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290.戦場のティータイム

 うろうろする巡回の兵士から身を隠しつつ、息を潜めて待つ。それが普通だと思うが、結界内はティータイムだった。皇帝陛下がご一緒ですから、お茶の時間は必須です。


 じいやが手際よくお茶を用意し、オレが用意したテーブルセットで全員が寛ぐ。ちなみにジャック達の懇願により、円卓は2つ用意された。リアムにクッキーを食べさせながら、時々周囲の様子を窺う。結界が何らかの理由で発見されて、槍や剣を突きつけられてたら怖いし。


 もちろん囲まれたら転移して逃げるか、反撃して全滅させるけどね。そこは容赦しないよ。


「セイの焼き菓子は美味しい」


「北の国で厨房借りて焼いたから、まだ作りたてだぞ」


 初めて作った時はオーブンが爆発したし、次の時は真っ黒な炭を量産した。3回目は膨らましすぎて1枚にくっついてたっけ。懐かしいな。4回目は厨房の使用を却下されたから、外で作った記憶が……。


 今となっては懐かしいが、当時の厨房の人には申し訳ないことをしたと思う。クッキーが作れるようになってからは、お詫びに分けてたけど元気かな。そんなに昔のはずはないのに、この世界に来て一年弱とは思えないほど、ハードな日常だった。


「あーん」


 オレが何かに気を取られたのを察したように、リアムがクッキーをオレに差し出す。素直に口を開けて齧り、残り半分はリアムの口に入った。


「え? 間接キス?」


「ち、違うぞ」


 また皇帝陛下口調ですが? と笑いながら頬を突っつく。笑う彼女が紅茶を口に含み、オレも喉を潤した。


『僕もあーんがしたいです、ご主人様』


「偉いぞ! マロン、お遣い出来たな。さすがはオレの聖獣だ」


 褒める時は全力で。しかもナイスタイミングだ。お茶が一段落したところで足元から現れたマロンは、服のポケットから紙を取り出した。それを受け取りながら、マロンを膝に乗せる。嬉しそうな彼の口に「あーん」とリアムがクッキーを押し付けた。素直にぱくりと食べる。


 机の上で、白いチビドラゴンが足をばたつかせる。兎のあれだ、足で地面を叩く行為に似てる。不満があるぞ、私も欲しいと訴える彼に、リアムが同じようにクッキーを食べさせた。くそ、そんな贅沢させるのは腹立たしい。リアムはオレの嫁だぞ。


 ぎろりと睨んで、畳まれた紙を開いた。無事であること、まだ戦闘に入っていないこと、レイルとの連絡がうまく取れていないことが記されていた。読み終えた紙をベルナルドに渡すと、ジャック、ノア、サシャ、ライアンの順で目を通す。


「さくっと救い出して、アーサー爺さんの家に転がり込むぞ」


「「「おう」」」


 傭兵連中は深く考えずに返事をし、ベルナルドはうーんと唸った。リアムは目を輝かせている。


「戦うのか? 私も協力できるぞ」


皇帝陛下(リアム)って戦えるの? ああ、でもシフェルが昔、お前より強いって言ってたか」


 初めての謁見の後で、そんな話を聞いた。あの頃から聖獣が加わってオレの魔力量は増えているが、今はどうなんだろう。リアムの手を汚す気はないけどね。


「じゃあ、敵の撹乱をお願いしよう。ベルナルドとジャック、じいやを付けるね」


「承知した」


 意外にもベルナルドがあっさり頷く。それだけリアムの魔力が強いのか。


「念のために結界はオレが張っとくよ。薄い水色にする。中からは撃てるけど弾は外から通過しないようにして。後は……紫外線カットかな」


 最後のは、日焼け防止だ。リアムは男として育ったから気にしてないけど、その象牙の柔らかそうな肌が日焼けで痛むのは心苦しい。美白だからいいとは思わないが、普段日焼けしないリアムが真っ赤に焼けたら可哀想だ。


