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304.奇跡のマヨネーズ

 この子、誰? 戻ってきたオレは盛大に首を傾げ、帰還したばかりの傭兵達は顔を見合わせた。つまり誰も知らない子が紛れ込んだのだ。男の子の服を着てるが、多分女の子だろう。年齢は10歳前後か?


「えっと、どこから来たの」


「北の国」


 ぽつりと返された言葉に青ざめた。やばい、転移魔法陣に紛れたらしい。人数確認しないで飛ばしたから、入り込んだ子供を拉致した形だ。慌ててレイルに連絡を取るが、こういう時に限って出ない。携帯電話と一緒で、通じるはずの相手が出ないと「携帯なんだから携帯してろよ!」と悪態つきたくなる。


「レイルに話して、明日の王族お迎えの際に帰すしかないよな」


 連絡が取れないのに連れて行って、誰もいない場所に放置するわけにいかない。未成年だし。いや、今のオレの姿も未成年だけどな。どこかのアニメ探偵みたいに、中身は大人なんだから。放り出すのは間違ってると思う。


「よし、今日は泊めてやるから一緒に飯食おう」


 鮮やかな赤い髪と緑の瞳の少女は、素直に頷いた。泣き喚いたりされなくてよかった。お母さんと泣かれたら、本気で困る。


「キヨ様、調理場は危険ですので、こちらでお預かりしましょう」


 じいやの申し出は有難い。料理中は魔法の風刃やコウコの炎が飛び交う戦場だから、ケガするかも知れん。この宮殿に勤める侍女の中には、旅館の元女中さんもいる。問題ないだろう。少女を置いて調理の準備に取り掛かった。


「ボス、手伝うからカレーとやらを食わせてくれ」


「是非、俺らも食べてみたいっす」


 ジークムンド班の人数を思い浮かべながら、スパイスの量を計算していく。45人だっけ? そこに侍女とリアム達……あ、ジャック達もまた食べそうだし。聖獣も入れて。数えるのが面倒だから、200人分くらい煮るか。カレーってさ、大人数の時こそ便利な食べ物だったのに、人の3〜4倍食べる連中相手だとキリがない。


 たくさん食べてね、と笑顔で言うほど達観してないからな。ここからが戦場だ。ブラウに野菜カットを命じ、マロンとスパイス計量を始める。前回、多めにすり潰しておいて正解だった。ここで今回のチャレンジは青いトマトだ。オレの記憶では、カレーにトマトが入ってた時、やや酸味があり甘かった気がする。


 林檎と蜂蜜は、一応話題作りのために鍋2つほど作ることにした。リアムが気に入ってるからね。トマト入りを2つ、残りは全て辛口だ。近いうちに時間を作って、トミ婆さんに甘口カレーのレシピを伝授してもらおう。あとカレーの販売権の話も煮詰めないと。


 シャモジで鍋をかき回しながら、煮えた野菜の状況を確認する。今回は材料を快く譲ってくれた厨房のおかげで、ヒジリも狩猟せずに済んだ。いつも大量の兎をありがとうよ、助かってる。撫でてやり、果物を収穫したスノーも褒めた。結構、料理以外の場所でも忙しい。


 スパイスの投入量はマロンが知っているので、ノア達に指示してもらった。


『僕、でいいんですか?』


「マロンは出来る子だからな」


 能力を疑ってないし信じてるぞ。穏やかに微笑みながら、丸投げだ。大急ぎでサラダを用意した。大量に紫のレタスやら赤い葉を千切るだけなので、ブラウと競争した。風魔法のお陰で細かく千切れたが……やりすぎたらしい。粉々だった。


 マヨネーズがあれば和えるのだが、あれって材料が卵と……油? 酸っぱいのって酢で合ってるのか。割合がわからないが、そういえば以前にタルタルソースを見た。


 くわっ! ブラウのフレーメン現象みたいな顔をしたあと、じいやを振り返った。


「じいや、マヨネーズ作れる?」


「まったく問題ございませんぞ」


 作れる人、いたぁ!!!


