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287.言いたい奴には言わせとけ(2)

 ぱっと整列した傭兵の状態を確認していく。ジークムンドの号令ひとつで外に並んだ彼らは、かすり傷程度しかなかった。1人だけ剣で刺された奴がいるが、絆創膏もどきで治る程度で良かったよ。もし死者が出てたら、騎士団壊滅の危機だったぞ。


「オレの実家となる北の国で、貴族連中が王族の資産を持ち逃げした。リストに名のあるすべての貴族を捕まえ、彼らの財産を差し押さえることが仕事だ。当然だけど、普段の仕事とは別にボーナスが出る!」


 ボーナスの額を奮発してやり、傭兵達の士気を高める。テーブルで契約書を作っていたベルナルドの前に並んだ連中が、次々と署名した。血の臭いがする奴も並んでるんだが?


「ちょい待て、お前は腹を刺されたんじゃなかったか?」


「薄皮一枚っすよ。ボーナス欲しいっす!! 妹が結婚するんすよね」


 金が必要だと告げる青年の顔色をじっくり確認し、迷った末、触れたままの腕経由で治癒した。理由が家族のためなら協力してやりたいし、兄としての面目も理解できる。何より、ケガを隠して参加されたら危ないからな。


「あ、ありがとうございやす! ボス」


「じゃあ、転移するぞ。点呼」


 ジークムンドから数を数えていき、10人で後ろの段になる。2列、3列、4列と端数……43人ね。転移の上限にチャレンジしなくて済んだな。


「ボス、食い物は?」


「用意する。非常食だけ携帯しとけ」


 収納魔法が使えない奴も多い。というか、使える方が珍しい。リュックにポーチ、肩掛け鞄もいるが……それぞれに仕事道具を入れたカバンを手に集まった。非常食セットは普段から携帯している。不測の事態で生き残るための知恵らしい。オレも最初の頃は言い聞かされたっけ。


 懐かしく思い出しながら、そういやジャック達の引き上げ時期を考えないといけないことに気づいた。東の国に派遣しっぱなしだ。北の国が一段落したら、すぐに向かうか。


 先程テーブルに置いた絆創膏もどきは2枚しか使われておらず、溜め息をついて全員の手に1枚ずつ握らせた。大急ぎでカバンに詰めていく。


「いいか? ケガしたら使え! 道具を惜しむな。命は買えないけど、道具はいくらでも買える。順位を間違うなよ」


「「「了解」」」


「「「「あいよ」」」


 騎士団のような揃った敬礼ではなく個々に返事を寄越す。これが居心地良さの理由だろうな。オレは規律正しい生活が苦手なんだと思う。だから日本での生活が馴染まなくて引きこもった。そう言う意味で、なんでもフランクでいい加減なコイツらと一緒は肩肘張らずに済む。


「転移魔法陣の中に全員入れ。魔力の消費はオレがするから、勝手に魔力を流すなよ」


 転移魔法陣に見えるけど、実際のところ魔族召喚のゲーム魔法陣だからいい加減だ。勝手に魔力を流しても発動しない。一応注意しておくと、信憑性が上がるかな? 程度の警告だった。ベルナルドとオレも乗ったところで、ぼんやり光る魔法陣の周囲に結界を張る。誰かこぼれ落ちると事件だ。


「それじゃ……」


 行くぞ。そう口にする寸前、魔法陣に向かって何かが撃ち込まれた。矢か銃弾か、確認する前に転移魔法が動き出す。


「くそっ、ヒジリかブラウ。探ってくれ。犯人は殺すなよ」


『承知した』


 あ、この声はヒジリだ。安心、安全、確実がモットーの黒豹の声に、オレは気兼ねなく転移した。



 出迎えのシフェル達の驚いた顔に、オレは後で説明すると笑う。それから回収すべき財産や貴族の似顔絵付き年鑑を、傭兵達に手渡した。


「わかってると思うが、契約遵守! ケガは可能な限り避けて、犯人は捕獲だ。どうしても無理なら死体の回収も止むなし! 状況次第でボーナスのさらなる追加がある」


「「「「おう」」」」


「気前いいな、ボス」


 ジークムンドが揉み手で笑う。熊というより、前科数十の凶悪犯みたいだぞ。王都の地図を見せた途端、彼らの表情が険しくなった。真剣にルートを検討し、人数を割り振っていく。手柄は全員分を集めて、後で頭数で割ることに決まった。功を焦って無理したら、逃がす可能性もあるし、いい案だと思う。


