335.余計な一言が命取り
大量の結界を重ねて、次々と破られるたびに追加していく。防衛手段が確保できたので、その間に銃を収納から取り出して準備を始めた。ライフルはライアンからの預かり物だから使わないようにして、あ、このナイフはジャックのだ。ぶつぶつ言いながら武器を分けて、不要な物をまた収納へ戻す。
「これで行こう!」
レイルに昔もらったナイフを腰のベルトに差し、使い慣れた銃を手の中でバラして組み立て直す。呆れ顔のシフェルが横にどかっと座った。折角の騎士服が汚れるぞ。
「なに?」
「いえ。相変わらず非常識な人だと思っただけです」
上で聖獣達が順番通りに攻撃を開始したので、こちらへの攻撃が格段に減った。魔力が尽きる心配はないから、結界を張り続けるのはいいけど。作業中にパリンパリン音がすると、やっぱり気が散るよな。
『食らえっ! 真空の太刀!』
ブラウか。続くヒジリは無言で重力を操り、トップを叩き落とそうとする。
「なんの! 唸れ我が魂の叫びよ」
いや、魂の叫びが唸ったらおかしいだろ。厨二のセリフは気をつけないと、馬から落ちて落馬するからな。重複には注意してもらいたい。
『輝け、氷の矢よ』
うーん、スノーは30点。
『えいっ、炎の螺旋』
微妙だな、45点くらいか。スノーとコウコの攻撃のネーミングを採点する。手元の銃に銃弾を装填し終えた。
「なんの! 世界の正当なる主人の元へ集え、眼前の敵を貫け! メテオ!」
厨二度65点だけど、呪文はマイナス点だな。正当なる主人じゃねえから。
「キヨ、あれは倒した方が良さそうですね」
「まあね。取り込めたらと思ったけど、捕らえて矯正しないとダメみたいだ」
「まだ余裕はありますか?」
暴走の心配をされている。魔力を使い過ぎての暴走はないので、ひとまず頷いた。
「じゃあ、行ってくるな」
ちょっとそこまで。そんな挨拶をしてシフェルを置いて立ち上がる。服についた埃を払い、銃を構えた。聖獣達と戯れてるとこ悪いが、ジ・エンドだ。カッコつけてトリガーを引いた。
パン! 軽い音でトップの右肩を撃ち抜く。ぱっと赤い血が散って、彼は銃弾を防ぐ結界が使えないのかと眉を寄せた。異世界人の特権だと思ったが。でもパウラは出来ないと言ってたか。
日本人会のメンバーは、魔法は使えても大して強くない。だが厨二のタクヤとトップはそこそこ戦える能力があった。違いはわからないが、もしかしてカミサマが呼んだとしたら、オレはやり過ぎたかな?
ストッパーとして送り込まれたなら、返り討ちにするのが正義の味方だよな! うん、やっつけよう。この世界の改革を望んで送り込んだくせに、その結果が気に入らないと敵を送り込むなんざ、どこの魔王だっての!