 先程預けた女の子と一緒に、じいやがマヨネーズを作ろうとする……が、量がおかしい。


「じいや、もっと鍋で作らないと足りないぞ」


 200人分のカレーがあるんだから、それに匹敵する量のマヨネーズが必要なはず。それを察しないじいやではない。怪訝そうに声をかけたオレに、じいやは頷いた。分かっております、という感じ。


「攪拌する必要がございますので、このサイズで複数回作ろうと考えておりました」


「あ、うん……複数回っつうか、数十回になりそうだから、攪拌は……ブラウに任せるんで、計量だけよろしく」


『また僕ぅ? なんか働くのは負けって感じがするの』


 転がりながら拒否の言葉を匂わせる青猫の腹を踏みながら、笑顔で「じゃあ、カレー没収で」と告げたら、慌てて飛び起きた。ぺろぺろと前足を舐めて顔を洗い、やる気をアピールする。


『作らないなんて言わないよ、主と契約した聖獣だからね』


 だったら文句を言うな。見ろ、隣のヒジリなんて手伝おうとしてソワソワしてるぞ。


『攪拌する容器が欲しいんだよ、自動で混ぜる感じで、こんなの』


 ガリガリと絵を描いてみせる。残念画伯だが、なんとか伝わったらしい。


『主殿、マロンを借り受けるぞ』


「いいよ」


『僕、スパイスで忙しいです。終わってからでいいですか』


 マロンは手一杯だった。こんなに頼りにされたのは初めてと笑っている。マロンは癒し要員決定だな。


「自動攪拌機ができるまでの間、力技で行くぞ」


 オレのビニール袋の中で、ブラウが混ぜる。いや待てよ? ビニール袋が切れると危険だな。白いアレが人々の上に飛び散ったら、ちょっとした惨事だ。リアムの上に掛かったら、前屈みになるかもしれん。だが傭兵のおっさんで想像した途端に、げっと青ざめた。


 下品な妄想はやめよう。ビニール袋を閉じた状態で、前後左右に振ったらどうだ? 中が密閉されてると混ざらないけど、風船状態なら可能だったはず。


 小学生の時の理科の実験を思い浮かべ、じいやが計量……と呼べるかどうか。瓶単位で並ぶ材料に顔が引き攣った。酢が入った瓶、油の入った瓶、山積みで割る途中の卵達。ゾッとするほどの量が割られていく。


 じいやがケーキ屋のように片手割りする横で、潰したり割り損ねて顔を顰める少女がいた。見かねたノアやサシャが手伝いに入り、何とか順調に卵割り作業が進む。まとめてビニール袋に入れて、一気にシェイクした。というわけで、ここから先はヒジリに任せる。出番がなくなった青猫が、口を開いて唖然としていた。


「ブラウ、仕事無くなった」


『僕が役立たずみたいに言わないでっ!』


「今日、何か役に立ったの?」


『うわぁああああ! 主のバカァ』


 泣き真似を始めるブラウに、マロンがおろおろする。優しい奴だ。


「ブラウにも仕事があるっちゃ、あるんだが」


『仕事したらカレー飲ませてくれるの?』


「もちろんだとも。あのマヨネーズをサラダに和えてくれ」


 風魔法なら簡単だろう。オレのビニール袋魔法も散々近くで見てきたし。そう告げると大喜びで走って行こうとして、ふと真顔で振り返った。


『マヨネーズ、カレーにかけていい?』


 目から鱗、そういやマヨラーは食べ物なら何でも掛けるんだっけ? 意外と合うかも……でも異世界に伝えていい料理じゃない気がする。じいやが「おやめなさい」と首を横に振った。リアムが真似する可能性もあるので、先にマヨネーズを入れて上からカレーを掛けるならと条件付きで許可する。


 未来のこの世界で、異世界人が伝えた料理としてカレーにマヨネーズかけたご飯が出てきた場合、絶対にオレが疑われそうだから。ここはブラウ限定にしよう。そういやアイツ、そんな知識どこで……何かのアニメだろうな、うん。

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