「市街戦?」


 おい、自動翻訳バグってるぞ。あーとかうーと唸りながら、説明を省略した。


「オレはノアを連れて潜入。リアム達は逃げてきた子を結界の外側で保護してくれ。盾にしても結界が割れることはないから」


 リアム達の結界に入れる方法も考えたが、万が一にも敵が子どもと一緒に入り込んだら地獄だ。後ろに匿う形で十分だろう。


「ライアンはここで補佐。遠距離からの狙撃による援護を頼む。サシャはライアンの護衛ね」


 頷くとライアンは周囲を見回した。茂みの上の木ではなく、離れた位置にある小屋に向かった。あの場所の方が狙撃地点に適しているらしい。


『主ぃ、僕もクッキー』


「遅い、もう移動するぞ」


 出てくるのが遅いんだよ、何してたんだ。皿の上に残ったクッキーを、ざらりとブラウの口に流し込んだ。ぼりぼりと噛み砕きながら、彼が思わぬ朗報をもたらす。


『教会からここまで連れてきちゃった』


 僕を褒めて。寝転がりながら予想外の発言をするブラウに眉を顰める。何をどこから連れてきたって?


『ほら、主が欲しかったのってコレでしょ?』


 寝転がって腹を見せる青猫が指し示したのは、頭上に不自然に浮かぶ畳だった。あれだ、アラジンの空飛ぶ絨毯っぽい感じだが……畳。


「畳?」


「上に何かいるぞ」


 言われて下すように頼んだところ……結界の外側に子ども達を含む数十人が並んだ。


「状況が理解できてないんだが」


『主はどうせ全員助けるって言い出すと思ってぇ、僕はマロンの後ろから忍び寄って獲物を捕獲したのさ』


 獲物じゃねえし、捕獲するな。マロンは愕然とした顔で振り返った。


『僕の手柄を横取りしたんですね!? ブラウのばかぁ!!』


 ポニーの蹴りが腹に決まり、ブラウが悶絶する。と言っても、どうせフリだろうが。ここで順番を間違えると事件だ。マロンを引き寄せて鬣を撫でながら「よくやった」と褒める。ちゃんと役に立てたぞとスキンシップで示した。


 それから転がるブラウをモフって顔を腹に埋める。すーはーして両手で褒め称えた。


「キヨ、忙しいとこ悪いんだが……彼らを保護した方がいいぞ」


 ジャックの提案で、慌てて結界内に取り込んだ。畳の上でビクビクしていた子ども達はブラウを見ると目を輝かせた。逃げる前に捕まり、耳を掴まれて撫で回される。尻尾もがっちり握られていた。


『あ、主ぃ』


「がんばれ、ブラウは出来る子だ」


 子守は任せた! 丸投げして、ライアン達に戻るよう合図を送る。じいやは複雑そうに切り出した。


「事件は解決してしまいましたな」


「本当だよ。勝手に動いてるのはいつもだけど、珍しく先行されちゃった」


 嘆くことではないので、気持ちを切り替える。


「作戦変更。アーサー爺さんのところへ転移します。準備して、はい」


 獣人と子ども達は手を繋ぎ、足元に描いた魔法陣に飛び乗る。それを玄関ホールに転移させて、戻ったライアン含む傭兵達を飛ばし、次にリアムと手を繋いでベルナルドやじいやと消えた。


 教会もどきは誰もいなくなったが、それを知らない兵士達は未だに取り囲んでいるだろう。敵兵力の削減も出来たという一石二鳥だ。


「うわっ、こら移動しろ」


 転移で現れた獣人達の上に傭兵が落ち、最後にオレ達が重なった。すぐさま助け起こされたが、下敷きになった獣人は無事か?! 覗き込んだところ、子どもや女性を抱きこんで守った獣人のおかげで、ケガ人はほぼゼロだった。かすり傷程度は数人いたので、絆創膏もどきを貼り付けてお詫びしておく。


「キヨヒト様ですか?」


「ああ、久しぶり。ってほど離れてないけど。アーサー爺さんを助けにきたぞ」


 目の前に現れたジャックの祖父ににっこり笑い、リアムを抱き寄せた。

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