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345.物騒な相談は個室で

 食後のキベリまで美味しく頂き、子ども達は後片付けに入った。これは当番制にするつもりだ。以前は料理が苦手な傭兵が買って出ていたが、今後のことを考えると全員料理を叩き込んだ方がいい。オレのとこを辞めて、よそに就職しても役立つ技術だからな。


 手に職ってやつだ。


「キヨ、あのおっさんの裏取ってきたぞ」


 軽い口調で、情報の入ったカードを手渡される。認証方式で、指定された受取人以外が読めないやつだ。礼を言ってポケットに入れた。


 リアの叔父で、オレにとっても義理の叔父に当たるらしい。まあ皇帝陛下の殺害未遂を企て、先代皇帝陛下殺害の嫌疑が掛かった……そうじゃないな。ただのクズ野郎だ。リアの兄さんを殺し、リアも殺そうとした。にやりと笑ったオレが、自室へ向かう。後ろからヒジリがのそりと付いてきて、マロンには残るよう合図した。


 子ども達はマロンと遊ぶカードゲームに夢中で、今もまた新しく数人が加わった。気を引いておいてもらおう。ブラウは寝転がって動く気なし。気が向いたら顔を出すだろう。スノーはしっかりオレの肩にしがみついて離れなかった。子どもに何かされたトラウマでもあるのか?


 ぽんぽんとスノーを落ち着かせながら部屋に入り、レイルも入ったところで扉を閉める。念のために音を遮断する結界を張った。ようやく異世界転生したチート野郎っぽく魔法を使えるようになってきたぞ。最初の頃はどうしても魔法の存在を忘れて、力づくで解決してた。


「火つけるぞ」


 取り出した煙草を見せて、レイルが当然のように火をつける。オレは吸わないから一応禁煙の部屋なんだけどな? 文句を言うより前に資料に目を通した。表示される文字を読んでいくうちに気分が悪くなる。


「なんだ、こいつ。マジでこの程度の理由でリアを狙ったのか」


「前皇帝陛下も弑逆してる悪党だ。どうする?」


 怒りはとっくに突き抜けて、言葉は自然と呆れが滲んだ。


 皇帝の座が欲しい、それが動機だ。姉と弟なら長男の自分が跡取りだと思ったのに、先々代は娘を選んだ。理由は姉が優秀なのはもちろん、竜属性だったからだ。皇族の皇位継承権に絡む重要なファクターだった。叔父は熊属性だ。クリスティーンと同じか。


 皇族といえど、竜属性でなければ皇帝の座は得られない。だが例外がある。かつて戦いでこの国が焼け野原になった時、竜属性以外で唯一の皇帝が誕生していた。竜属性の血筋に生まれた彼が残した子は5人。そのうち2人が竜属性で、兄が皇帝の座に就いた。その前例を利用しようとしたのだ。


 息を潜めて力を蓄え、貴族達に根回しを始めた。その中で、姉が産んだ子は兄妹ともに竜属性だ。この時邪魔者を排除しようと決意した。待っていても皇帝の玉座は手に入らない、と。


「バカだよねぇ、手の届かない物はどうやっても届かない」


 引きこもったオレは知ってる。運動神経抜群の秀才を目指そうとしても、持ってない才能は開花しない。多少出来た気になっても、すぐに本物に抜かれるのがオチだった。運動もそう、勉強もそう。オレはどれもトップに立てなかった。サバゲーだって、上位に食い込んで順位にしがみ付くのがやっとの有り様で、とてもじゃないが優勝する見込みのない凡人だ。


