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317.家族の肖像……重っ

 一緒に風呂に入りたいと言われて、躊躇う気持ちが理解できるか? まず義父は血の繋がりがなく、この世界にはB Lがある。オレの尻、危険じゃね? まあ生物核兵器みたいな赤瞳の竜を襲うほど、馬鹿じゃないと思うけど。


 理由を尋ねたら、想像より重かった。聞かなきゃよかった類だ。


「息子シンが小さい頃は、忙しかった。弟の反逆の兆しに周囲はピリピリするし、跡を継いだばかりで何もわからなかった。次に生まれたヴィオラもそうだ。幼い可愛い時期を一緒に過ごしてやれなかったせいか、今でも距離を感じる」


 しみじみと嘆かれて、いろいろ秤に掛けてみる。聖獣も入るならいいか。マロンを連れて、義父ハオと風呂に向かう。スノーは熱いお湯は苦手だとベッドに転がり、ヒジリも猫科猛獣なので入浴を拒否した。ちらっと足元から顔を出した青猫は、目が合うと笑った。こええよ!


『僕、温泉に入れる猫を目指してる』


「じゃあついてこい」


 拒否する理由もないので、クネクネと付いてくる青猫にお湯をかけてシャンプーで洗った。体を洗う石鹸より、髪を洗うシャンプーだろ。だって毛だらけだし。大人しく洗われたブラウの横で、マロンが正座して待っている。可愛いな。


「こういう一家団欒がしたかった」


「話が重いよ。というか、ある程度成長してからでも、誘えば良かったじゃん。温泉だったら椿旅館とかあったし」


 温泉なら、ヴィオラはともかくシンが付き合ってくれたんじゃないか? そう尋ねると、首を横に振られた。


「金がない上、国王と王太子が同じ場所に逗留するのは無理がある」


 国防的な面から、襲撃されて同時に殺されたら困るってこと? それはどうしようもない。今ならオレみたいなチートがいるから可能だが、当時は無理だった。それに国内の貴族がきな臭い動きしてるのに、国を離れたら乗っ取られそうだし。その場合、残ったヴィオラが監禁される可能性もあった。血筋を残す、なんて口にしながら孕ませれば、傀儡の次期国王様が手中に収まるって寸法だ。


 胸糞悪い考えほど、貴族の場合は現実になる。それはどのラノベやゲームでも証明されてきた。この世界だって基本的に、日本人の想像よりマシなだけで善良さはない。


「明日の裁判あるし、終わったらシンと風呂に入ろうよ」


 手に入らない過去を惜しんでも仕方ない。新しく手に入るもので我慢しろ。乱暴な理屈なのに、義父は頬を緩ませた。見た目仲良さそうな家族でも、やっぱり中に入れば色々複雑なんだな。


