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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第35章 ざまぁは熱いうちに打て

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347.新生活が順調すぎて怖い

 北の国のシンに尋問のお願いをしたところ、やっぱり残酷な方法をよく知っていた。専門の人を派遣してくれたので、お礼に官舎の部屋をひとつ用意する。いつでも泊まれるようにしておくと言ったら、金貨より喜ばれてしまった。安上がりな兄で助かる。


「キヨ、そっち行ったぞ」


「了解、見えてるよ」


 足元を走り抜けようとした子どもの背後に飛び降り、振り返った彼の首にナイフの刃を当てる。喉を動かせば危険なギリギリの位置だ。


「こ、降参です」


「はいよ」


 ぺちんと赤いペイントをつけて終了扱いにする。このペイントが付いたら死亡と同じだった。オレの訓練よりだいぶ甘い。だがまだ未熟な子どもで万能結界もチートもない。二つ名持ち相手に実弾訓練は可哀想だ。というか、初日は決行した。


 半数が瀕死の重傷になったので、危険と判断されて中止。その後絆創膏もどきとオレの治癒魔法で回復させたものの、毎日では大変だ。ましてや、オレが留守にする日はどうする? サシャの治癒じゃ、ここまで重傷者が多発すると間に合わない。仕方なくペイント弾で妥協した。


 飛んできた弾をひょいっと避ける。


「う、嘘だろ!」


 叫んだ青年に撃ち返した。ペイント弾は引き金が軽くて変な感触だ。騒いだ彼の胸に赤い色が広がった。


「はい、終了」


「お疲れ様でした」


 礼儀正しく下がる。ちなみに、倒されるのが早すぎると罰ゲームがある。掃除、洗濯、食事は当番制になっているが、一番の重労働は食料の受け取り係だった。


 これだけの人数で、人の数倍食べる連中の食材だ。それは量も種類も大量だった。備蓄も兼ねているので、常に先入先出を行う。外から運んだ食料を並べ、すでに並んでいる備蓄を食事用に取り出すまでが罰ゲームだった。


「え? 俺までか、くそっ、今日は抜けたと思ったのに」


 悔しがる茶髪の子が「ぐぁああ」と吠える。昨日も罰ゲームだったらしい。仕方ないよな、ある意味公平な決め方だ。傭兵として考えたら、常に強い者が弱い者を使う。わかっているから、彼も文句を言いながら代車置き場へ向かった。


「あと何人?」


 残った子どもの数が半数を切ったら朝の訓練は終了だ。


「ん? 15人かな」


 時刻を確認し、「へぇ」と感心した。最初は15分もしないで半分を切ってたのに、今は30分経っても半数以上残っている。やっぱ、戦闘は訓練した時間に比例して強くなるんだな。脳筋な考え方だが、シフェルは正しかった。


 茂みの横を通ったオレの後ろに飛び出した子が振ったナイフを、無造作に指で止める。刃を掴むには力と速さが必要だった。この技術、レイルから教えてもらったんだっけ。懐かしく思いながら、驚いた顔をする子にペイント弾を撃ち込んだ。


「こういう時さ、油断しちゃダメ。慢心も大敵だ。防がれる可能性を考慮して、次の武器を用意しておけよ」


 言いながら、シャツで隠れたナイフや拳銃を披露する。こうやって戦い方を教えた。この世界から戦争がなくなっても、人を殺す奴がいなくなることはない。銃刀法があった日本がそれを証明していた。


 やばい肩書きの人はどこからか銃を手に入れるし、警察官は職務の拳銃で自殺したりした。頭のおかしな奴が包丁を振り翳して、一般人を襲う事件もあったぐらいだ。暗殺や反逆はなくならないだろう。その暴力行為に対抗する方も、暴力を知り尽くしていなければ負ける。


「ありがとうございました」


「はい、お疲れさん」


 残り12名で、ようやく終了の合図が来た。今日の戦闘は36分だ。ほぼ毎日新記録更新だと、成果が目に見えるな。身を伏せていた連中が出てきたところを肩を叩いて追い抜く。そんなオレの頭を撫でようとするの、マジでやめろ。背が高いからって勝ったと思うなよ!! まだこれから成長期なんだからな!?


