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284.残るは借金返済とざまぁ

 休憩が終わったオレ達だが、謁見の間に移動するかどうかで一悶着あった。考えてみたら、この場で用が足りるんだよな。オレが家族にリアムを紹介して、婚約者であると公式に認めてもらう家族会議だった。王族と皇族の婚約を、貴族に承認してもらう必要はない。


 国の命運を揺るがすような婚姻なら分かるが、この時点で同盟国に息子を婿入りさせるだけの話だ。敵国に嫁がせたりするわけじゃないから、貴族連中は蚊帳の外だった。もちろん、彼らがそう考えるかは別だけど。


 二世代に渡って公私混同して、王家を格下に扱ってきた貴族がまともに育つわけがない。その子供も察して然るべきレベルだった。オレに言わせれば王家が金を借りたとして、それを順調に返している時点で対等なんだよ。借金の返済が滞って初めて請求したり、高圧的に出る権利が発生するわけ。義務である返済が滞っていない状況で、お前らが上に立てる訳ないだろ。


 現国王にしたら、幼い頃から横暴に振る舞う貴族を見て抑え付けられて育ったわけだ。感覚が歪んだのは義父のせいじゃない。シンもそうだけど、ヴィオラも我慢が限界近い。よく堪えていたと思うよ。もういいじゃない、この辺で全額返済を突きつけてやれば――。


 ここまで話したオレは、大袈裟な所作で肩をすくめた。リアムは次のセリフを予見したのか、口元が緩んでいる。


「で、別に連中と顔合わす義理はないけど……逃げたと思われるのも癪だし。ざまぁ展開のために、広間に戻ろうか」


 提案にシフェルは頷いた。逃げるなんて選択肢は、中央の国の騎士団長に似合わない。それにベルナルドも将軍職を預かった脳筋だ。当たり前だと息巻いた。レイルは部下から受け取った情報を握り、にやりと笑う。やる気十分だな。


「ざまぁ! 楽しみ」


 浮かれた様子のパウラと、リアムがハイタッチする。それ、異世界から持ち込んだ習慣だろ。まあいいけど。無言で従うと示すじいやは、オレの淡い金髪から滑り落ちそうな簪を直した。


「というわけで、オレ達の娯楽のために演技よろしく」


「パパって呼んでくれたら頑張れそうな気がする」


「公式の場以外は、お兄ちゃんで」


「あら! ずるいわ。私なんてまだお姉ちゃんと呼んでもらってないのに!」


 ぶれない北の王家御一行に、オレは苦笑いした。隣のリアムがつんと袖を摘んで、こっそり耳元に唇を寄せる。ひそひそと告げられた提案を、そのままぶつけてみることにした。


「パパ、お兄ちゃん、お姉ちゃん。オレの婚約、認めてくれるよね?」


「「「もちろんだ(よ)」」」


 本当にちょろい一族だ。もしかして亡き前国王も同じタイプか? だから貴族に対抗できず足元を見られたわけだ。借りた金の利率が尋常じゃなかったし、契約だからしょうがないけど……この際だから貴族との悪縁を切ってやる。


 当初の目的である婚約前の顔合わせは終わったし、家族の承認もとれた。残るは借金返済とざまぁだ! 


「気合入れていくぞ!!」


「「「「おう」」」」


 戦に出陣するような勢いのまま、ぞろぞろと広間に戻った。誰もいなくて静まり返ってるけど……え? 王族より後に来るつもり? 先ほどと並び順を変更することにして、急遽立ち位置の調整をした。この時間を無駄にする理由はないよな。


 国王の補佐でレイルとシン、ヴィオラが玉座の脇に控える。重臣が並ぶはずの位置をオレとリアムが陣取る。もちろんメッツァラ公爵夫妻やじいやが続き、パウラはさり気なくリアムの後ろに控えた。貴族側に一番近い場所に、護衛のベルナルドが立つ。