「明日の裁判だが、準備は整えさせた」


「ありがと。レイルと一緒に楽しむよ」


 赤毛の親友の名が出た途端、ハオは神妙な声で尋ねる。その手は優しくオレの髪を泡立てながら。


「レイルは、お前に優しいか?」


「ん? ちょっと意地悪で年の近い兄って感じ。共犯者でもいいな。なんで?」


「あの子のことを何も知らないのだ。恥ずかしいことだが……弟の子という以外、ほとんど知らん」


 本当に不器用な父親だ。レイルの境遇は自分の責任だと引け目を感じて距離を置き、それを敏感に察したレイルも近づかない。何とも悪循環を絵に描いたような状況だ。


「わかった。明日の風呂はレイルも一緒にぶっこむ!」


 この際裸の付き合いで、多少打ち解けろよ。ヴィオラは……さすがに誘えないか。リアにバレたら怖いし。


『ご主人様、僕も髪を洗いたいです』


「お? おお。洗ってやるぞ」


 そうじゃないとか何か言ってるマロンの髪をシャンプーで洗い、ざばっと流した。


『僕はっ! ご主人様の髪を洗いたかったんです!!』


「次にしてくれ」


 すでにのぼせかけてる。湯船には短い時間だけ浸かり、残りの時間は足を冷水に浸して過ごした。裸で抱っこされてベッドに運ばれるとか、変なフラグはへし折るに限る。


 横になって、ごく普通に就寝した――ごめんなさい、嘘ついた。キングサイズのベッド上は、ひと騒動起きたのだ。


 義父ハオが横になり、腕枕でオレが横に……となるはずが、間にマロンが入り込んだ。見た目が小型版オレなので、ハオは機嫌よくマロンを抱き込む。グッジョブ、マロン。おかげでオレが助かった。そこへヒジリがのそりと現れ、オレの空いてる右側に陣取る。ここまでは良かった。


 スノーがじたばたしながらも枕元に落ち着き、丸くなったところをブラウに邪魔される。怒ってケンカになり、真下でオレの顔を踏んづけた。肉球だったので、踏んだのはブラウだろう。普通猫サイズじゃなかったら、オレの美しく作ってもらったお顔が崩れるところだぞ!! カミサマによる究極の美容整形作品なんだからな!?


 ブラウを殴って大人しくさせ、スノーは枕の端に落ち着かせた。尻尾の先をどうしても触れていたいと願うので、それも許可する。これで完璧だ。そう思った翌朝、オレの両足が微妙に広げられ、膝のあたりで丸まる青猫が挟まっていた。


 それ以上の悪戯をしてたら鉄拳制裁だが、このくらいは実家の猫もやってた。仕方ないと溜め息を吐いてから身を起こし、手招きしてブラウを膝に乗せる。羨ましがるスノーが膝によじ登り、マロンが腕に抱きついた。のしっと背中に体を預ける黒豹……あ、無理。


 潰れそうになったオレを救出したハオは、朝から爽やかな笑顔を向けてくる。


「聖獣殿に好かれて、キヨは幸せだな。さて、今日は裁判を楽しむのだろう? どの衣装が良いか」


 嬉しそうに手を叩いて、支度の侍従を呼び、大量の衣装を並べた。次々と運ばれる分を無視して、銀の刺繍が入った黒い絹の民族衣装を選ぶ。


「これがいい」


「ふむ、帯は赤か青、いやくすんだ黄色でもいいか」


 唸りながら検討する義父に任せて、さっさと顔を洗って着せつけてもらった。最終的に帯の色はオレが青を指さして決めた。気づいた? これ、リアの髪色を纏って、瞳の色を帯にしたんだよ。


「おはよう、キヨ。そして父上」


 親の寝室に入ってきて、挨拶の順番がおかしいぞ。シンを睨むと、目の下に隈が薄く浮かんでいた。どうやら昨夜はちゃんと反省したらしい。仕方ない、ここらで許してやるか。


「おはよう、シン兄様」


 きらっと目を輝かせてわかりやすく喜ぶ義兄と、ご機嫌の義父に手を引かれて食堂へ向かう。後ろから見ていたブラウが、ゆらりと尻尾を振って首を傾げた。


『ほら、あの……捕まった宇宙人みたい』


 お前の異世界知識は深いな。もしかして何かのアニメに出てたか? 顔だけ振り返るも、そのまま連行されるオレは食堂でヴィオラの大歓迎を受けて、あり得ない量の朝食を頬張ることになった。


 豪華すぎる料理を、聖獣用の皿に乗せる。匂った後、彼らは先に口をつけた。別に毒見じゃないぞ。いつもの作業を続けるオレの前に差し出される花巻を齧り、レンゲで掬った料理を流し込まれた。


「自分で食べられるっ!」


 聖獣の準備が終わって立ち上がったが、レンゲや箸で料理を差し出す一家の圧力に負け、大人しく口を開いて食べさせてもらった。こんなの、日本での記憶にもないっての。


「キヨが大きくなったら出来ないからな」


「そうだ、今だけの限定だ」


 口々に言われてしまえば、逆らうのも大人げない。それに日本で落ちこぼれたオレは、家で邪魔者だった。こういう団欒、懐かしいな。擽ったい気分だが、甘やかされることにした。

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