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343.入隊試験? いいんじゃね

 すっかり自衛隊の訓練校みたいになった孤児院で、オレはがくりと肩を落とした。役に立たないよりいい。レイルの言い分も分かる。この世界は飛び道具の銃があるし、身を守れないと死ぬ。それも当たり前のルールだ。


「孤児って、こうもっと……」


 悲壮感溢れてて欲しいわけじゃないが、深刻な環境のような気がする。幸いにして、日本でのオレは親が揃ってた。もし片親だったら、引きこもる余裕なんてなかったと思うし。


「全部で187人、うち27人が本日卒院で、15人がキヨの直属部隊に配属予定だ。実力チェックしとくか?」


 レイルの頭の中には、孤児院の情報がすべて入っているらしい。すらすらと読み上げて、手招きした。孤児院もオーナーが来たので、先生方が子ども達を集めて並ばせた。おかげで注目されて面映い。


「模擬戦かな」


 レイルが提案した途端、ジャック達が一斉に声を上げた。


「こっちは本職だぞ」


「手加減が難しい」


「死んだらどうすんだ」


 相手にしたくないと遠回しに拒否された。気持ちは分かるけど、新兵の訓練は先輩の仕事だろ。


「ボーナスやったろ。つべこべ言わない!」


「くそ……そのための金か」


 唸るジャックに指を突きつけて命じる。


「やっておしまい!」


『主、悪役みたいだよぉ?』


 足元から青猫がひょこっと顔を出した瞬間、一部の女の子の目が輝いた。小さな子も期待の眼差しを向けている。


「よし、悪役らしく命じてやるよ。ブラウ、あそこで寝転がって腹出してろ」


『何それ……もしかして、僕を贄に?』


 にやりと笑って返答を避ける。生贄だよ、立派にモフられてこい。今日のブラウはそのくらいしか仕事がないからな。


 命令だともう一度口にしたら、仕方なさそうに転がった。あっという間に子どもが押し寄せて、耳や尻尾に容赦なく手を伸ばす。


『主殿、我は猫と違うぞ』


『私もほら、小さいですし』


 ヒジリとスノーが無理と訴えるのに頷く。だが意外な反応を見せたのはマロンだった。無言なのに、目を輝かせて子ども達を見ている。幼子姿なんだし、混じっても平気だろ。


「マロン、ブラウを助けてやってくれるか? 手伝いだ」


『はいっ! 僕出来ます』


 勢いよく子どもの群れに飛び込んだ。孤児は慣れているため、新しい子が増えても気にしない。あっという間に溶け込んでしまった。こういう風景も平和でいいな。


 彼らの服装や頬のコケ具合をしっかりチェックしていく。きちんと食事ができてるか。手足に不自然な痣があったり、動きがぎこちない子がいないか。微笑ましい光景を見ながらも、最低限の確認を済ませる。それから先生方について、部屋の状況を見せてもらった。大丈夫そうかな。


 年上の子は積極的に下の子の面倒を見ているようで、転んで泣いた子もすぐに助け起こされていた。絆創膏もどきも配布され、当たり前のように使っている。あれ、銃の傷にも使えるのに擦り傷に使うとか、よく考えたら贅沢だよな。


「キヨ、こっちだ」


 卒院予定の子を連れたレイルに促され、中庭のような場所に入った。訓練用のカカシがあるとか、どこの軍隊だよ。模擬戦をここでやるらしい。


「参加するか?」


「見てる」


 ジャック班4人と15人の子どもじゃ、ケンカにもならん。と思ったら、子ども側が追加された。もう少し年上の子らが10人……。


「うちの連中も一緒に、入隊試験だ」


 ちゃっかりしてるが、レイルが無駄にオレに押し付けてるとは思わなかった。ちらっと視線を向けた後、ジャックに声をかける。


「準備できたら始めて。基本は2発当てたら致命傷として終了、相手の血を流させたら負け」


 これはオレが決めた訓練のルールだが、子ども達は自分に言い聞かせる形で繰り返し頷く。さて、どのくらいの実力かな?


