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326.拷問や処刑方法が中世?

 中世魔女狩りか? と疑うような処刑が続く中、ギロチンがないことに素朴な疑問を覚える。水責めも火炙りもあるのに。でもギロチンは時代が少し後か?? マリー・アントワネットのイメージが強いんだよな、あれ。


 臭いをカットしたら、かなり快適になった内側で、ヒジリは昼寝を始めた。


「ヒジリはのんびりしてるな」


『主殿、北の国の処刑は優しい方ぞ。中央の処刑はもっと残虐だ』


 え? 可愛いリアのお膝元はさらに物騒って意味?


『僕の西の国は、生きたまま獣に食わせるとか、普通だよ』


 普通じゃねえよ、なにそれ怖い。ローマのコロッセオか!? ライオンとかと戦わせる……いや食わせるだけかも。処刑だからな。


『南はそんなに野蛮じゃありません。馬で引き摺ってボロ雑巾みたいにする程度ですから』


 十分やべえよ。野蛮だろ。照れる場面じゃないぞ、マロン。聖獣が金の角がある馬だから、処刑も馬なのか?


『東の国はその点において実に平和です。僕が知る限り、手足を切って壺に漬けるくらいでしたよ? あと、両手両足を縛って吊るして数日放置も見ましたね』


 スノーは、くしくしと猫のように前足で顔を洗いながら呟く。本心から大したことないと思っているらしい。聖獣達はそもそも人間に関わらなかった。だから他人事、いわゆるテレビの向こう側の出来事らしい。


 平和とは何か……哲学に目覚めそうだ。そもそもおろし金をオレが開発したことで、今後の北の国の処刑は擦り下ろしが標準になる可能性大だった。オレの精神が擦り下ろされそう。


「全部こぇえ」


 銃殺や絞殺はないんですかね? これだけ戦争で銃を使ってるのに、銃殺刑みたいな綺麗な殺し方は……あれ、オレの感覚がおかしい。処刑に綺麗も汚いもないわ。うん、感覚が麻痺したかも。


 王家に詐欺を働いた高利貸し貴族御一行の処罰が、財産の差し押さえや爵位の剥奪で済んだのは軽い方か。


「なにを言ってる? ひとまず爵位と財産の徴収をして、後から極刑に決まってるだろ。最高権力者を騙して、国税を無駄に消費させたんだからな。回収程度で済むわけがない」


 オレの呟きを聞いたレイルの断言に、聖獣も王族も揃って頷く。そうか、オレは甘いのか。この辺の感覚、日本人のままだと辛いよな。オレみたく、すぐに現地に馴染める奴以外を転移させない方が良さそうだぞ、カミサマ。精神崩壊する奴でそう。


 擦り下ろしたり、手足を切り落とされ達磨にされたりと忙しい現場を横目に、王族は休憩を始めた。この間に席を立つのはトイレくらいしか許されないが、お茶を飲んだり軽食は問題ないようだ。


 血生臭い現場でよく飯なんか食えるな、吐くぞ。そう思ったのは最初の2時間だけ。徐々に腹が減ったと感じ、喉が渇いてお茶を飲み干し、気づいたら坦々麺に似た辛い汁無し麺を食べていた。


「これ美味い!」


「今日は屋台が出ているからな、雰囲気だけでもと料理長に命じておいた」


 シンが嬉しそうなので、どうやら彼の手配らしい。確かに食べ物や飲み物片手の群衆は、どこかで購入している。同じ皿やカップを利用していた。


「屋台見たいなぁ」


 媚を売るオレに、ヴィオラが鼻を押さえる。シンは優しい笑みを浮かべて、オレの頭を撫でた。


「残念だが、王族はこの場を離れられない。諦めてくれ」


「オレ、皇族だけど」


 もう養子に出た、中央の国の子――目を輝かせてそう口にしたら、王族が3人揃って泣いてしまった。


「ごめん、もう言わないから」


 肩を竦めたレイルに「だーいすき、と言って頬にキスして歩けば機嫌が直るぞ」と吹き込まれ、その通りにしたら機嫌が良くなったのは……どうかと思う。


 処刑はさくさく進み、夕暮れに赤く染められた……いや、元から真っ赤な処刑場を眺める。ここ、明日は鍛錬で使うんだよな? 掃除は誰がやるんだろう。処刑人や下働き? でも誰かの股間のイチモツの肉を片付けるのって、残骸でも嫌じゃね?


