325.女性王族って怖え!!
「この悪魔めっ! 私は拷問には屈せぬぞ」
釣られて何か騒いでるハーレム侯爵を無視し、オレは義理家族へ一礼。パチンと指を鳴らしてゴーサインを出した。拷問じゃなくて処刑だから。
クレーンゲームさながらの端末も作った。あれだ、リモコンってやつ。手元にスティック付きの操作パネルを用意し、にやりと笑う。
『主ぃ、僕はお手伝いがしたい』
「好きなだけ重石をかけていいぞ」
きらきらした目で走っていくブラウは青猫だが、帰ってくる時は真っ赤に染まってそうだ。そういや北の国はコウコの赤がイメージカラーだったな。これからは血の意味で、赤がトレードマークになるかも。他国からも見物人が来ちゃってるし。見覚えのあるジャック父、西の国で見かけた騎士もいる。
斜めに壁により掛けて設置されたおろし金を、魔法で固定する。石をぼこっと出っ張らせて壁に固定し、下は大きな岩が迫り出す形で止めた。これで擦りおろし中に動く心配はない。
「ヤリチンのハーレム侯爵の処刑を」
「ハールス侯爵、な?」
レイルのツッコミが入ったので、仕方なく訂正してお詫びする。
「ええ、ヤリチンのぉハールス? 元侯爵のヤリチンを削ります! いっちゃって!!」
『えいっ』
クレーンゲームはそこそこ上手いほうだ。まず横移動、それから奥行きを調整して……ストップ! 降りる部分はゲームだと自動だが、今回は聖獣直々の裁きなので……重石は青猫だった。巨大化した青猫がずっしりと上に乗る。
「香箱座りだ」
お座りじゃなかった。しっかり体重を掛けにきた青猫のおかげで、ぐんぐん下がっていく。まだ高価な服を纏ったおっさんは、じょりっと一回目の擦りを終えた。服がかなり削がれ、裸体が出ているが……腹も出ている。
矯正下着みたいなので補正してやがったな? こんなとこで詐欺容疑発覚だ。二度目のじょりっ! これで服は全て削がれた。ヤリチンは縮こまったのか、姿が見えない。まあ見えてもやだけど。
「うわぁ!! 極悪非道の鬼畜野郎がぁあああ!」
「褒め言葉をありがとう」
この世界にいない鬼やら悪魔の表現は、翻訳で聞こえるだけで実際は違う単語だろう。つまり自動翻訳バグだ。感謝の褒め言葉か、改心したと許しを乞う言葉に違いない。にっこりと盛大な誤解をわざと展開する。
じょり……ああ、大事なところが大変なことに。
「ぐぁあああああ!」
自分で用意しておいて何だが、股間がめっちゃ痛い。気のせいじゃなくて、縮こまって痛い。四回目を躊躇うオレの視界で、男性は一斉に股間を隠していた。手だったり人の後ろに隠れたりと方法は様々だが、想像した痛みに男達が青ざめていた。
おっさんの悲鳴だか苦鳴だかも、恐怖に拍車をかけた。どうしよう。困惑しながら視線を向けると、ヴィオラを筆頭に女性達は興奮状態だった。
「やっちゃえ!!」
「強姦魔、死ね」
「もっといけ!」
「もぎ取れ!」
恐ろしい単語と掛け声が飛び交う。一応クレーンを上にあげたところで、姉ヴィオラが駆け寄った。
「キヨ、私にやらせなさい!」
「えっと、ヴィオラお姉様……こういうの、好き?」
「強姦魔やヤリチンに人権はないわ。成敗してくれる! これも女性王族の務めよ」
女性王族、こえええ!!! 絶対に逆らわないぞ。まじ怖え。リモコンを奪う義姉を、震えながら見送った。
その後も震えながらレイルにしがみ付き、王族席のシンのところまで後退した。こえぇ、マジで削ったし。粗末だとか罵られながら、容赦なく血溜まりが出来た。歴戦の傭兵や騎士が顔を背ける事態に発展したらしい。意外と女性達は平然としており、拳を突き上げて勝利宣言をする者までいる。
「女性不信になりそう」
「あれが皇帝陛下でもダメか?」
レイルがヴィオラを示す。あの位置で勝利宣言を上げるのがリアだったら?
