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302.甘口カレーはデザート?

 さすがは宮廷で働く人達だ。誰一人として割り込みがない、ぴしっと整列した順番も制服ごとに分かれていた。おそらく内部での順位があるんだろう。使用人の区分は今後学んでおくとしよう。


 ご飯は少量しか用意しなかったので、朝に焼いたパンを添えて提供された。ナンは次の準備に回したい。というか、151人分プラスうちの傭兵分を焼くと400枚は必要だし。ちょっと無理だった。


 ジャック達にはお代わり用の小鍋を用意し、自分達で米を入れて食べるよう指示する。こちらのテーブルでは手を合わせて挨拶し、聖獣の器にも満たして食べさせた。ブラウは甘口を希望したため、明らかに色が黒くなったカレーを流し入れる。


「セイ、そのカレーは色が違う」


「うん。後で味を見てくれる? 甘口なんだよ。辛さがマイルドなんだ」


 説明しながら新作を自分とじいやに注いだ。気分はカレースープだ。やたらシャバシャバしてるのは何故だ? 青蜂蜜と黒林檎が化学変化でもしたか。


 日本では黒カレーもあったけど、どちらかというと黒は辛いイメージだ。ぱくりと口に入れて、うっと声を詰まらせた。ギギギ……壊れた機械のような動きでじいやと視線を合わせる。互いに青ざめた顔で、強引に飲み込んだ。噛む余裕はない。人参らしき野菜が詰まって、胸を叩いて通過させた。


「あっ、まあああぁぁああ、なんじゃこれ!?」


 叫んだことで注目を集めた。だがそれどころじゃない。異常な甘さだ。そう、それは例えるなら飲むケーキのカレー風味……ごめん、例えても理解できない類いだった。


『美味しい、私はこっちが好きです』


 二杯目に突入したスノーが嬉しそうに顔をつっこむ。白いトカゲがやや黄色に染まってるが、まあ後でいい。そうか、果物好きなスノーは甘口派らしい。それもびっくりするくらい甘いやつ……。


『我は辛い方がよい』


『主、僕は思うの。ハンパはいけないなって』


「うっせ! やりたくて失敗したわけじゃねえわ!!」


 青猫の煽りに叫んだオレは辛口を継ぎ足す。両方を混ぜればいけるはず。理論は間違ってないだろ。頑張れ、異世界人は度胸だ。


 よく混ぜて、微妙な黒と茶のマーブル模様を口に放り込んだ。とにかく甘い、その後強烈に舌を刺激する辛味、最後にトドメを刺す微妙な酸っぱさが後味だった。あの材料でどうしてここまで不味くなった?


 げほっ、咳き込んで涙が滲んだ目を見て、じいやはそっとスプーンを置いた。残すなよ、お残し禁止だからな?


「白の聖獣様、よろしければ甘口をいかがですかな?」


『え? いいんですか。嬉しいです』


 あーんと口を開けて、じいやに食べさせてもらうスノー。牙がぎざぎざの蜥蜴に食べさせて誤魔化すじいやに、ぎりぃと歯軋りする。なんて作戦だ。くそ、どうしたものか。


『ぼ、僕もあーん』


 マロンが真似した! これぞ天の助けだ!! 口にそっと入れてみた。微妙な顔をしつつも、あーんが嬉しいマロンは二口目を所望。好都合のはずなのに、すごく悪いことをしている気がした。罪悪感が半端ない。胸が痛いって、このことか。純粋な子どもから小遣いやお年玉貯金を騙し取る親の気分だよ。


「これはデザートか? 美味いぞ、セイ」


 甘口カレーのみを注いだリアムは、平然と食べていく。女の子は甘いものが好きだ、オレも好きだけど……。今後のために「混ぜるな! 危険!!」の文字は必須アイテムだな。


 辛口は概ね好評で、甘口はさらに好評だった。宮廷料理人の間で、カレーの分類について議論が巻き起こるのは数日後である。デザートか、スープか。尋ねられたオレは淡々と答えた。


 ――カレーは飲み物である、と。

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