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346.異世界知識はそのまま使えない

 宮殿内の廊下で、ちょうど2人とすれ違い空いている部屋で相談を始めたんだが。


「すでに決行してしまったのなら、仕方ありませんね」


 呆れた言葉より柔らかい声でシフェルは表情を緩めた。どうやらオレが勝手に咎人にした件は、叱られずに済みそうだ。リアに聞かせる前に、シフェルに相談して正解だった。ウルスラはこの程度の対応は当然だと頷いた。宰相として国をまとめる立場にいる彼女は、いつも邪魔をする先先代の帝弟が目の上のたん瘤だったらしい。


「騎士団長殿、よかったではありませんか。尋問中に誤って殺害する可能性が減りました」


「おや……宰相閣下がそのような。尋問中に失敗するような部下は置いていないつもりですが、そうですね。手加減の必要がないのは助かります」


 貴族の会話って怖い。最初から殺すの前提かよ。いやまあ、これまで彼らが苦労した経緯を考えると当然だろうけど。


 リアの母親の弟だから、簡単に処分できない。だが帝位を狙って余計な騒動ばかり起こす。いっそ幽閉して社会的に抹殺してやろうか。そう考えても仕方ない状況だった。リアの兄が毒殺された時点で疑っても、証拠なく当時の先代皇帝の弟を断罪できない。しかも残された皇族直系の竜属性がリア一人なのだ。最悪の場合を考え、血筋が途絶えないように愚弟のおっさんを生かす必要があった。


 出来るだけ政治から遠ざける役目を有能な宰相ウルスラが担い、生かさず殺さず管理する役割を騎士団長シフェルが負った。ぎりぎりで生かされているとも知らず、当人は皇族だから安全と勘違いして再び毒を使ったのだ。


 この状況でオレが義叔父に同情する余地ってないよな。何度か引き裂かれて、リアの兄さんの分も痛みや苦しみを味わうといいさ……ん?


「なあ、その尋問にうちの家族を混ぜてもらえるかな?」


「家族というと、北の王族の方々ですか」


「そうそう。どうも中華っぽいんで、北の国って()()が発達してるんじゃないかと思うだよね」


「殺さず痛めつける()()()()は豊富でしょうね。ところでチュウカとは?」


 固有名詞だから翻訳されなかった。じいやなら説明要らずなんだけど。オレが知る限りだと、テレビで放送してて残酷なシーンが問題視された西太后の映画か。掻い摘んで説明すると、段々と青褪めた後で頷かれた。


「わかり……ました。我らはまだまだ未熟です」


 ぽんと肩を叩き「こういうのって慣れたら終わりだよ」と慰めにならない言葉を送る。あの映画の西太后が行ったあれこれは凄まじかった。まあどの国も闇はあるけど、歴史の長い国ほど残酷な気がする。


「ぜひ力をお借りしましょう」


「うん、伝えとく」


 ついでに送迎もオレがしよう。向かってくる間に、暗殺されたら事件だし。転移ならその心配なく、即日行き来できるからね。午前中は執務をして、午後は隣国で拷問して夕食までに帰るなんて芸当も可能だった。


 魔法万歳、やっぱりどこでもドアは有能だった。そういや、うちのブラウって青猫だよな。耳をネズミに食わせて、太らせたら……似てる? 無理か。似てない、似てない。


「ところで知恵を借りたいのですが」


 ついでとばかり、孤児院の仕組みをウルスラに尋ねられた。正直放っておいたので、レイルに聞いてくれと言いたい。知ってる範囲で答えていくと、福祉の概念に話が逸れた。年金制度に興味を持ったらしい。この辺は便利だけど、国が補填したりすると大変だと話を追加した。実際、日本でも破綻しかけてたし。


「税金を上げれば生活が苦しい、でも未来は豊かになる。難しい問題だろ。導入はゆっくり考えたほうがいいぞ。それにこの世界だと親が年老いたら子供が面倒見るんだろ。だったら問題ないじゃん」


