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25.やめろと言われたが遅かった(1)

 勉強が一通り落ち着いたので庭に出ようとしたら、慌てた騎士に捕獲されました。しかもがっちりホールド……なぜだ。じたばた暴れても手足が短いので、後ろから腹の辺りに手を回して抱っこされると、逃げづらい。肩で息をしながら振り返った先で、困惑顔の騎士に首を横に振られた。


「庭はおやめください」


「なんで?」


「危険です。今は護衛がおられぬでしょう」


「いや、元から護衛なんかいないから。オレは重要人物じゃないし」


「騎士団長からの指示です」


「シフェルなら説得するから離せぇ」


「陛下からも」


「………なにそれ」


 知らない間に騎士団長シフェルと皇帝陛下リアムの命令が出ているらしい。諦めてぶらんとぶら下がると、ようやく騎士も手を離してくれた。地面に足がつくと、お座りしていた黒豹が近づいてくる。


「ヒジリの裏切り者」


『主殿がこの世界に来てからの生活を聞けば、我以外も同じ反応をするであろう』


 言い聞かせるヒジリはけろりとしている。確かに彼が先ほど聞いた短い説明だと、オレは波乱万丈すぎる人生を送っていた。涙ぐむリアムの姿に、哀れまれる対象になりつつある現状も理解したが……。納得は出来ない。


「いや、ほとんど不可抗力だろ」


『我は主殿が迂闊すぎると思う』


「それはないわ」


『…………自覚がないのは嘆かわしい』


 気のせいか? 半端ないディスられかたじゃね?


「どうした、キヨ」


 聞きなれた硬い口調は、ノアだ。庭に出られるかも知れない、とオレは期待の目を向けた。ところが先に騎士が説明を始めてしまう。


「庭へ一人で出かけるというのでお止めしました」


「それは助かった」


 耳を疑うような会話の後、ノアがちらりとヒジリを確認して互いに頷きあう。いつの間にそんなに仲良くなったんだ、君達。


「聖獣殿がいれば危険はないだろうが、キヨはしばらく単独行動禁止だ」


「……ヒジリがいるもん。単独じゃないもん」


 ぷくっと頬を膨らませて抗議してみる。こういう子供っぽい仕草は、とくにノアとクリスに効果が高い。絶対にノアは女子力高い系のオカンだ。


「くっ…ダメだ」


 一瞬絆されそうになっただろ、今。あと一押しかも。唇を尖らせて上目遣いした途端、ノアは視線を彷徨わせた。もうちょっと……。


「ダメだぞ」


 ジャックが現れた。後ろから襟のあたりを掴んで引き寄せられ、そのまま縦抱っこされてしまった。ちくしょう、皆してペットみたいに抱き上げるんじゃねえ。しかも簡単そうなのが腹立つ。


『主殿は子供過ぎる』


 はあぁ……これ見よがしの大きな溜め息を吐くヒジリに、風魔法を送る。髭の先を切り落としてやるつもりだったが、ヒジリの前でふわりと消えた。


『主殿?』


 あ、気付かれた。つうか、魔法無効とかズルい。


「官舎に戻るか」


 ついに官舎と翻訳され始めた。これって、オレが公務員扱いになったわけだ。前は宿舎だったのに…いいけどね、皇帝陛下直属のあたりで公務員ぽいと思ってたから。


「やだ、庭行きたい」


「何をしに?」


「えっと……」


 特に何がしたかったわけじゃない。ふらりと庭へ出ようとしたら止められたので、ムキになっただけなのだ。改めて問われると理由がなかった事実を突きつけられ、視線がさ迷った末に艶のある床に落ちた。


「よし、官舎に帰るぞ」


「ついでだ、新しい銃のテストに付き合え」


「新しい銃!?」


 嬉しそうに頬を緩めたオレの様子に、ノアが肩を竦める。抱っこしたジャックの顔は見えないが、ぽんぽんと背を叩かれた。しっかり子供扱いが身について、ここ数日は違和感がない。心地よさを覚えて、ぎゅっと首を絞めてみた。引き剥がされる。


