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24.カミサマって仕事してたんだ…

『知らぬ』


「知らないのに従うのか?」


『逆らう必要がない』


 首をかしげて考え込んだオレの様子に、ヒジリは巨体を摺り寄せながら理由を教えてくれる。


『溜めすぎた魔力は定期的に放出する。いつも指定された存在へ注ぐだけだ』


 黒い毛皮を撫でながら唸る。カミサマが指定したとして、異世界人に注ぐように命じたとしたら特殊事例だよな。宗教や神様の概念がないのに、どうしてヒジリ達は疑問に思わなかったんだろう。


「うーん、指定がないときは?」


『定期的に指定されるが、今回は少し時間が空いた』


 黙って聞いていたリアムが迷いながら口を挟む。


「時間が空いたならば、その間に大量の魔力を回収していただろう。しかも戦時中だ。人も魔獣もかなり死んだはず。それでセイの魔力量が異常に多いのだな」


 なるほど。確かに戦時中は死者が増えるし、その分短期間で大量の魔力が聖獣へ集められる。しかも前回の放出から時間が空いていたなら、とんでもない魔力量……ん? これってオレに注いじゃったんだよな。だから魔力が増えて、赤瞳になっちゃったのか。


 ちょっとした疑問が解けてすっきりする。同時に新たな疑問が沸いてきた。


「定期的に注ぐ先って、どうやって決まるの?」


『さあ』


 まったく気にしていないらしい。ある意味、聖獣にとって魔力の放出は排泄に近い行為なのかも知れない。定期的に捨てる……あれ、オレはトイレか?


「カミサマって仕事してたんだな」


 呟いて、手探りで皿を探す。侍女が差し出してくれた焼き菓子を摘んで、礼を言ってから口に運んだ。もぐもぐ噛み砕くオレの手を、ヒジリが執拗に舐める。指の間を舐めるの、擽ったいからやめれ。


「なに、ヒジリ」


『我も』


 甘いものが欲しいと強請られ、皿ごと目の前に置いてやる。そのままリアムの手元を覗き込んだ。聖獣に関する知識をさらりと読んでみたが、大した情報はなかった。


 リアムによると、聖獣は人に使役されることは滅多にない。契約者から聞いた情報を纏めただけなので、契約者自体の数が少ない現状では情報が限られてしまうらしい。じっと見つめてくるリアムに、今後は聖獣に関する情報を提供する約束を取り付けられた。


 死んだ者の魔力は再び(こご)って、生まれた存在に吸収されていく。そのため飽和状態になることは少ないようだが、稀に大きな魔力を持つ者が死んだりすると、聖獣に回収される。大量に回収した魔力を、異世界人であるオレに注いじゃうあたり、カミサマも大雑把なことを………………まてよ?


 分厚い本を読み進める中で嫌な仮定が浮かんだ。


「あのさ、異世界人が多いって聞いたけど」


 確か、最初の頃にジャックがそんなことを言っていた。異世界から来たといったオレに対して「この世界は他の世界から来る奴が時々いる」と説明したのだ。あの後『異世界人の心得』という本を見せてもらったから、疑うこともしなかったが。


「ああ、多いぞ」


 あっさり肯定するリアムは、優雅に紅茶を口元に運ぶ。カップの縁に触れる唇が柔らかそう……じゃなかった。彼の言葉で確信を深めた。


「ヒジリ達が魔力を捨てる先って、異世界人じゃないか?」


「…………可能性は高いな」


『魂段階で区別はつかないが、可能性はある』


 だよな? この世界の人間や魔獣の魂事情は知らないけど、いきなり大量に注いだら壊れるだろ。外の世界からくる存在をゴミ箱扱いして注いでるよな。どうせ作り直す身体なら大丈夫だろ、的な安易な考えで!


