22.増えた仲間たちの確執(1)
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たらふく食べて、ぐっすり眠った。さすがに早朝の訓練は免除されたらしく、起きたときには日が昇っていた。どうやらお昼前後らしい。
放っておいてくれたジャック達に感謝だが、もし攻めてきてたら、寝ぼけてキレたオレによる容赦ない反撃が彼らを襲っただろう。建物倒壊レベルの大騒ぎになった可能性は否定できなかった。そういう意味でも、彼らに「寝かせてやろう」との分別があって助かった。
ぐぅ……腹が情けない音を立てる。朝ごはん抜いたけどさ、大量の夕飯食べたくせにお腹鳴るのは恥ずかしい。宮廷の料理人がお代わりをひたすら作ってくれたのを思い出し、ちょっと遠い目になってしまう。
誘拐されて2日目には発見されて戻ってきたけど、異常に腹が減った。リアムの説明によると、赤瞳は魔力を大量消費するため、体力も消費するらしい。
『起きたのか、主殿』
ベッドが軋んでるのは、おそらく気のせいじゃない。隣、いや半分ほどオレにのしかかってる黒豹の重さの影響だろう。この部屋は以前の訓練時から使ってる私室だが、窓を突き破ったり壁を破壊したせいで寒い。毛皮たっぷりの大きな黒猫が温めてくれたと考えるべきか。
「うん……つうか、いつ隣に潜りこんだ?」
いくら疲れて熟睡していたとはいえ、隣に獣が入り込んだら気付くだろう。しかも人間の大人より大きな黒豹だ。帰宅(?)して安心したとしても、油断しすぎだろ……オレ。首とか噛まれたらどうするんだ。
『主殿が寝てからすぐだな』
「あっそ……」
大きく伸びをしてふと気付く。さっきから、ヒジリはオレを「主殿」と呼ぶ。
「なあ、ショウって呼ぶんじゃなかったっけ?」
『普段から多くの名で呼ばれたら、主殿が混乱するであろう。専用の名がある事実だけで、我は満足だ』
意外と気遣われている。確かにたくさんの呼び名に混乱しそうだし、話しかけられても気付かない状況も生まれかねない。咄嗟のときに馴染みのない名で呼ばれても、きっと反応できないから。
大人の余裕を感じさせる発言に、夕飯時の説明を思い出した。
リアムが一緒なので、正確には晩餐だろうが……足元でヒジリが生肉咥えてたし、オレは異常なスピードで皿を嘗め回さんばかりに食べ続けていた。あれは晩餐じゃなく、夕飯と表現するほうが的確だろう。
聖獣は魔獣とは区別されるらしい。聖なる獣と書くだけに、やっぱり賢いのが特徴だ。使い魔程度でお使いをこなす魔獣の知能は5~6歳の人間程度。聖獣は人間の大人並みの思考能力と大量の知識を誇る。
まったく別物と考えたほうがよさそうだ。
「ふぁ…っ。ヒジリは…、なんでオレの誘拐に手を貸したんだ?」
単純な疑問を、大きな欠伸に続いて投げかけた。一週間以上の戦闘訓練に耐えてきたベッドは、もう限界のようで悲鳴を上げている。その上で平然とヒジリが前足を組んで顎を乗せた。
オレはミシミシいうベッドの上で寛げないけどな。今も、真っ二つに割れたら、すぐ飛び退る気満々だ。早朝訓練で数人いっぺんに飛び降りたりされたから、耐久性能以上の仕事をさせられただろう。哀れなベッドに同情を禁じえない。
『あれは我ではないぞ』
「ん?」
『主殿を誘拐したのは魔獣だ。我が住む西の森に主殿の魔力を感じて並走したところ、隣の魔獣と一緒に攻撃されただけの話。我に傷を負わせる主殿に惚れこみ、契約を強行した』
「うん?」
奇妙な言葉が聞こえた。
まず、最初に黒い沼を作ったのはヒジリじゃない。あれは使役された魔獣だったのだろう。確かに最初は1匹だったのに、西の自治領主の館から逃げ出した後で2匹になった。どこで増えたのか覚えてないが、反撃を試みた頃にはいたのだ。
そして契約は強行されたらしい。
確かにオレは契約を承諾していないし、いつの間にか「契約後だよ」と告げられただけなので、強行という表現は間違っていないだろう。しかし本来は反対を押し切った場合に「強行」という単語を使うのではないか?