「結婚しない者の老後はどうするんですか」


 それって遠回しだけど、孤児出身の傭兵のことかな。彼らは結婚できないことが多いと聞く。ひとつところに落ち着く概念がないし、戦場で散ることも少なくないと聞いていた。


「ウルスラがそんな心配してくれると嬉しいな。オレは退職金を考えてた」


「「タイショクキン?」」


「仕事を辞める時に、まとめて渡す臨時金だ。それを貯蓄して切り崩しながら生活できるだろ? 貯蓄が難しいなら、分割払いでもいいし」


 なぜか変な顔をされた。ウルスラがじっくり考えてから、心底不思議そうに口を開いた。


「仕事をしなくなった後も給与を払うのですか」


「あ、なるほど。給与と考えるからおかしいんだな。長く勤めたらご苦労賃を払う。すぐ辞めたら払わない。給与の上を少しカットして纏めて受け取る制度だよ」


 ちょっと違う気もするが、大まかに合ってればいい。この世界で受け入れやすい形なら問題ないさ。この説明なら彼らも納得した。給与を薄くカットして保管し、溜まった分を辞めるときに本人に渡す。騎士団でも取り入れられないか、検討することになった。


 年金問題とか、難しすぎてオレは説明できる気がしない。そちらに話を振られたら、じいやに丸投げするつもりだったので助かった。


 思ったより話が長くなり、時間は中途半端に遅い。もっと遅ければ諦めて帰るが、まだ顔くらい見れるかも。そう考え、挨拶して帰ろうと決めた。リアの部屋の手前で、セバスさんと鉢合わせする。


「陛下がお待ちです」


「ありがとう、挨拶したら帰るよ」


 未婚女性だし、変な噂が立たないように注意するから。そう伝えるとセバスさんは笑って頷いた。部屋の中に侍女がいるので、扉を開けて手前で挨拶すればいいだろう。護衛の騎士に取り次ぎを頼み、待つこと数十秒。


「セイ!」


 勢いよく飛びついたリアを受け止める。こういう時、鍛えておいて良かったと思う。魔法は万能だが常に展開してるわけじゃない。基礎体力がないと辛いよな。筋力も絶対に必須だ。これからも鍛えることを心に誓いながら、リアの黒髪を撫でた。


「どうしたの? 何かあった」


「叔父上をどうした?」


「まだ生きてるよ」


 というか、死ねなくしちゃったけど、何か懸念事項でも?


「安心した、これで寝られる」


 ん? リアは殺すの反対派なのか? 顔に疑問が浮かんだらしく、くすくす笑うリアが手招きした。護衛に聞かせる話でもないので、素直に中に入る。


「結界張っとくよ」


 侍女ごと結界に包む。遮音結界だが、のそりと足元からコウコが出てきた。口元に黒酢ついてるぞ。指で突いて知らせると、ぺろりと長い舌が舐めとった。やっぱ、先端は二つに割れてるのか。


「殺すのは自分の手でやりたい。お母様やお父様の件にも絡んでいた可能性があって……だから、兄の分だけじゃなくて仇を討ちたいの」


 きゅっと唇を噛み締めて泣きそうな顔をする。そんな顔で手を汚す決意をするなよ。頬を撫でたら、擦り寄ってきた。美人なのに可愛すぎる。


「こんな私は嫌いか?」


「普通だと思うぞ。オレだって同じこと考えるだろうし。それなら秘密ついでに教えちゃうけど、聖獣の咎人にしてもらった」


「っ、あの……咎人か?」


 死ねない呪いを、流石に彼女も知っていた。複雑な感情が彼女の顔を過り、最後に口元を緩めて笑った。


「あの人には当然の罰だよね」


 自分に言い聞かせる響きに、明るい声で言い放った。罪の意識をリアが持たないように。全部こっちのせいにすればいい。


「この国の聖獣ヒジリが直々に提案してきたんだ。彼も腹に据えかねてたんだろうさ」

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