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301.毒林檎と青い蜂蜜で甘口

 ジャック達のように流し込んで食べるには、米だ。パンは浸して食べるだろうし……いや? もしかしたらスープだと思って流し飲みの可能性大か。唸りながらレシピの2人前を睨みつける。スパイスは100倍ほど用意したので、200人前。


「足りなかったらどうしよう」


「今回は侍従や侍女が中心ですから、問題ないかと」


 一般人がほとんどだから、と口にするじいや。だけど、それフラグだと思う。多分足りない。追加分をすり潰すマロンは、ハンカチで口元を三角に覆ってもらった。鼻も含めて覆った上で、さらにオレの結界付きだ。目が腫れてて可哀想なんだよ。気の毒になったヒジリが舐めて治療し始めた。仲良きことは素晴らしきかな。


「絶対足りないよ」


 断言しながら、慎重に計っていく。結界に匂い遮断をつけて、ついでに粉塵を防ぐ効果も追加した。現在のオレは、防護服に身を包み爆薬を調合する自衛隊員のよう……自衛隊が危険みたいに聞こえるな。花火の調合師が近いかも。


 ん? 火薬の調合といえば……ヴィリが妙な道具を持っていたな。確か火薬を作るときに使ってたアレ、石臼に似てると思った。


「ヴィリだ!」


 突然叫んだオレに、視線が集中する。結界のおかげでカレー粉塗れは免れた聖獣達が、首を傾げた。


「爆弾魔のヴィリが、火薬を調合してた道具、あれはカレー粉作りに応用できるぞ」


 物騒な道具が、平和を導くカレーに役立つ。にやりと笑ったオレだが、ここではっと我に返る。ヴィリはジークムンド班にくっついて、北の国だ。北の国から彼を回収するなら、当然他の傭兵達もお持ち帰りしなくてはならない。彼らにカレーを隠し通すことは不可能で……またカレーパーティーだ。


「よい道具がありましたか」


「道具はあった。だがそれを入手するために、再びカレー三昧をしないと……傭兵50人のカレーって、何人分用意すればいいと思う?」


 じいやは笑顔のまま固まった。だよな? この重労働で200人分がやっとだぞ。ジャック達の食べっぷりを見るに、3倍以上は必要だ。最悪、今日と同じ量の4倍を用意する必要があるかも知れない。しかも今回は免除された米の準備込みで。


「……明日のことは明日だ。目先の作業を終わらせるぞ」


「かしこまりました」


 ここに異論を唱える者はなく、聖獣を含めたカレー粉の製造班は必死にスパイスと戦う。これなら北の国の貴族制圧の方が楽だった。


 夢のカレー布教のため、オレは妥協できん。200人分のスパイスを、ビニール袋魔法で混ぜて用意し、そこへマロンが擦り終わった50人分を足した。


「前回と同じ体制で、カレーの材料をカットして投入! 準備急げ!」


 聖獣達がいそいそと庭に飛び出す。芝生のある庭先へ、ヒジリがかまどを10個ほど量産した。鍋やフライパンをあるだけ並べ、戻ってきたスノーが鍋に水を満たす。彼に頼んだ果物はリンゴに近い物で、幸いにして外側が黒い林檎が手に入った。


 白雪姫に出てきそうな毒林檎の外見だが、中身は普通だったのでカットして投入。悲鳴をあげるスノーは、いくつかの林檎を死守した。安心しろ、お前の分まで取らないから。


『主様、ひどい』


「酷くない」


 林檎と蜂蜜だったか? 蜂蜜は厨房から奪ったので問題なし。色が青いけど、何か? 気にしたら負けだ。これもドバッと流し込んだ。これで甘味と酸味が加わり、前回より辛くない! 多分、きっと、おそらく!!