「強行、した?」
『うむ。契約の魔法陣が弾かれたのでな、上下左右から縛って契約した』
複数の魔法陣を描いてオレを束縛した上で、強制的に契約を行った――と。
「どのタイミングで?」
『撃たれたあとに主殿に魔法陣をぶつけたが弾かれ、落ちた主殿が意識を失ったところに四方八方から魔法陣で包んで契約したぞ』
なぜドヤ顔で尻尾を振ってるのか、この聖獣の心境が理解できない。だれか100文字くらいで簡単に、オレが理解できる形で説明してくれ。
得意げな顔をしているが、それって意識のあるオレに勝てないから、気を失ったのを幸いと襲った……って直訳しても間違ってないだろ。
「……解約方法は?」
『どちらかが死ねばよい』
「なら……しねぇ!!」
反射的に襲い掛かってしまった。巨大な肉食獣だろうが、聖なる獣様だろうが知ったことか!! 怒りのままに放った火の魔法が、再び目の前で四散する。
「卑怯だぞ!!」
叫んで銃を探る。いつも枕の下にある銃が見当たらず、きょろきょろと周囲を見回した。にやにやと笑うヒジリが顎の下の手を動かすと……彼の肉球の下から銃口が覗いている。
ほんっとうに、油断しすぎだろ…オレ。
一気に疲れて倒れこんだオレの頬に鼻を寄せたヒジリは、得意げに鼻息を吹きかけた。金色がかった瞳の瞳孔が広がって丸くなる。
『そう騒ぐな、主殿。腹が減るだけだ』
「……そうだな、とりあえずご飯食べよう」
腹が減ってるから変なことを考えるのだ。満ちていれば、ここまで腹が立つこともない。自分を慰めながら身を起こせば、音もなくベッドから降りたヒジリが足に擦り寄った。
「そういや、足の痛いのも肩も全部治ってたけど」
『治癒は我の得意分野だ』
「へえ、舐められたのがそう?」
答えとばかり、尻尾が大きく揺れた。黒い背中に興味半分で跨る。嫌がるかと思ったが平気なのか、そのまま乗せて歩き出した。肩から背中にかけての筋肉が大きく脈打つ。寄りかかるように寝そべって、首に手を回した。
無理やり強行された契約だが、このもふもふ具合はいい。漆黒の獣を従えるのも厨二っぽくて格好いいし、ビロードに似た手触りも捨てがたかった。うん、素直に受け入れよう。解約できないんだから。
「ありがとうな」
『主殿と我は一心同体だ』
首に手を回して抱きついたまま、ぐるぐる鳴る機嫌の良さそうな喉まわりを撫でながら進んだ。階段は少し怖いが、落とされることもない。
「起きたのか、キヨ」
ジャックは汗を拭きながら近づく。逆にノアは少し距離を置いており、ライアンにいたっては腰のベルトに手を伸ばしていた。ヒジリが聖なる獣だと聞いても、猛獣にしか見えない。
子供の外見をしたオレとの組み合わせは、大型犬と少年という微笑ましい構図に遠く及ばなかった。贔屓目にみて、人間の子供が肉食獣に連れ去られる姿あたりか。
「おはよ、皆。寝過ごしちゃった」
「今日くらいはゆっくり休め。明日から訓練を開始するらしいぞ、シフェルは会議だから講義はないだろう」
恐る恐る近づいたサシャがオレの長い髪をくしゃりと撫でる。少し手が震えているが、気付かないフリで唇を尖らせた。
「ええ~、明日って早朝から?」
いつも通りに振舞うオレの態度に、ジャックが笑い出した。腹を抱えて笑った後、「お前は本当に大物だな」と髪を乱す。ぐしゃぐしゃかき回したあと、覚悟を決めたように膝を落として、ヒジリと目を合わせた。