 勢いよく散開していく彼らを見送り、オレは待ちかねていたシフェルに向き直った。


「どう言うことですか? 皇帝陛下の命令書を、騎士団が無視したとでも……」


「だから説明するよ。ひとまずお茶の用意して」


 実家である気軽さも手伝い、そう告げるとシンが手配を受け持った。ヴィオラは、リアムやパウラと中でお茶を楽しんでいるらしい。そこへ合流する形となった。歩きながら、手短に説明する。ベルナルドが双方の状況を客観的に分析して付け加えたことで、シフェルの口元に笑みが浮かんだ。


 これ、危険な信号だな。


「処分は任せていただきましょう」


「当然、騎士団長の領分を侵したりしないさ。オレは補償して貰えば構わないから」


「ええ、騎士達の給与を削って払いますとも」


 げっ、給料カットか。騎士は貴族出身者ばかりだし、生活に困ることはないだろ。遊ぶ金が減る程度の話なら、別に問題ないな。頷くオレの後ろで、ベルナルドが被害状況を事細かに報告していた。穏やかに微笑んでいるような顔で、鬼のシフェルが動き出す。きっと騎士達は地獄を見るだろう。


「早朝訓練に飛び込んでジークに殴られた奴、後で貸してくれ」


「構いませんが?」


「早朝訓練が好きみたいだからな、本当の訓練に参加させてやるよ」


 どうせ帰ったら毎日行うのだ。そこに動きの鈍い騎士が1人加わったところで、害はない。リタイヤしない程度に、遊んでやろう。にっこり笑って無邪気さを装うと、ベルナルドがごほんと咳をした。


「我が君が手を下すとなりますと、騎士の命の保証ができませんな」


「やだな、ベルナルド。オレは穏やかで協調性豊かな日本人だぞ。相手を潰すわけないだろ」


 潰さずに使い倒すくらいはするけど。言葉にしない部分を感じ取ったシンが「当然だ」と頷き、シフェルも同意する。この場で反対意見が出ない時点で、もう決定事項だった。


 お茶会は温室の中で行われているらしい。ガラスの扉を開いて入ると、からりとしていた。想像した密林の高温多湿ではなく、ハワイ辺りのからっとした心地よさだ。そりゃそうか、王族がお茶をする場所に選ぶくらいだから、居心地の良さは大切だろう。


「リアム、ただいま」


「おかえり、セイは余の……じゃなくて、私の隣に座って」


 可愛いなぁ、意図せず漏れた言葉にリアムが赤面する。先程とドレスが違うんだけど? 挨拶用に桜色のドレスを着てたのに、今はオレンジと黄色の中間色だった。上質の絹で、つるんとしている。


「着替えたの? これも似合うね」


 さらりと褒める。本音だから飾らなくても出てきた。頬を赤く染めたリアムの向こう側にパウラ、ヴィオラと並ぶ。じいやはお茶のポットを手に給仕を始め、侍女達を追い払ってしまった。


 円卓は順位がないから好ましいと聞いたことがある。実際、上座の位置が分からないけど……きっとリアムの位置が上座か。皇帝陛下だし。


 オレの隣からシン、シフェル、クリスティーン、ベルナルド、ひとつ開けて、ヴィオラ……あれ? 


「レイルはどうしたの」


「貴族を一網打尽にすると息巻いて出ていったぞ」


 ダメ親父の所為で苦労したけど、元を辿れば焚きつけた貴族の所為だ。やっつけたい気持ちは分かるので、頷いた。


「それで、セイが傭兵を連れて来た理由を教えてくれないか?」


 リアムに切り出され、シフェルを睨むが首を横に振る。誰だ、漏らした奴……今すぐ名乗り出れば、軽く首を絞めるくらいで勘弁してやるぞ。だが全員が首を振った。その足元で毛玉が発言する。


『僕ぅ、気の利く猫だからさ』


 お、ま、え、か!?

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