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344.生き残るための戦略かな

 連れ帰った新兵の登録を済ませる。この辺の事務作業はじいやの得意技だった。名前や年齢を順番に聞き取り、表にまとめて提出書類を作る。オレにも出来るだろうが、手際の良さが大違いだった。


「さすがじいや。今夜は何食べたい?」


 今日はリアが一緒に夕食を取れない。基本的に皇帝陛下だから、政治的な意味合いの会食や打ち合わせも多いのだ。他国や上位貴族との会食なら、オレも参加できるけどね。正式な婚約者になったし、皇族の一員だから。今回は打ち合わせで、相手もシフェルやヴィヴィアンだった。オレは聞かない方がいいと思ったんだ。


 孤児院の視察時間が長引く可能性もあったし……ち、違うぞ。別に呼ばれなかったとかじゃないからな! うん、自分で言い訳して納得し、じいやのリクエストを待つ。日本人同士って、こういう時いいよね。知ってる料理名が出たら嬉しい。


「以前食べた黒酢炒めが、肉も柔らかく美味しかったです」


 にっこり笑うじいやに、任せろと胸を叩く。腕まくりして、厨房に入った。ここで新人が大量に手伝いに現れる。そこそこ広い厨房のはずなんだが、狭く感じた。数えると16人も来てる。


「人数多すぎるけど、基準は何?」


「「「今日負けた人です」」」


 びしっと敬礼するのはやめるように伝えた。毎回面倒だし、そんな立派な組織じゃない。現時点でオレと傭兵4人の少数部隊だ。まあ、全員二つ名持ちだったりするけど。


「この場で半数に減らす」


 さっと拳を握るの、やめいっ! 殴り合わずにジャンケンを教えて決めさせた。後でじいやに頼んで当番表を作ってもらおう。毎回ジャンケンはダメだ。偏るからな。負ける奴はいつも負けるんだよ。


 あっという間に半分になった。平和的な解決を終えた残りメンバーに、野菜と肉のカットを頼む。調味料はオレの収納の中だ。基本的にいつ野営になってもいいように、全部持ち歩くんだ。前に西の国に拉致られて遭難した経験から、ありとあらゆる財産を持ち歩くヤドカリのようになってしまった。一種のトラウマかも知れない。


 カットした肉を受け取り、ビニール袋魔法に黒酢を注いで揉み込む。真剣な顔で手順をメモしていた青年が、あんぐりと口を開いた。非常識魔法だからメモしても役に立たないぞ。


「そこは、ボールや鍋の中で黒酢をかけて揉むでいいと思う」


 しょげた彼が気の毒で、助言してしまった。大喜びでメモしている。ノアが後ろから数人を指さした。


「今の3人は筋がいいぞ」


 料理の? それとも戦いの? まあ班に分けて預ける予定だから、うまく采配してくれ。頷いてそう返すと、笑い出した。


「命を預ける部下に命を握らせる気か?」


「うん、どうせオレを殺せる奴はいないし。ノアが相手でも油断しないよ?」


 そこはおかんでも同じだ。ジャックやライアン、サシャも。オレはね、異世界ラノベは嫌というほど読んだ。教訓になることがひとつ、誰でも自分以外は裏切るってこと。この考えはレイルやジャック班の皆も同様だろう。勇者が魔王を倒したら、脅威とみなされて殺される話も知ってる。オレなんて、まさにそのポジションだった。


 竜殺しの英雄として華々しく現れ、王族や皇族を味方につけて地位を上げた。最後に落とされるとしたら、身内による裏切りだと思う。リアを守っていく上で、いくら用心しても足りない。聖獣は裏切れないし、リアが裏切るなら……大人しく死ぬつもりだった。


 だから彼らには隙を見せない。それがお互いに友好関係を貫く鍵だろ?