「終わったぞ。これで全員処理した」


 ハオ陛下、お義父様よ。そこはもう少し包んで「全員処刑した」というべきだろう。ようやっと処理が終わった的な発言は……おっと国民の受けは上々だった。歓声が上がる中、手を振りながら退場である。


 王宮に続く廊下の入り口で立ち止まり、ぱちんと指を鳴らす。浄化をイメージ、アンデッドを消したゲームの映像を思い浮かべた。ごそっと持っていかれた魔力だが、ふらつく程じゃない。完全に消し去った。


 赤い血、散らかった臓物や肉片。すべてが消えて、綺麗に元通りの鍛錬場だ。驚いた顔をする家族を促しながら、足を踏み出す。


「終わった終わった、さて……夕食は何かな?」


「血の滴るステーキにしてもらったらどうだ?」


 笑うレイルの茶化しに「レイルも食べるんだぞ」と返したら、嫌そうな顔をされた。げらげら笑いながら、シンやヴィオラと手を繋ぐ。寂しそうなハオは、食事中に膝に乗ることで納得してもらった。


 日本で、別に家族に蔑ろにされて育った経緯はない。オレが引きこもるまで、ごく普通の中流家庭だった。家族の平穏な日常を崩したのはオレで、きっと死んだ後も迷惑を掛けただろう。悪い事をした……素直にそう思った。もう声は届かないけど、ごめんなさい。


 顔を上げると、オレに甘い家族や従兄弟がいる。義理だけど、それ以上の愛情を貰っていた。今度はきちんと愛情を返せるようになりたい。


 ヒジリが頬擦りしながら、足の間に首を突っ込もうとする。素直に足の間に首を入れたら、強引に首で持ち上げて背中に乗せられた。なんだ? ヤキモチかよ。大人しく揺られるオレの背にスノーが飛びつき、肩によじ登る。抱っこしろとせがむマロンを前に座らせ、両手は再びシンとヴィオラに握られた。


 ゆらゆらと心地よい黒豹の背中に跨がり、一仕事終えた今日の終わりを思う。朝から騒がしくて、裁判はそれなりにこなし、処刑で午後が潰れた。おやつのプディングは美味しかったけど、いつか杏仁豆腐もどきが食べたい。作り方を知ってる日本人がいないか、確認しなくちゃな。


 幸せを噛み締めるオレを往復ビンタするように、不幸は突然訪れる。


「大変だ! キヨ、皇帝陛下が襲われた」


 ピアスに入った連絡に青ざめるレイルの言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になる。早く駆けつけなくちゃ、それだけが駆け巡り、転移を使った。魔法陣なんてどうでもいい。座標はリアのすぐ近く、どこでもいいから誰かにぶつからない場所。


 ぱっと消えたオレは、手に触れていたシンとヴィオラも連れていた。宮廷の廊下だ。見慣れた扉はリアの私室だった。護衛の騎士が剣の柄を握るも、オレの顔を見て息を飲んだ。手を離してぎこちなく一礼する。


「リアは? この中? そうだよね」


 捲し立てるオレに何か言おうとした騎士を無視して、扉に手を当てた。中から鍵? 


「キヨ、落ち着け」


「そうよ、婚約者であっても勝手に部屋に入るなんていけないわ」


 シンとヴィオラの声は遠く、水の中で外の音を聞くような感覚だった。血が沸き立つような興奮状態で触れた扉は、オレをすんなり通してくれる。するりと扉を抜けた。


『主人?! 嘘、どうやって』


 騒ぐコウコが足に絡みつくが、無視して先を急いだ。ベッドの脇には見慣れた侍女と、診察中の医師らしき女性。そして……横たわるリアの顔を見た瞬間、オレは膝から崩れ落ちた。

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