 聖獣は迷ったが、玉座前の階段やオレの周囲に適当に散らばってもらった。のったりとど真ん中で寛ぐ黒豹を筆頭に、全員がいつものチビバージョンより大型化した。マロンは普通に馬サイズだし。


「あ、マロンとブラウは物理的に潰してきたの?」


『僕はぁ、ちょっと蹴飛ばしただけ』


 蹴飛ばした先が影なのは間違いないな。オレの足下は墓場かよ。ブラウはくねくねと歩いてきて、ごろんと腹を見せて転がった。くそっ、卑怯だぞ。猫のモフ腹を……無防備に。


 ぎこちなくしゃがんで、手を触れたら終わりだ。もうモフる以外の選択肢がなかった。全力で撫でて、なんとか離脱する。リアムが笑いながら一緒に撫でていた。パウラは混じらないのかと思ったら、青い猫はちょっと……と敬遠された。


 じいやがさっと取り出したブラシで、服についた毛を落としてくれる。悪いね、手間をかけて。


「おや、お早いですな」


 にやにやしながら遅れて入ったアホラ公爵に、国王がぴしゃりと言い渡した。


「すでに伝令を送って10分経つ。遅刻した理由は何か」


「……伝令? 知りませんな」


 惚ける気のようだが、どうでもいい。義父である国王が強気な口調で話したことに、公爵は鼻白んだ顔をした。今まで言いなりの気弱な王と侮ってきたが、巻き返しを図るような態度だ。他国の皇族がいるからだろうと考え、舌打ちした。


 アホラ公爵に従う貴族達は、彼に媚びへつらう。周囲を囲んで、まだ自分達の立場が上だと勘違いしていた。最初から王族は特別で、聖獣の契約者だ。貴族のすげ替えがきく頭と違うのに、どこまでも増長しきっていた。アホラ公爵と目が合ったヴィオラが嫌悪の表情を浮かべたのも気になる。


「へぇ、この国は王族の伝令を無視できる貴族がいるんだ? 知らなかったな。中央の国なら処罰の対象だろ?」


 オレは無邪気さを装って、シフェルを振り返る。大きく頷いた彼のブロンズの髪がさらりと揺れた。


「ええ、もし公爵たる私が陛下に対し同じような受け答えをしたら……そうですね、爵位を降格されても仕方ありません。他国の使者や王侯貴族の前で、主君の顔を潰したのですからね」


 わかってんのか? そのくらい大事件だぞ。と突きつけるつもりが、相手が馬鹿すぎるとスルーされてしまう。他人事のような顔で「はぁ?」と失礼な呻き声を出した。


「他国ではどうか知りませんが、北の国は借金まみれの王族が我々に頭を下げて金を借りる状況……」


「先代の話であろう! そもそも民の救済のために支出した金を、お前達が……」


「お兄ちゃん、落ち着いて」


 思わず反論したシンに、オレがにっこりと笑った。右手の指をひらひらと動かして見せると、合図に気づいたじいやが一礼する。


「ご用意ができました」


「じゃあ、いっちゃおうか」


 ぱちんとオレが指を鳴らし、途端に紺色の毛氈を埋め尽くす量の金貨が現れた。じいやが出した風を装った、オレの軍資金だ。全額出すために、事前にバラしておいて正解だった。やっぱり袋に入った状態じゃ、イマイチ迫力に欠ける。金貨の山が崩れるが、それでも上から注ぎ足した。


 きっちり利息まで払っても足りる額だ。オレの個人資産が尽きるが、何ら問題はない。あとで補填する方法があるからな。それでこそ、ざまぁだろ。


「お前らに借りた王家の借金、これで返済完了だ。さてと……何から始めようか」


 皇族に対する無礼、王家に対する非礼、聖獣を侮ったこともか。過去の悪行をずらりと並べたら、ここにいる全員の首を刎ねても足りないな。事情を知ってそうな家族は対象にして、嘘発見器があれば便利だけど。その部分の判定は、レイルの情報網に任せよう。

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