「キヨらしいな。それでいい」


 ノアは最後まで聞いてオレの頭を撫でた。甘っちょろいことを口にしたら、叱るつもりだったんだな。新しい連中が入ってきて、仲良しごっこを始めたら危険だと思ったんだろう。ほんと、おかんはおかんだ。


「コウコがいないと火の調整が面倒くさい」


 ぼやきながら野菜をチェックして、フライパンで炒めた。先に肉を入れるのが普通だが、黒酢の風味が飛んじゃうし、柔らかすぎる肉が溶ける。野菜を蒸す感じで、フライパンに蓋をして火を通す間にタレを作る。


 肉についてる黒酢は酸味が飛ぶし、後でとろみが付いたタレを絡めないとね。味噌を隠し味に入れて、手早く目分量で作る。プロっぽいだろ? 実は魔法で計量している。前回と同じ割合で作れるように開発した。魔法陣は描けないのでない。理屈としては、実家にあった米を量る機械だ。米櫃っぽい入れ物で、押すと1合ずつ出てくる。


 割合を事前に覚えてれば、一度作った料理の調味料はお手の物。便利グッズばかりの日本から来た知識チートをみよ! ちなみにじいやは本当の目分量が出来るらしい。現代でも本物のチートじゃん。


 大量に炊いた米をよそい、その脇に直接黒酢炒めを乗せる。給食式は初日なのでやめた。慣れてきてからだ。


「運んで」


 指示に従い、わっと料理が運ばれていく。個々に盛ったせいで皿がバケツリレー方式で送られた。指揮を執ってるのは、さきほど料理メモを取ってた青年だった。レイルの組織出身の子だ。


 料理が並びカトラリーを準備させる間に、すまし汁も作った。醤油を垂らして豆腐もどきを浮かべる簡単なお仕事だ。ちなみにこの世界の豆腐はデザート用で甘い。しっかりと水に浸けて糖分を抜く必要があるが……そこは魔法だ。戦場では間違えておからを大量生産したが、あの失敗のおかげでオレは成長した。


 ビニール袋魔法に入れた豆腐を一度凍らせる。水分が抜けたところで、真水に浸け直した。参考にしたのはアレだ、冷凍庫で凍らせたジュース。溶けるときに糖分が高いところから溶けて、最後が氷だけになるんだよ。あの原理を応用できないかと思って。


 昔バニラは不純物が少ないから、アイスの中で一番溶けにくいと聞いたけど、似たようなものかな? 


 甘いはずの豆腐が、汁物になった時点で傭兵4人はドン引きだった。子どもは甘い汁物と期待している。だがデザートは後だ! こないだの南の国で食べなかったキベリがまだ収納に入ってるからね。


「いただきます」


「「「「いただきます」」」」


 ジャック達が口を揃えたことで、子ども達は慌てて同じ言葉を繰り返す。意味は分かってないが、その辺はおかんノアとじいやが教えてくれそう。書類を片付けたじいやが加わり、ちゃんと挨拶してから手をつけた。


「う、うめぇ!!」


 レイルのところの子が叫んだと思ったらかっこんだ。その間に食べ終えたライアンとジャックが、自分で追加をよそってる。横目で見ながら、子ども達もご飯を流し込んだ。


 美味しいならゆっくり食べなさいよ、味わってさ。他人事のように思いながら、足元の聖獣達のご飯の減り具合を確認する。コウコには器ごと転送してもらった。影の中で悪いが、味わって欲しい。向こうでも何かもらって食べてそうな気がするけど。


『主ぃ、僕は今日頑張ったと思う』


 ご褒美が欲しいと言いながら、くにゃりと全身をくねらせる。青猫ににっこり笑い、ご褒美を渡した。口の中一杯に混ぜたご飯を流し込む。咳き込みながらも吐き出さずに食べ終えた。


『ひどいや!』


「どこが? ちゃんと褒美をやったろ」


 隣でスプーンを使って食べ終えたマロンが、両手を合わせ『ごちそうさま』と口にする。食べる量が少なくないか? 首を傾げると、こっそり耳に口を寄せて『ヒジリがね、肉以外は食べていいって。僕、嬉しかった』と教えてくれた。ヒジリ、貴様……黒酢が苦手だからって押し付けたな? それも体のいい言い訳つけて!!

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