「あ、それは全然平気。リアだったら、どんなリアでも愛せる」
「ご馳走様」
震えも止まったし、なんなら股間の幻痛も治った気がする。ヴィオラは宣言通り、ヤリチンを処理すると戻ってきた。本体は手当てをしてから、王都の外へ捨てるそうだ。中途半端な位置だと思ったら、ちゃんと理由があった。
まず、王都の内部を汚さないため。次に遺族や被害者が追いつける距離。手の届く場所に放置するから、刻んでも潰してもいいよ。でも王都の内側ではやめてね。という意訳だろう。オレがいた日本と違うのは理解していたが、戦争してたくらいだし……一般市民も意外と逞しいようだ。
罪人に関しては、江戸時代くらいの残虐さが残っている。おろし金を考えたオレが言うのもどうかと思うが、磔獄門やら、一族郎党首を刎ねよ! くらいは実際の刑罰で存在してた。火炙りはマジで怖い。
「王家に逆らった連中の中で、さらに罪が発覚した奴は火炙りだとさ」
レイルが詳細に説明してくれた。つまりアホ子爵や憎らしい伯爵は、火炙りから始まる。さらに罪が重なると、牛を使った八つ裂きだとか。拷問に近くないか? それ。
この世界の住人は属性別で魔力が強かったり、肉体的に強化されている。そのため確実に殺す方法が、処刑に取り入れられた。様々な異世界人の知識の結集だったら嫌だな。オレのおろし金も、いずれ処刑道具として量産されたりして……大丈夫、浮気や強姦をしなければ対象外のはず。
続いて別の処罰が始まるらしく、ヒートした観客が野次を飛ばす。高利貸しをして民を苦しめた元侯爵閣下が引きずられて登場し、金属製の十字架に拘束された。といっても、この世界に宗教自体はない。当然キリスト教も持ち込まれていなかった。
十字架は単に、両手を広げて両足も縛り付け、さらに顔を下げないよう縛り付けるとしたら合理的な形のようだ。Yでもよくね? と聞いたら、顔を下げるからダメらしい。シンが言うには、罪人の苦しむ顔が見えないと、意味がないのだとか。確かに家族を殺された遺族にしたら、苦しんで死ね! と思うよな。
処刑人のおっさんは手際よく元侯爵の金貸を縛り付け、喚き散らす男の足下に薪を積んでいく。十字架の下部分がわりと短いので、薪を元侯爵の足に巻き付けた。準備が終わると火をつける。
何とも言えない悪臭が立ち込め、絶叫して身を捩る元侯爵の姿に、すすり泣きや仇を討ったと叫ぶ声が重なった。民の鬱憤晴らしと、確実に処刑した証拠を残す意味で、公開処刑が一般的だ。王族は立ち合いを求められるが、シンは何度見ても気分が悪いと溜め息を吐いた。
よくだな、オレは溜め息なんて吐いて臭いを吸い込むのは嫌だから、鼻を摘んで呼吸を出来るだけ減らして……あ、結界。こんな時のための結界だ!!
王族席の義理の家族とレイルを合わせ、結界を張った。臭いを完全遮断で、中の空気を換気する機能付き。かなり臭いは緩和されたが、服や髪に悪臭が残っていた。浄化で消して、ほっと安堵の息を吐く。
「キヨ、この結界はすごいな。魔法陣を売ってくれ」
「売りたいけど、作り方が分からない」
今後も使えるとシンが喜ぶものの、イメージだけで魔法や結界を使うオレに、魔法陣が描けると思うか? 無理だ、絶対に無理だから。