 オレがこの世界に来たばかりの頃、シフェル達との早朝訓練で使う予定だったペイント弾だ。当たると意外に痛く、真っ赤な色になる。ちなみにオレは最初から実弾だったので、使わずに保管していた。思わぬところで役立ったな。実戦さながらの緊張感が滲む中、レイルの弟子VS孤児院の子ども達の準備が進む。普通なら孤児院の子が不利だろう。


 なんたって、レイルの組織は幼い頃から最前線だからな。東のアーサー爺さんの屋敷に情報を届けに来たのも幼子だったし、当たり前のように子どもも情報を拾ってくる。孤児達もここに収容されるまでは、大人の目や手を掻い潜って生き抜いた猛者ばかり。さらに孤児院で訓練されちゃったみたいだし?


 小さい子達は巨大青猫に夢中だ。時折変な声が聞こえるが、巨大猫姿になったのはいい判断だよな。触れない子がいない。子どもは面倒と言いながら、意外と相性がいいんじゃないか。


「用意、始め!」


 レイルの声に従い、中庭で戦闘が始まる。魔法の使える子が混じっているらしく、レイル側は地面を凸凹にして隠れる場所を作った。孤児は手早く地面に爆薬を仕掛けて吹き飛ばし、塹壕を掘って伏せる。戦場の塹壕より浅いが、伏せてれば十分使えるサイズだった。


「なんで爆弾?」


「ああ、年長組だけ支給されてるぞ」


 おかしくね? ここ、孤児院だよね。親のいない子どもが身を寄せ合って、生き抜くための勉強や手に職を付ける……あれ? 間違ってない気がしてきた。生き残るのに必要な技術だし、それを活かして就職が決まったんだから。


「うちは魔法の得意なのが混じってるから、ちょうどいいハンデだ」


「いやいや、過剰戦力だろ」


 庭がボコボコだぞ? まあ、聖獣ヒジリに頼んだら元通りだが、今まではどうしてたんだよ。模擬戦用のペイント弾が入った銃を構え、撃つ。サバゲーみたいで、見てる分には楽しい。


 レイル側の子が被弾、直後に撃ち返され、ガッツポーズの孤児に当たる。戦場で拳握ってたら死ぬぞ。声援を送る孤児達をぐるりと見回し、元気で何よりと頷いた。声を張り上げて叫ぶ元気があるし、顔色もいい。仲間を応援する姿から、人間関係も大きなトラブルはなさそうだった。


 戦ってる連中に視線を戻すと、すでに半分くらいは死体になってた。被弾は2発まで、そこからは死体役だ。わかりやすいように武器から手を離して伏せるルールだった。弾が噛んだのか、すぐに捨てて死体役の銃を奪った子が足に被弾する。だが相手に纏めて2発撃って仕留めた。直後に転がって移動し、1発被弾した奴を死体にする。


 うん、いい動きだな。


「ストップ、ここで終わり!!」


 絶滅するまで戦う必要はない。勝敗をつけるための模擬戦じゃないし、実力は十分に見られた。にやにやしたジャックが「もう一戦行くか?」と鬼のような提案をする。このくらい動けるなら、自分達が相手を務めても大丈夫そうだと判断したらしい。現金な連中。


「訓練は明日以降ね。まだ入隊前だから」


 釘を刺しておかないと危ない。ノアがストッパーになると思うけどね。


「25人、全員連れていくよ! 明日から来る?」


 今日は仲間とのお別れもあるだろうと思って提案したら、キョトンとした顔をされた。こちらも首を傾げてしまう。


「隊長、ここを直したらすぐ向かいます」


「隊長?」


「じゃあ、ボス?」


「ボス……」


 繰り返しながら振り返ると、レイルが口を押さえて笑いを隠していた。肩がめちゃくちゃ揺れてるけどな? 声がちょっと漏れてるけどね。何を余計な教育してるのさ!


「レイルはしばらくタダ働き決定」


 指示を待ってる子ども達を連れて帰ることになり、オレの孤児院視察は終わった。あっという間に荷物を入れたバッグを背負い整列する孤児の、行き届きすぎた躾に驚きながら、魔法で中庭を平らにする。内側が妙な手応えだが、何度も魔法で動かしてるんだろう。


 ぞろぞろと遠足のように歩きながら、ふと気付いた。あれ? 今日って視察だけじゃなかったの?

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