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23.聖なる獣って偉いんだってよ(2)

 最近魔力を使っての訓練や逃走が続いたせいか、髪は肩甲骨を覆う長さになっている。器用なノアが編んでくれたので三つ編み状態だが、邪魔なら切ろう。


『赤瞳までだ』


「そっか、サンキュ。赤い瞳になると興奮状態っていうか、気が大きくなるみたいでさ。手が触れたビルが溶けて、人攫いの下種の頭を砕いたところで……同じように捕まってた子供を逃がしてやったんだけど、これがまたお化け扱いだったな。そこにレイルとシフェルが駆けつけて、オレの作戦勝ちかと思ったところで気絶した。目が覚めた時の至福のひと時は忘れない」


 豊かで柔らかい胸の感触を思い出して顔が緩む。


「そしたら深夜に襲撃されて、シンカーの指令本部を守ろうと戦ったんだ」


「シンカーの指令本部は、セイが全壊させたと聞いたが」


 確かにそれで謁見が早まったんだけど、ちょっと違うぞ。


「いや、半壊だろ。建物残ってるもん」


「バズーカ撃ちこまれて、かろうじて形は残ったが使えないと報告を受けた」


 下からのヒジリの興味深々の眼差しが痛い。無邪気なだけに突き刺さってくる。それとなく視線を落として、紅茶を飲んでみたりした。


 オレは悪くない、たぶん。ちょっと引き金に指をかけただけなんだ。


 心の中で盛大な言い訳をぶちまけて、何もなかったフリで話を続ける。


「3日目にリアムと出会って、運命を感じたな。こんな美人がいるとは知らなかった。お茶会をすれば狙撃されて、犯人を処刑して……一緒にベッドで戯れちゃったし」


 照れて赤い頬を両手で包むリアムは、目の保養になる。本当に美人は得だ。


「次の日は早朝から訓練で死に掛けて……そうそう、レイルなんて毒のナイフまで使ったんだぞ。苦しいし目は霞むわで死ぬかと思った。朝食は乾パンと干し肉、ミルクだなんて。どこの戦場だよってメニューだったな」


「それは初耳だ。どんな食べ物だ?」


 目をきらきらさせるリアムの無知が辛い。なんだろう、この“教えちゃいけない”って感覚は。教えたらいろいろ彼が穢れちゃう気がするし、食べてみたいなんて言われたら息が止まるかもしれん。シフェルに首を絞められる形で物理的に…。


「まあ味や硬さは置いといて、その後はリアムも知ってる通りだ。術で無理やり知識を放り込まれて背中が傷だらけになった。暴走した部下がシフェルとクリスを攻撃しちゃって謝罪したり……それから10日くらいは平和だったな」


 遠い目をしてしまう。最初の5日くらいが死に掛けること複数回のハードな日程だった。そりゃもう、分刻みレベルの忙しさだし。この世界の常識もわかってなかったから、余計に苦労したんだよ。


 リアムがクッキーを口に運び、半分だけ食べて皿に置いた。


「セイ、紅茶のクッキーが食べたい」


 ぱちくり、目を瞬いて動きを止める。小首をかしげて言葉を反芻し、収納魔法の口から自作クッキーを取り出した。このクッキーは大量に作って保管していたため、西の国で貴重な食料になったものだ。残りはだいぶ少ないので、また暇を見て作る必要があるだろう。


 リアムの前の皿に袋から出したクッキーを積み上げた。


「どうぞ」


『主殿、我も』


「はいはい」


 数枚袋に残したクッキーを手の上に乗せて、ヒジリの前に差し出した。猫科の特徴なのか、舐めて持ち上げたクッキーを噛み砕く。髭周りを肉球で拭う姿が可愛くてお気に入りだった。


 基本は実家の猫の大きいバージョンだ。


「魔法や歴史を学んで、計算が出来るので驚かれたりしたけど……3日前に黒い沼で誘拐されて、西の国の自治領に落ちた。沼で溺れたときに魔力を使ったらしくて、やたら眠くて参ったよな。目が覚めたら追われて、捕獲されたわけ。変態っぽい領主にあったけど、あ…貞操は無事だぞ!」