「平和だな」


 食事を終えて、ヒジリを撫でながら欠伸をひとつ。ここ最近の生活があまりに普通すぎて、なんだか退屈な気もしてきた。あれか? これが戦場帰りがおかしくなる原因かも。


 新兵となった子達の訓練が優先された結果、早朝のオレへの攻撃は止まった。オレが攻撃を仕掛ける側に加わったんだけど、相手が弱過ぎて半分寝てても勝てる。卑怯なので、万能結界は自主的に使わないようにしてるけど。飛んでくる弾は魔力感知を使えば把握できるし、子ども達の位置も分かる。


 朝食を食べたら、今度はオレやジャック達の訓練だ。見学自由なので、いつも窓は見物人が鈴鳴りだった。こっそり混じってる騎士もいるようだけど、子ども達は上手に相手をしてるらしい。それなりに仲良くしてる。対立するより損はないので放置した。


 汗を流したら、昼食。これは簡単なもので済ませる。なぜなら、おやつの時間にリアの作ったスコーンやサンドパンを食べるからだ。それまで皇族の立ち振る舞いからダンス、礼儀作法の教養を詰め込まれる。担当教師はシフェルと、意外にもじいやだった。有名旅館のオーナーは伊達じゃない。


 リアとお茶を楽しんだら、執務のお勉強というか、手伝いだった。皇帝陛下であるリアが処理する書類は、驚くほど多い。他の皇族がいれば手分けできるところが、あの役に立たない叔父くらいしか生き残らなかったので、全部リアが片付けてきた。手伝いを申し出たところ、ウルスラにきっちり叩き込まれた。最近ではようやく、1割くらいの仕事を任せてもらえてる。


「叔父上はどうしている?」


 思い出したように尋ねられ、昨日見た姿を説明しておいた。というのも、魔法の実験にヴィヴィアンが雷を落としたのだ。生き返ったところで、どんな感じだったか尋ねる。答えが「覚えていない」や「説明できない」だった場合、もう一度試されるらしい。オレが顔を見せた時は、ちょうど落雷した直後だったので、悲鳴だけ聞いてきた。


 くすくす笑うリアだけど、いろいろ複雑なんだろうな。聞かれたら答えられるよう、少し笑える話を選んだのは正解だった。こないだシンが来た時は、新しい剣の試し斬りだった。血塗れですごかったな。その次はレイルで、多種多様な毒を飲ませて結果を一覧表にしていたけど。あれも怖い。


「どうした? 気分が悪いのか」


 心配そうに額に手を当ててくれる黒髪美少女に、オレは首を横に振った。


「なんでもない。ただ平和で幸せだなと思っただけ」


「セイ、大変言いづらいのだが」


 リアがすまなそうに書類を差し出した。目を通すと、孤児院の土地を接収する内容だ。何があった? 前のオレならここまで読んだ時点で、いきなり騒いだけど。報告書や指示書の書式を覚えた今は、落ち着いて続きに目を通せる。この世界の書類は、いきなり結論がくる。それから理由や対処方法が記されるのがルールだった。日本の裁判の判決みたいだ。


「お湯?」


「そうだ。大量らしい」


 孤児院の中庭から、突然お湯が湧き出したという。当初は量が少なかったのだが、徐々に増えていき、今では流すための排水路まで作られた。このお湯が肌にいいと噂になり、入浴施設に変更する案が出ている。裕福な商人が何人も経営に名乗りをあげ、現在審査中。


「孤児院は引っ越しか」


「商人達が金を出すように条件をつけている」


 湧き出したお湯はたぶん温泉だろう。そういや中庭を平らにした時、何か変な手応えがあったが……あれが温泉か。孤児院は街中の一等地に引っ越し、今の2倍の規模に拡張される。全然問題ないな。きっちり最後の条件まで確認してから、オレは署名して押印した。

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