「ひ、卑怯だぞっ!」
「右腕が疼いちゃったもんで」
にやりと笑って右手の銃を揺らす。睨みつけるトップが、魔力を高めていくのがわかる。目の前で膨らむ魔力は、この世界なら上位に入れる実力だった。だが、聖獣コンプリートマスターには通用しない。
「その程度か?」
一度言ってみたかったセリフだ。正義の味方がまだ弱い頃、悪役のお偉いさんに言われて屈辱を感じる場面。あれ、結構好きだったんだよ。言われたくないが、言ってみたいセリフだ。ある意味、夢が叶った。
「うるせぇ、俺が得るべき物を奪ったくせに! お前の女も聖獣も全部奪い取ってやるからな!!」
オレの女? リアのことか? いま、物扱いした? かっと怒りが湧いて視界を赤く染める。今、なんて言った? お前、許さないからな。
銀に近い淡い金髪がゆらりと持ち上がる。髪を縛る紐が切れた。オレの理性の緒さながら、千切れて魔力に消しとばされる。
「今、なんて? オレのリアに手を出すって言った?」
『僕らはいいの?』
小声で茶化すブラウは無視だ。聖獣は奪われても奪い返す。でもリアは最初から奪わせる選択肢がないんだよ。じわじわと熱が上がっていくのがわかった。手足の先まで血液と一緒に魔力が巡るのが伝わる。紫のはずの瞳は、きっと赤みを帯びているだろう。
「キヨ、落ち着きなさい」
「あん? 倒してからでいいだろ」
まだ理性が完全に飛んだわけじゃない。シフェルの忠告に答える余裕があった。ただ苛立ちと怒りが頭を満たし、腹が立ちすぎてムカつく。
リアが歩んできた道を知らないから好きに言える。ただの可愛い女の子じゃない。リアが女の子として過ごすためにしてきた苦労も、オレが必死に戦ったこの世界での生活も、この野郎はただ羨ましいって一言で貶した。
向こうは事情を知らない? そんなの、オレの知ったことか。向こうだって何も知らないくせに、まるで戦利品のようにリアを扱った。いきなり戦場に落とされ、必死で生き残り、銃弾を受けて転げ回ったこともある。首を絞められ死にかけたり、誘拐されて崖から落ちたり……それをアイツは一言で片付けたんだ。
ゲームじゃないぞ。この世界で生きてきたんだ。異世界から来たチートはあるさ、でも動いて掴んだのはオレだ。後から来たってだけで、奪えると思うなよ!
呪文なんて要らない。厨二な言葉遊びも意味をなさない。赤瞳の竜が望めば、それが答えだった。
「オレは苦労せず、楽をしてチート生活をしてきたわけじゃない。何も知らないくせに、成果だけ奪うって? オレの大切な恋人も?」
何やら喚いて言い訳じみたことを口にしてるが、血が上った頭は理解しないし、耳は聞こえない。ぐわんぐわんと音が反響するだけだ。ヒジリの指揮で、聖獣全員が距離を置いた。正解だ、巻き添えにしない自信はなかった。
「そんなに異世界が好きなら、飛ばしてやるよ」
血が沸き立つ。なんでも出来る。高まりすぎた魔力が可視化されて、ゆらゆらと空気を焼いていた。近寄ろうとして吹き飛ばされたシフェルを横目に、一応結界で保護しておく。死なせると後が面倒だ。
指先でトップを指差し、下へ叩き落とす。指先の仕草だけで簡単に重力を操った。これはヒジリの持つ力の一端だ。風も氷も悪くないが、オレの性格的に一番合うんだよな。
手のひらを上に向けると炎が燃え盛る。核も燃料もなしに燃える炎を、地上を転げ回るトップに向ける。命じることもなく、視線で促すだけで足りた。
「ぐぁあああ!」
叫ぶ声に口角が持ち上がった。なんでも出来る万能感と、圧倒的な力に酔う。力とは存在するだけで人を高揚させる。このまま燃やすか? いや、切り刻んでもいい。溶けない氷の柱に飾ってやろうか。
『そこまでだよ』
真っ白な空間で、オレは舌打ちした。またか。カミサマと名乗る元の世界の万能者だ。何度オレの邪魔をすれば気が済む?
『ごめんねぇ、あの子は間違えちゃったんだよ。責任持って僕が回収するから落ち着いて』
「嫌だ」
『もう一人の、自称タクヤ君もセットで処理するからさ。君とこんなに相性悪いと思わなかったんだよね』
少年姿でこてりと首を傾げ、あざとい所作で媚びるような言葉を使う。この世界の管理者に頼まれて送り込んだ人間同士が、こうして衝突することは稀にあるらしい。言い訳をしながら、火だるまになったトップを水で包んだ。パチンと指を鳴らすと消えてしまう。もうひとつ指を鳴らし、カミサマは笑った。
『もうこの世界に邪魔者はいない。残りを楽しんでよ』
「待て!」
好き勝手に振る舞った挙句、そのまま帰る気か!? 慌てて手を伸ばすが遅かった。オレはまた世界に向けて落ちていく。だから、落下は嫌いだって言っただろ!!
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