 何故だろう、目頭をハンカチで押さえるリアムの姿に哀れまれている気配を感じる。ついでにクッキーの粉を拭ったヒジリも伏せて顔を押さえていた。


「暗殺者に襲われたから飛び降りたら3階でな、右肩脱臼。縛られてるの忘れてたオレが悪いんだが、首を絞められて『三途の川』が見えたような、見えなかったような。そこでユハが助けてくれて……彼が今回の亡命者だ」


「三途の川……?」


 こっちの世界にはないのだろうか。そういや、宗教の話を説明されたり聞いた覚えがない。さすがに宗教は存在するだろうが、さほど重視されていないのかも知れないな。


「前の世界での表現だな。死に掛けたときに川の向こう側で、すでに死んでるお祖母ちゃんが手を振って「おいで」って招くらしいぞ」


「……それはまた、怖い」


 リアムにはホラーとして認識されてしまった。オレの説明が悪いんだろうか。元が引き篭もり予備軍だから、あまり説明やコミュニケーション能力が高くないので許して欲しい。前世界の文化が正しく伝わらないが、正解を知ってる奴もいないので構わないはずだ。


「ユハの事情を聞いて、まだ暗殺者がいそうなんで逃げた。途中で足を痛めたと思ったら折れてるし、ヒジリに追われて崖から落ちた後、木の虚に隠れたところをジャック達に発見されたんだ。そういや、どうしてオレの居場所がわかったの?」


 ピンポイントで木の虚の傍に転移した騎士や傭兵の様子から、誰かが詳細な情報を送ったんじゃないか。気絶してたオレじゃないし、逃げてたユハ達も違う。考え込んだオレへ、そっと涙を拭ったリアムが答えを提示した。


「レイルが見つけた。さすがは実力も規模も最高峰の情報屋だ。レイルの情報網で西の国の自治領主が、転移の魔法陣を購入したと判明し、あとは彼の独壇場(どくだんじょう)だ。情報網の一部である者を2名派遣して、魔力を直接追跡したらしい」


 2名? もしかして、あの……黒豹に追われてたときに感じた、追跡者かもしれない連中だろうか。分かってたら回収してもらえたのに。敵だと思って逃げちゃったじゃないか。


 すれ違いってのは、そんなものだ。理解する反面、溜め息が出てしまった。


「魔力って追跡できるのか?」


「よく分からないが、レイルから何か貰ったり贈られたりしなかったか? それの魔力を追ったと聞いたが」


 レイルに貰った……あのナイフと銃か! 収納魔法で持ち歩いている。たしか収納された物は本人の居場所に付随して移動する別空間に仕舞われているから――ある意味、追跡用GPSを持たされたわけだ。


 そこで疑問が過ぎる。


「魔力を追えるなら、もっと早く発見できたんじゃないか?」


「追跡できるのは近距離だけだ。魔力感知が届く範囲と考えればわかりやすい」


 なるほど。追跡した2人の魔力感知の範囲を、黒豹に追われたオレが走り抜けたので気付いた。人海戦術と考えれば、GPSより精度は低いな。


 最悪貰ったナイフや銃を返そうかと思ったが、害がないなら愛用しよう。手にしっくりくるっていうか、レイルのくれた武器は馴染むんだよな。使いやすいし。


 気付けば、リアムの前のクッキーが消えていた。涙拭ってたわりには、しっかり食べていたらしい。


「オレの話は終わりでいいから、使役獣について教えてくれよ。聖獣ってオレの世界と違うみたいだし」


『この世界に聖獣は5種類ある。黒豹である我、大きな蛇に似た赤龍、白いトカゲ、青い猫、金の角を持つ馬だ』


 聖獣様自ら説明されちゃったよ。にしても、方角や色は関係ないんだな、やっぱり……風水ってのはこの世界と関係ないらしい。


「ふーん、オレのいた世界だと空飛ぶ火の鳥がいたけど」


「全部空を飛べるぞ」


 リアムの発言に「は?」と間抜けな声が漏れた。今聞こえた言葉が正しければ、ヒジリも猫やトカゲも空を飛べるのか?

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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