「処分しちゃおう。シフェルと相談して、さくっと片付ける」


「苦しめて処刑の方が、お前の彼女は喜ぶんじゃねえか?」


「喜ぶ、かな」


 優しいリアだから、後で悲しむんじゃないか。兄が復讐を望んでなかったのに手を汚したと、苦しませるくらいなら。


「オレの手を汚した方が早い」


『主殿、よいか?』


 かっこよく覚悟表明したところで、ヒジリが足元に寝そべりながら欠伸をする。そのくせ、口調は真剣だった。


「ヒジリ、なに」


『聖獣の咎人という、戒めがある。それを使ってはどうか』


 聖獣の咎人(とがびと)――聞いた途端にレイルの顔が青褪めた。どうやらかなり残酷な方法らしい。わくわくしながら、床に座り直してヒジリの頭を撫でた。軽い機嫌取りだ。


「それ、詳しく」


 顔色を無くしたレイルは、聞く気も教える気もないようだ。気分が悪そうなので、退室を許した。結界を解くと、大急ぎで部屋を出て行った。失礼だな、オレが何かしたみたいじゃないか。


 ヒジリの説明は回りくどい表現がいくつかあったが、簡単にまとめると以下の通りだ。


 適用されるのは、聖獣または聖獣の主人に危害を加えた者。ここで契約者ではなく主人という部分が特殊なのだという。土地の契約者である王族が害されても動けない。だが聖獣本人または大切な主人を害されたときに初めて使えるのだ。今回の場合、リアの兄が殺されてもヒジリは動かないが、オレやヒジリがいる場所で毒を撒いたことが該当するらしい。


 聖獣が掛けた戒めは、オレの知る呪いが近かった。呪われると酷い目に遭う、または死ぬ。それのもっと残虐バージョンだった。死ねなくなるという。深く考えなければ不老不死のようだが、不死だけ。老いる速度は変わらないし、聖獣が戒めを解くと死ねる。ヒジリが咎人として彼を指定することで、何度殺しても死ねないサンドバッグが出来上がるわけか。


 殺し放題だ。飽きるまで首や手足を斬り落とし、火炙りにして水責めに出来る。


「よし、それでいこう!」


『期間は数年か?』


「気が済むまで」


 誰の気が済むまでか。リア、オレ、シフェル達? 迷惑をかけた一般市民も殺したいだろうな。あのおっさん、あちこちで皇族の名を振り翳して傍若無人に振る舞ったらしいから。


『ふむ、ならば期間を無制限にしておくゆえ、主殿が終了を教えてくれればよい』


「決まり! すぐやっちゃって」


『何ともせっかちなことよ』


 文句のように呟きながらも、ぐるぐると喉はご機嫌に音を鳴らす。足下の影に消えた彼を見送り、オレは上機嫌でベッドに寝転がった。


「あっ!」


 叫んで身を起こす。勝手に決めちゃったけど、リアに相談してない。ウルスラやシフェルも交えて話しておいた方がいいか? 後で叱られるのも面倒だし。


 階段を降りると後片付けをした子ども達改め新兵が並び、真剣な顔でアミダクジをしていた。以前暇つぶしでノアに教えたから、彼が発案のようだ。


「何してんの?」


「あ、ボス。部屋割りです」


「敬語禁止」


 ぼそっと注意して覗き込んだ。部屋番号が書いた紙の上に、それぞれの名が記されている。


「これ、誰が書いたの?」


「僕、です……だ」


 無理に直さなくていいと笑った。ですだ、は狙ったのかと思う高得点だぞ。


 孤児院では文字を教えていた。日本で言うひらがなレベルの文字が書ければ、就職先が見つかるこの世界でこれだけ書けたら十分。ぐるりと見回して「他にも字が書ける子は?」と尋ねたらほとんどが手を上げた。自信なさげな子も数人いるが、得意不得意は仕方ない。


 元貴族のジャックは書けるが、ノア達に教えてもらうか。部下が書けるのに部隊長を任せる彼らが書けないのはカッコつかないだろ。うん、その辺は後でジャックに相談だ。


 レイルの組織はきちんと子どもの教育はしているらしく、計算もこなす子が多かった。戦いの方の実力は、毎朝の訓練で……あ。


「早朝訓練の話した?」


「簡単に」


 にやりと笑うライアンとサシャが怖い。絶対に簡単そうに話したんだろ。そんで明日大量の負傷者が出る未来が見える。


「あぁ、その……お手柔らかにな?」


 殺すなよ。遠回しに注意して、食堂の机の上に絆創膏もどきを大量に積んだ。これで足りるといいが。

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