「ユハだっけ? お前の新しい従者もきたぞ」


「従者じゃなくて、部下」


 言い直しながら、ユハがすでに官舎に回された事実に驚いた。特に問題がなければいいと聞いたし、皇帝陛下の許可があるから大丈夫だと思っていたが……考えていたより大分早い。シフェルや騎士の反対にあう可能性も想定してたんだけどな。


 オレが信用されてるのか、ユハの真っ直ぐな性格が認められたのか。どっちにしても望ましい結果に、オレは機嫌が上向く。縦抱っこするジャックの焦げ茶色の髪をくしゃくしゃ乱しながら、荷物よろしく運ばれる姿に周囲から温かな眼差しが送られる。


 侍女のお姉さんやら騎士さんやら、生ぬるい眼差しをありがとう。


 見守られる環境に慣れていないので、かなり恥ずかしい。官舎の玄関をくぐると、職人さんらしきガタイのいいおじさん達が作業をしていた。


 ぽかんと口を開けて眺めていると、ノアが説明してくれる。さすがに壁まで壊れた部屋は可哀相だという意見が出て、予算から修繕費が捻出されたらしい。皇帝陛下が必死に探すくらいの戦力ならば、もう少し厚遇しても…と思った人の諫言もあったと聞く。


 今度会ったらお礼を言いたいので、名前をリストアップして置いてください。そう頼んだら「あいつらも利用する気があるから厚遇なんだ」とジャックに笑われた。


 貴族社会の裏を覗き見た気分だよ、うん。彼らも利用するから、オレも利用していいのか。貴族や皇族と縁がない一般人(引き篭もり直前)だったので、そういう話はわからない。交渉ごとならレイルあたりが得意そうだから、彼に任せるとしよう。


「なんだ、まだ足が痛いのか?」


 ライアンが苦笑しながら階段を下りてくる。以前に訓練であけた穴は、応急処置を施されていた。お陰でライアンも足を踏み外さずに降りてこられた。多少階段の板の色が違っているのは、まあご愛嬌だ。


 周囲から掛け声やトンカチらしき音が響く中、オレはきょろきょろ見回していた。


「足は平気。つうか、捕獲されただけ」


 答えながら、姿の見えない連中を捜す。まずレイルは情報提供に感謝を伝える必要があるし、ヴィリやサシャもお礼を言っておきたい。


「何を探してるんだ?」


「ヴィリとサシャ、あとレイル」


 ソファの上に下ろしてもらったところで、後ろをついてきたヒジリが乗っかる。顎を膝の上に乗せるのがお気に入りのようだ。オレが座ると、いつも膝の上に乗っていた。寝ているとこれが腹の上に変更されるのは、苦しいから止めて欲しい。


 本職の大工が集まっているため、手際よく室内が修理されていく。それを目で追いながら、オレは収納魔法から取り出したカップを机に置いた。まわりに集まった連中も同じようにカップを取り出す。ここには侍女さんがいないので、ポットも用意した。


「ああ、おれが淹れる」


 オカンことノアが慣れた様子でお湯を沸かし、茶色いお茶を淹れていく。湯気の出るお茶は、手元に引き寄せると麦茶の匂いがした。紅茶は一般的じゃないのか、単に彼の好みかもしれない。


「いただきます」


 挨拶して口をつけると、この世界にはない挨拶に慣れたノアやジャックも続く。勝手に集まってお茶のご相伴に預る傭兵連中は首を傾げただけだった。


「この官舎、いつからこんなに人口増えたのさ」


 見回した中には顔を知らない連中も混じっている。一目で傭兵だと判断したのは、彼らの格好にあった。明らかに好き勝手に選んだ服だ。迷彩柄だったり、丸首Tシャツだったりする。明らかに規律もへったくれもない服装だった。


 対する騎士は所属する団を示す制服を着ているし、非番でも所属部署ごとに割り当てられた色のスカーフを纏っている。いつもきっちり襟元をしめていて、だらしなく裾を出しっぱなしにしない。世間のお子様憧れの職業、騎士様だった。


「お前の部下が増えたからな」


「え?」


「知らなかったのか?」


 ぐるりと見回して、大きく首を傾げた。ここにいる傭兵連中、全部オレの部下なの? ざっくり30人くらいはいるけど。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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