 茶色いスパイスは日本と同じ見た目だ。大抵の色の食べ物はカレー粉の色に染まる! 林檎を粉砕し蜂蜜を入れた後で、野菜を煮込む。肉は別鍋で準備中だった。黒酢で柔らかくする工程がはいるので、別鍋作業が確定なんだよ。


 兎肉をねちゃねちゃと捏ねるライアン、野菜をカットするブラウと連携し、手際よくノアが煮込んでいく。マロンはヒジリの治療で目が治ったのか、笑顔でシャモジを手にした。最初にかき回す手伝いを頼んだ影響で、いまだにこの役割は自分の担当だと思っているらしい。否定することもないので頑張ってもらおう。


 ライアンが捏ねた兎肉をさっと水に潜らせ、鍋に投入するサシャがくしゃみを一つ。カレー粉はラップ魔法で密閉済みだ。同じ失敗は繰り返さないぜ。というか、これマジで武器に使えるな。唐辛子の催涙弾開発をヴィリに頼んでみようか。殺傷能力抜きで。


 10個ある鍋のうち、3つは甘口用に林檎と蜂蜜入り。残りはそのまま辛いスパイスで作ることにした。どうも反応を見る限り、辛いと顔を顰めたのはじいやとオレだけ。聖獣はブラウくらいだ。後は問題なさそうだった。辛口人口が多いと踏んだが、前回食べたジャック達やリアムには甘口も試してもらう予定だ。


 左から3つ目までが甘口と。メモしておかないとな。さらさらと記載した紙を置いて、スパイスを正確に計量していく。右側の鍋から順番にスパイスを投入した。かき回すシャモジが足りないので、今回は調理場にも応援を頼んでいる。料理人分も追加されての151人だった。


 料理場を空にしていいのか尋ねたところ、執事セバス経由で皇帝陛下の許可を得ていた。抜け目ないな。騎士や兵士には、昨日のうちに「明日の昼食は休業」の通知が出された。さらに外注でパン屋や軽食屋台が出張するらしい。手際の良さはピカイチだった。


「後は追加分だな」


 はっきり言おう、鍋が足りない。金属加工が得意なのは南の国だったか。巨大鍋の注文をしておけばよかった。あの時頼んだら今日は間に合ってたよな。まあカレー粉が作れると思わなかったから仕方ないけど、セバスさん経由で発注しておこう。


 今日は、チート魔法でズルをする。ビニール袋魔法で、鍋5つ分の野菜と肉を煮込むのだ。ここでイメージを変更する。ビニールは火で溶けてしまうため、新しいイメージはシリコン! 熱に強く、冷凍もこなせる!


 問題は透明のシリコンケースのイメージが作れなくて、不透明だった。しかも赤。これに関しては変更が難しい。テレビで観た料理番組のシリコン鍋でレンチンシーンが、赤いシリコンだった。あの映像が脳裏にこびりついて、シリコン鍋イコール赤なのだ。諦めて内部の野菜と肉を温めることに専念した。カレー粉を混ぜてシェイクする。


 空中でくねくねと踊る赤い球体が5つ――誰が見ても危険な生物だ。宇宙からの飛来物体にしか見えない。だが中はカレーという恐怖……うずうずと尻尾と尻を振るブラウから守るため、周囲を結界で囲った。ちなみにヒジリも髭がピンとしていたが、視線を向けると『我は奴とは違う』と否定された。本能だから仕方ないだろ、たぶん。


 結界に透明マント的なイメージを追加して、空中の赤いシリコン鍋っぽい球体を消し去る。視覚の暴力になるといけない。そこへリアムがセバスと共に現れた。慌てて駆け寄る。


「リアム、こちらへどうぞ」


「ありがとう。皆の分も作ってくれて感謝する」


 まだ言葉が固いけど、だいぶ表情が柔らかくなったな。人前で取り繕う部分が減ったせいだろう。執事だからエスコートもOKなんだが、次からはオレを呼んでくれ。これでも婚約者なんで。


「キヨ様、お手間を取らせてしまいました。よろしくお願いいたします」


 セバスが使用人代表で挨拶したため、セルフサービスだということ。左側の3つは味が違うことを説明した。甘口の方、味見るの忘れてたけど……問題ないよな?

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