからな。魔法は生き物に向けてはいけないんだ。禁忌として世界共通の考え方だな。だから()()()()()()


「……効果が、ない?」


「禁忌だからな」


 禁忌なので効果が出ない。その理屈で、オレの魔法はヒジリに届かなかった。以前にも逃げながら放った炎が、魔獣に届く前に霧散していた理由がわかった。魔法は生き物を傷つけない――その定義でいくと、魔法と魔力は違うのか?


「疑問なんだけど、魔法と魔力の違いってどうなってるの?」


 途端にその場の傭兵達は首をかしげた。もしかして、そんな難しいこと考えずに使ってるとか? 質問の意図が伝わらなかったか、説明する言葉が見つからないのかも知れない。彼らにとっては常識なのだから。今更質問されるような内容じゃない。


 魔力を込めた弾は敵を殺傷する。

 魔法は生物を傷つけない。


 境目がよく分からなかった。確かに発動していた魔法は生活に便利な収納だったり、火をつけたり、水を生み出すものだ。他人を傷つける目的で使った魔法じゃないが、つけた火で火傷することはある。前にポットのお湯を沸かした際に、そのポットに触れた指先に軽い火傷を負ったのだ。


 線引きが、なおさら難しくなった気がした。


 真剣に考え込むオレの周りで、傭兵達はお茶の支度を始める。どうやら説明は諦めてしまったらしい。そういや、この世界は勉強する奴よりしない奴のが多いんだっけ。


「魔法と魔力の違いなら、余が教えよう」


 ……なんだろう、この状況は二度目(デジャヴ)ですね。振り返った先で、得意げな皇帝陛下が豪華なマント付き衣装で立っている。


 すごい美人で目の保養ですが、オレの目が悪いんですかねぇ。お付きの騎士が見当たらないし、そもそもマント付きは公的なお仕事用の衣装じゃなかったかな?


 もしかして……。


 嫌な予感がしたオレの前で、リアムの後ろへ凄い勢いで人が滑り込んだ。走ってきたのだろうが、最後は滑り込みセーフって感じで飛び込んで来たのだから、よほど急いでいたんだろう……ここにいる国王陛下のせいで。


「へ、陛下…っ、いきなり消えては、侍従が……っ」


 息を切らせながら必死で注進申し上げる感じの騎士と、平然としているリアムの間に温度差を感じる。それも熱湯と氷くらいの、世界が違うレベルの温度差だ。


「宮からは出ておらぬぞ」


 へえ、傭兵の官舎もぎりぎり『宮の敷地内』なんだ。現実逃避を兼ねて微笑みながら聞いていると、息を整えて顔を上げた騎士はオレを指差した。人を指差すのは失礼ですよ。


「彼に用があるなら、呼び出せばよいでしょうに」


「用があるのは余の方だ。余が足を運ぶのが当然であろう」


「皇帝陛下ですよ!!」


 確かにオレがいた世界でも、王様ってのは下々の者を呼びつける。自分で出歩いたりしないわ。指差す騎士の失礼さより、納得して感心できる部分の方が大きくて頷いてしまった。見咎めたリアムが表情を厳しくする。


「余は友人に会うのだ。臣下ではない」


「ああ……えっと。その辺で終了してください?」


 息を大きく吸い込んだ騎士が何か言う前に、遮ったが……言葉に迷ったせいで疑問系になった。怪訝な顔をする騎士へひらひら手を振って、リアムの前に立つ。不満を示す形で、ちょっとだけ唇が尖っていた。赤く柔らかそうな唇を尖らせて誘うのはやめてください。惑わされちゃいます。


 唇をぐいっと指先で押して元に戻し、そのまま手を握ったリアムのご機嫌な様子に苦笑した。ぱくぱくと口を動かすが言葉が見つからない騎士へ、とりあえず向き直る。


「任せてもらえますか」


 頷いてくれた騎士にほっとする。掴んだ手を握ったり緩めたりして、なんとか指を絡めようとしているリアムに溜め息が漏れた。しかたないので目を合わせて言い聞かせる。


「リアム。一応皇帝陛下なんだから、騎士や侍従を心配させちゃダメだぞ。そんなことばかりするなら、オレはリアムと友達をやめるから」


「嫌だ!! それに一応じゃなくて、ちゃんと皇帝だぞ」


「ちゃんとした皇帝陛下なら、オレと約束できるよな? 今度からこっちに来るときは侍従に声かけて、騎士を一人以上連れてくること」


「……わかった」


 周囲からざわめきが起きる。仮にもこの国で一番偉い存在に説教する人間はいないだろう。ましてやリアムが素直に聞いているので、余計に騒ぎは大きくなっていた。


「……キヨは本当に規格外だよな」


「異世界人だから」


「元からの本質じゃね?」


「異世界って、化け物ばっかなのか?」


「変わり者だ。魔力量も異常だし」


 ひそひそ聞こえてくる声は、好意的なのか批判的なのか判断に困るが……好意的だと受け止めておこう。じゃないと泣きそうだから。化け物扱いされかけてる。


 そんな非常識チートはカミサマに貰ってないぞ。せいぜい顔を良くしてくれとお願いしたくらいだ。魔力量が多いのは、戦時中に集めた分を丸投げした聖獣に文句をいってくれ……ん?


「ちょっといいか? ヒジリ」


『…なんだ、主殿』


 今の間は何だろうと考えるより早く目に飛び込んだのは、喉をごろごろ鳴らしながら撫でられるヒジリの姿だった。猫をあやすように喉を撫でるリアムは嬉しそうで何よりだが……誇り高いんじゃなかったのか?


「誇り高くて飼い主以外に懐かない筈の聖獣さんにお伺いしますけど」


 嫌味を込めたオレの発言をスルーしたヒジリは、ご機嫌で喉を鳴らし続ける。そのうち寝転がって、腹も撫でさせかねない。


「異世界人に注いだ魔力って、ヒジリが集めた分だけだよな」


 頷いてくれ! そう願うオレの想いを知らぬ聖獣様は、偉そうに胸を張って…でも喉を鳴らしたまま答えた。その姿に威厳は欠片もない。


『すべての聖獣が指示された対象(たましい)に、余剰分を流し込むぞ』


 嫌な方向に考えが当たるのは予言とか予知じゃなく、フラグ回収ってやつですね。現実逃避したい気分で自分の手のひらをじっと見た。この縮んだ子供の身体に、5匹の聖獣がまとめて魔力を放り込んだ――今度はチート疑惑のフラグですか。


「指示された魂がいくつもあったら?」


『今までにそんな経験はない』


 言い切られてしまったので、逃げ道は完全に塞がれた。そうか、戦時中で普段より長い期間集めた魔力をすべてオレの魂に捨てた…と。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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