 ぎくっと顔を引きつらせるカミサマの姿が見えた気がする。この予想は99%くらい当たってると思う。新しい身体に魂を入れる際、一緒に大量の魔力を与えれば生き残る確率があがるし、異世界の知識を使って出来ることも増えるはずだった。つまり、世界の定期的な改革を異世界人に丸投げ外注してるわけだ。


 なにそれ、狡い。


 オレなんて、この世界に来て頭吹き飛ばされかけたり、銃で撃たれたり、毒のナイフで切られたり、誘拐されて、死に掛けたりして、硬い干し肉我慢したりしてるのに。


 ぎりぎり歯を軋ませて怒りを露にするオレに、ちょっと引き気味のリアムとヒジリが顔を見合わせていた。深呼吸して気分を落ち着けて、温い紅茶をとりあえず流し込む。空になったカップに侍女が新しい紅茶を注いでくれた。


「ノアが持ってた『異世界人の心得』もう一回読もうかな」


 以前はさらりと読み流してしまった。しかもその都度必要な部分だけを読んだので、全体を把握できていない。反省を込めた呟きに、リアムが蒼い目を輝かせた。


「それならば、お前に1冊やろう」


 積み重ねた中に、背表紙の色が違うが同じタイトルの本があった。無造作に引き出したリアムが差し出してくる。受け取ろうとして手を止めると、何か納得した様子でリアムが本を手元に引き寄せた。


「贈答品ならリボンをかけなければ」


 いや、そうじゃなくて。オレが受け取るのを躊躇ったのは、単に「貴重な本だったらマズイな」程度の感覚であって、リボンが付いてないから受け取らなかったわけじゃない。否定しようとしたオレの前で、リアムは自分の髪を結んでいた飾り紐を解いて、くるりと巻いて結んだ。


「どうぞ」


「あ、ありがとう」


 リボンが欲しかったんじゃないが、否定してリアムの髪紐を返すのは嫌だ。飾り紐欲しさに受け取ってしまう。瞳の色に合わせたのか、美しい青い紐を手で撫でる。


 どうしよう、嬉しいかも。


「この世界の発展のほとんどは、異世界人の知識によるものだ」


 分厚い本の後半を開き直したリアムが指先で指し示す。それは新たな知識が持ち込まれた時期を記した年表だった。最初に銃の技術が持ち込まれ、次に煉瓦作り職人、パン職人、それからドレスの縫製や生地の専門家がきて、ここ数百年だとダイナマイトと火薬、ガラス作りか。


 ずいぶんと順番がバラバラだな。技術の年代順に召喚してるわけじゃないのか。


「これは大きな技術革新のみで、他の技術も持ち込まれている」


 確かに溶かした煉瓦のビルの造り方は現代建築だし、この宮殿は中世っぽい。赤い絨毯敷くあたりはヨーロッパ系だよな。逆に庭で寝転んでるときの絨毯はペルシャ風だった。人種も年代もバラバラに呼びつけたのがよく分かる。


「うーん、なんていうか。順番がおかしいよな」


「そうか?」


『世に足りぬものを喚ぶからだろう』


 達観したようなヒジリの欠伸交じりの呟きに、答えが見えた。魔獣を退治するために銃を作れる人間を転移したら、すぐに火薬が必要となった。慌てて火薬を作れる人を呼んで、ついでにダイナマイトが出来る。必要に迫られて異世界転移させるから、こうなってしまうのだ。


 カミサマって仕事が出来るのか、無能なのか。紙一重の存在じゃね?


 ちょっと脳裏に浮かぶカミサマの笑顔が恐怖の色を滲ませているので、これ以上ディスるのはやめよう。ついでに、カミサマが勝手に脳内に出演するのをやめてもらいたい。


 オレから見て、この世界がちぐはぐな印象を与えるのは――思いつくままに足りない存在を異世界から引っ張ってくるカミサマの影響なのは間違いなかった。銃を作るのに必要な付属品(製鉄技術や火薬など)を考えずに、銃の構造を知る人間だけを連れてきてしまうのが原因だ。


 この世界の真理に近い部分を知ってしまったことで、オレはある悟りを開きつつあった。


 ――考えるより、目の前の出来事をそのまま受けれよう。その方が生きやすい。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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